今年の広島での平和記念式に、アメリカのルース駐日大使が参列するとのニュースを読みました。これまでの記念式には、核保有国の中でアメリカ・フランス・イギリスの代表は参列したことがなかったということです。オバマ大統領が昨年の四月にプラハで行った演説『アメリカは核兵器を使った唯一の核保有国として道義的責任がある』という考えを反映した形で、参列することになったようです。核のない平和な世界の実現に向けた確かな一歩となることを心から願います。
平和という言葉に重ねて思い出すのが、パブロ・カザルスという音楽家のことです。
1971年、世界的なチェロ奏者として有名だったパブロ・カザルスが、それまでの41年間の沈黙を破り、国連の場で、故郷であるスペインのカタロニアの民謡『鳥の歌』を演奏するという出来事がありました。知っておられる方も多いかと思いますが、この時のカザルスは90歳を超える年齢でした。スペインの内乱で悲劇の戦場となったカタロニアがカザルスの故郷でした。この内乱の中で、カザルスは、戦争の中で犠牲となった多くの人の死を見つめ、自らも難民としてフランスに亡命することになります。やがて内乱は終わり、スペインはフランコ将軍が独裁者として治める国となります。そして世界の国々がそのスペインを承認していくのを見て、カザルスはその不合理に対する抵抗として、公での演奏を一切拒否することにしたのです。そのカザルスが、41年振りに国連の会議場という公の場に立ち、演奏をしたのです。
ガザルスは、演奏の前に『鳥の歌』の紹介をしました。 「故郷カタロニアでは、鳥は ピース(平和) ピース ピース となきます」 と語り、人と人とが殺し合うことのない平和な世界の大切さを切々と訴えたそうです。
この演奏された『鳥の歌』<カザルス自身のチェロの独奏>を聴いて、改めて平和の意味と大切さを考えてみたいものだと思っています。
追伸:カザルスは、次のようなことも言っています。
学校では、いつ 2+2=4以外に、子どもがどんな存在なのかを教えられるのだろうか。ひとりの子どもが やがてシェークスピアのようになり、モーツアルトのようになる存在であるということを。自分が そんな可能性のある存在であることを知った子どもは、自分と同じように隣の子どもの存在を大切に考えるようになるのではないか。
一人一人の子どもが、無限の可能性をもち、かけがえのない存在である。また、そのことを子ども同士が認め、お互いの存在を大切に感じ合う。とても大切なことだと思います。世界という広い枠の中で、国や人種を越えて、お互いにその存在を理解し大切に考えることのできる「平和」な関係を築いてほしい…カザルスはそんなことを強く願っていたのではないかと思います。