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AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

郡山七二と小山曲泉の眼窩内刺針の相違点と私のやり方

2025-05-01 | 眼科症状

1.郡山七二の眼窩内刺針(「針灸臨床治法録」天平出版、昭和48年刊より)

現在、「針灸臨床治法録」は絶版で、古書にしてもなかなか入手しづらいので、同書の内容をなるべく忠実に収録した。


1)その発端     


郡山七二(1893-?)の眼窩内刺針という発想は大正8年から始まった。倉内末正医師の指導を受け、また動物実験(兎、犬、猫)を使って眼窩内刺二十数回の実験第一歩を踏み出した。その間なんらの副作用はなく、技術的にも大した支障もなかった。この結果を受け、大正10年に初めて人体に採用した。その後、幾人かの患者に実施して、ある種の病気にある程度奏功することも判明したので、大正13年8月、毎年夏に行っていた実地講習会において、この眼窩内針法を初めて発表した。

当時の針灸師の反響としては、奇抜なやり方だとして、その真偽さえ疑われたのだが、次第に行う者が増えていった。


2)眼窩内刺針の理論と刺針上の注意

 
眼球には4種の末梢神経が通過ないし所在しており、また眼球の運動を含む数個の筋群その他がある。もしこの眼窩内に針を刺入できたら、ある種の疾患に、ある程度奏功しそうだと考えた。

眼球と眼窩の間には、小指の先が入るほどの間隙がある。 この間隙内には筋・脂肪・結合識など柔軟な組織があり、針は別段の抵抗もなく案外容易に入る。ただし2~3㎝くらい張った時、骨に突き当たる場合が多い。これは上眼窩なら針尖が上の、下眼窩ならば針尖は下の眼窩壁に突き当たっていることによるから、ちょっと針を戻して、上手に操作しつつ静かに入れてやると、針が眼球の壁に沿って少し彎曲しつつほとんど無感覚、無抵抗で入っていく。上眼窩には割合入れやすいが、下眼窩は眼窩壁面に凹凸が多いので、余程練習しないと深刺は難しい。
針は1~2番針の、なるべく柔軟なものがよい。(ステンレス針などは硬い)。針が眼球内に入ることは避けるべきことである。針先が眼球に触れた時の感覚を動物実験でたびたび実験してみたが、何となく針先がゴム製品に触れている感じで、軽い抵抗を感ずるのですぐ分かる。


3)刺入部位

 
だいたい3部位で事足りる。疾患に応じて、内眦(ないし 内眼角)部、中央部、外眦(がいし 外眼角)のいずれかに限定して選択する。中央の針は、施術数十分後に紫色の瘢痕を生ずることがある。上は眼窩上動脈、下は眼窩下動脈が中央を貫通していることが原因だと考えた。その後はこれらの動脈を避けて刺入するようになってから、その種の失敗は一回も犯していない。

上眼部でも下眼部でも、中央部の針は1㎜ほど内または外から針を入れ、2㎝ほど深部で神経に触れる角度で入れてやると、血管に針が刺さらぬので出血しない。

          

4)主な適応症


①眼精疲労:もっともてきめんによく効く

②ノイローゼ
 すぐれた精神安定作用がある。刺針点は、前記の眼精疲労とともに、内眦部に1㎝ほど1本刺すだけでよい。
③三叉神経痛
 第一枝痛:前頭神経痛に有効。上眼窩中央の針で2㎝刺入。前頭神経に当たれば、前頭部に響きを感ずる。
 第二枝痛:下眼窩神経痛には、下眼窩中央の針で、2㎝刺入。
④仮性近視:上内眦部と下内眦部を選択
 

2.小山曲泉の掃骨法による眼窩内刺針

小山曲泉著「神経痛掃骨針法」明治東洋医学院出版部(昭和53刊)も絶版である。古書で入手するにも非常に高価である。

小山曲泉(1912-1994)は、掃骨針法で知られている。掃骨針法とは、筋の骨付着部対して10番程度の針で、骨を削るように深刺する技法のことである。小山は、郡山七二より19歳年下であり、郡山の影響も強く受けつつ、掃骨という手技で眼窩内刺針を行うことを考案した。


1)掃骨針による眼窩内刺針の理論

   
眼精疲労を訴える患者に対し、眼球そのものを押圧するのと、眼窩内に手指を折り曲げて按圧するのと、どちらが気持ちよいかを聴取すると、文句なしに後者の方が気持ちよいとの返答が得られる。すなわち骨を圧重した方が気持ちよいらしい。

これは三叉神経の第1枝、第2枝の末端がそれぞれ眼窩上神経、眼窩下神経となって 眼窩の骨に分布し知覚をつかさどっており、過労・ストレス・循環障害などで神経障害を惹起 するものと考えればよい。掃骨針法の場合、眼精疲労といより眼窩神経痛に対する刺針法ともいえる。

2)刺入部位


繁用するのは上眼窩が一番多い。同時に承泣、内眦の睛明、外眦の瞳子髎等を併用する。掃骨針ではあるが眼窩内刺針では10番ではなく3~5番針を用いる。圧痛の方向に骨の変性を探り、コツコツと軽く雀啄する。そこには必ず快痛のヒビキがある。


3)治療効果


掃骨方式の眼窩内刺針を行えば、涙目・かすみ目・痛み眼等の重圧が一挙にとれる。


3.小橋正枝先生への質問と回答

今日において掃骨針法伝承者の代表といえば大阪市で開業されている小橋正枝先生だろう。一昔前、メールで質問したことがあった。眼窩内刺針で、選穴はどうするのか、また刺針方向はどうするのかとの内容だった。これに対してご丁寧な回答を頂戴した。
 
眼精疲労を訴える者は、左右の目頭を母指と示指でつまむようなポーズをとる。これは上睛明穴に相当し、この穴が最も使用頻度が高い。

刺針方向についてであるが、患者に針管を渡し、眼窩から気持ちのよいと思う方向に押すよう指示する。これが刺針方向になるということだった。
掃骨針の要領は、鍋についたおこげを落とすように刺針する、とのこと。筋に対しては、筋付着部のサビを落とすように刺針する。




4.私(似田)の眼窩内刺針の変化
 
私が郡山七二方式の眼窩内刺針を行って以来、すでに30年以上経過している。眼精疲労など機能的な眼症状に対しては、ある程度の効果があったようだが、同時に天柱・上天柱・風池・翳明・太陽といった穴に施術することも多く、眼窩内刺針の使用が不可欠だったとは言い難い。網膜色素変性症患者にも上睛明、球後(後述)に30分置針して、蒸しタオルで温補したが、目立った治療効果は得られなかった(治療直後効果として、一過性に視野がやや広がった)。

郡山七二の眼窩内刺針は、ほとんど針響がなく、術者の刺し手にもシコリに当たったという手応えがない。深刺すると眼窩内の骨に当たるが、骨に当たってもそれ以上刺入しないので、針響はないのが普通である。
 
そこで数年前から小山曲泉方式に変えてみた。私(似田)が小山曲泉の方法で気持ちよい圧痛点を探してみると、上睛明のやや外方と承泣(瞳の下で骨縁にある陥凹)2点に圧痛が出現する傾向があった。これらを刺入点とし、圧痛硬結に向けて刺入すると、硬い組織(=骨膜)、当たった。そこを削りとるように細かく針を上下に動かすと眼球に響いた。

眼窩内の骨にぶつかるまでこのシコリに向けて4番針で約2㎝刺入、5分間置針してみた。患者は眼球部に重い感じがしたとのこと。閉眼状態で、上下左右の眼球運動を数回指示したこともあったが、その際もとくに刺激感はなかったようだ。


5.眼窩内刺針の二つの代表治療点



1)上眼窩裂溝内刺針(上睛明) 


位置:眼球と上眼窩の間隙。具体的には瞳孔線上、瞳孔線の内眼角寄り、深部に視神経管(視力を司る視神経が通る)がある。

 患者に針管を渡し、「一番つらいと思う場所を、気持ち良く感じる方向に押してみて....」というと、大抵の患者は睛明もしくは睛明の5㎜上から直角に     深く押圧するようになる。確かに眼精疲労の際、母指と示指で目頭を強く押圧するのは、 日常的にもよくある動作である。このように考え、私は眼窩
 内刺針では睛明の使用頻度が多い。

2)球後
位置:外眼角と内眼角との間の、外方から1/4 の垂直線上で「承泣」の高さ。球後は眼窩と眼球間の間隙がやや広い部であり、深刺しやすい部である。
 球後とは眼球の後という意味で、中国では内眼病(網膜や視神経疾患)の治療穴として使用されているが、治療効果は不明である。

刺針:眼窩内に直刺、その後針尖を上内方に少し向け、視神経方向に刺入。患者は眼球が熱く腫れる感じを覚える。   
 
※毛様体神経節刺について

眼球の奥には毛様体神経節がある。これは米粒より小さい。自律神経系に属する神経節で、瞳孔収縮と散大、眼球知覚などに関係し、視覚機能の調整を担当している。球後を刺入点としてかなり深刺すると毛様体神経節刺針となる。中村辰三が実施してみた結果、眼精疲労に効果あったということだが、リスクを考慮すれば積極的には行い難い刺針技法であろう。

 

 


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