1.アナトミートレイン理論
アナトミートレインとは、解剖学的筋膜の連結線のことをいう。身体の筋は筋膜で繋がってり、線のような繋がりが全身12本あるという。この走行は経絡の流れによく似ていることに驚かさせる。ところで肩関節と体幹をつなぐアナトミートレインは4本あるが、肩関節挙上と関係するのは深層バックアームラインと深層フロントアームライン2本である。
1)深層バックアームライン
肩関節の後方挙上動作時には、前腕尺側が上になる。つまり前腕尺側の筋膜が緊張する。
患者を椅座位にさせ、術者は患側の腕をゆっくり後方挙上させてみる。もし可動性不十分な場合、腕骨・清冷淵・天宗といったツボ圧迫しつつ後方挙上に引っぱり上げる。これで可動性拡大した場合、それぞれの障害筋をスレッチさせた体位にさせ、筋上のツボに刺針して運動針を施す。
結帯動作をとらせた時、小指球筋→尺骨々膜→上腕三頭筋→肩回旋筋群→菱形筋・肩甲挙のラインがねじれてつっぱる。この一連の機能筋膜連結も深層バックアームラインである。
2)深層フロントアームライン
肩関節の前方挙上動作時には、前腕橈側上になる。つまり前腕橈側の筋膜が緊張する。
患者を椅座位にさせ、術者は患側のをゆっくり前方挙上させる。もし可動性不十分な場合、魚際・手三里、中府といったツボを迫しつつ前方挙上に引っぱり上げる。これで可動性拡大した場合、それぞれの障害筋をストレッチさせた体位にさせ、筋上のツボに刺針して運動針を施す。
3)アナトミートレインと奇経の関連
奇八脈は基本的に下から上へと縦方向に流注する。深層バックアームラインは陽蹻脈の流注に似ており、、深層フロントアームラインは陰蹻脈の流注に似ているようだ。
2.肩関節後方挙上障害に対する深層バックアームラインを使った治療
深層バックアームラインは陽蹻脈に似ている。ただ陽蹻脈の宗穴は足臨泣だが、肩関節痛での深層フロントアームラインでの代表穴といえるのはペアである奇経の督脈の宗穴、後溪となる。肩の後方挙上制限時には後溪を含め、他に魚際や手三里を刺激する。
1)腕骨刺針
単に腕を後方挙上させただけでは痛まず、とくに手関節の捻れが起点となることから、小球筋(腕骨穴)を押圧した状態で、結帯動作を行わせると、可動域が改善されることが多い。改善された場合、腕骨穴に刺針した状態で、結帯動作を行わせるとよい。
2)清冷淵刺針
腕骨刺激と同じ発想で、上腕三頭筋起始の清冷淵を押圧しつつ、肘の屈伸運動を行わせ、帯動作の軽減をみたら、清冷淵に運動針を行う。
3.肩関節前方挙上障害に対する深層フロントアームラインを使った治療
深層フロントアームラインは陰蹻脈に似ている。ただ陰蹻脈の宗穴は照海だが、肩関節痛での深層フロントアームラインでの代表穴といえるのはペアの奇経である任脈の宗穴、列缺となる。肩の前方挙上制限時には列缺を含め、他に魚際や手三里を刺激する。
上腕挙上させた時、母指球→橈骨骨膜→上腕二頭筋→小胸筋がつっぱる。この一連の機能筋膜結合を深層フロントアームラインとよぶ。母指球筋(母指内転筋、母指対立筋など)を押圧する目的で、魚際と合谷を同時につまみつ、肩関節外転運動を試みる。改善するのであればそこに刺針して肩関節外転の自動運動実施。これは大胸筋・小胸筋がゆるんだ結果である。
1)魚際刺針
2)手三里刺針
手三里あたりで輪状靱帯・腕橈骨筋・長橈骨手根屈筋間あたりには外側筋間中隔(屈筋と筋の境にある筋膜)があり、筋の重積が発生しやすい。ここを術者の2~5指で押圧しつつ 前腕の回内・回外を10~20回行い、その後に上腕挙上させると滑走性が高まり挙上しやくなる。
※五十肩に対する条山穴刺針について
40年ほど前、「五十肩(広義)に対し、条口から承山へ透刺すると効果あり」とのニュースが中国から届いた。実際に条口から承山に透刺するには4寸針が必要となるが、腱側の条口から承山にむけて直刺深刺ておき、患側肩関節の自動運動をさせるという方法。 実践すると、効かないとも効くこともあって、なかには肩関節局所を刺激して効果なかった者に対してってみると、意外にも肩がすーっと挙がったという例も経験した。一見して凍結肩かと思える例であっても効果が出る例も経験した。ただし奏功機序はわからないままであった。
しかしながらアナトミートレインの考えでいえば、肩関節挙上時痛に腕橈骨筋あたりの手三里を刺激すことになる。条口は前脛骨筋であるが、腕橈骨筋と前脛骨筋は構造的類似性がある。前脛骨筋で条口を選理由は、同筋で最もボリュームがあるところという点になる。条口を押圧しつつ、肩を挙げさせる運動をさせる。
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