1.腰方形筋性腰痛
1)腰方形筋の構造
起立筋は仙骨に向けて幅が狭くなっている関係で、腸骨稜上縁にあるのは起立筋ではなく、腰方筋になる。第12肋骨から骨盤の間に走る筋。腰神経叢支配。本筋は腰背筋ではなく、腹筋に分類される。
腹筋前腹筋:腹直筋
側腹筋:外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋
後腹筋:腰方形筋
※かつては、腹筋力が弱いと腰部筋に、より体重負荷が加わるので 腰痛になるとされ、腰痛治療には腹筋強化が重視された。しかし現在では腰痛で腹筋の関与は、あまりないとされるようになった。
2)腰方形筋性腰痛の特徴
①腰方形筋起始部の圧痛点
トラベルのトリガーポイント書籍をみると、腰方形筋の放散痛は殿部になっているが、私の経験からは、そうした印象はもっていない。症状部位から障害筋を推察するのは難しく、結局は圧痛点所見が重要である。患者が痛みを感じるのは、腰方形筋の起始である腸骨稜縁が多く、腰宣穴や力針穴が代表的圧痛点となる。側腹位にさせて、これらの部点を押圧すると圧痛点が明瞭になる。
腰宜(ようぎ)穴:L4棘突起下の外方3寸。すなわち大腸兪の外方1.5寸。腸骨稜上縁。
力鍼(りきしん)穴:L4棘突起下の外方4寸。腸骨稜上縁。
②腰方形筋停止部圧痛点
腰方形筋停止である第12肋骨部(≒胃倉穴)が痛むこともある。この場合、側腹位にさせ、この部を母指腹で深々と押圧するようにすると圧痛が明瞭になる。
胃倉:教科書の胃倉は、Th12棘突起下外方3寸にとる。ここでは側臥位にせしめて、腰方形 が第12浮肋骨に付着している部に胃倉をとる。起立筋の外縁を触知する。その筋の外縁を圧し、脊柱方向に押圧し、最も指が沈む方向を把握。それが起立筋と腰方形筋のつくる筋溝でり、深部には横突起の先端がある。指の沈む方向に沿い、3寸~2.5寸の5番~10番針を5㎝ 程度刺入する。
※胃倉は代田文誌が腹痛の特効穴として「胆石疝痛に対し刺針すると、疼痛が頓挫できることが多い」と記している。実際は尿路結石疝痛に対して、これを頓挫できることが多い。私の経験では、胆石疝痛の鎮痛は側臥位にしての魂門斜刺深刺((肋間には刺入しない)である。
2.大腰筋性腰痛
1)大腰筋の基礎知識
大腿骨から腰椎のそれぞれ全部の間に走る筋である。腸骨筋は骨盤から大腿骨の間に走る筋で、途中で大腰筋と同じの束(腱)になり大腿骨に付着しているので、2筋合わせて腸腰筋とよばる。股関節を屈曲の作用がある。腹腔の後にあり、脊柱を前屈させる筋でもある。
起始:浅頭は第12胸椎~第4腰椎までの椎体および肋骨突起。深頭は全腰椎の肋骨突起
停止:大腿骨の小転子
支配神経:大腿神経
作用:股関節の屈曲(大腿の前方挙上)
2)病態生理と原因
腸腰筋中の大腰筋は、腰痛と深い関係がある。腰背部筋収縮は脊柱を後屈させる際の力となり、腰筋は脊柱の収縮は脊柱を前屈する際の力となるから、生理的には両者間に力学的バランスがとている。何らかの原因で腸腰筋の持続的収縮が起こると、中腰姿勢状態になり、上体を伸展させる際に、どく痛む。中腰姿勢の持続は、バランスをとるために腰背部筋の緊張を惹起するようになり、背筋の筋筋膜性腰痛も合併するようになる。
※「すべての腰痛は大腰筋に原因がある」と説く者もいるが、まったく同意できない。大腰筋を刺激しなければ速効できない腰痛は1割以下だと思う。
3)腰方形筋性腰痛と大腰筋性腰痛の鑑別
腰方形筋性も大腰筋性も、背部一行線上に圧痛がみられないという共通点がある。両者の違いだが、腰方形筋性腰痛は、腸骨稜上縁の同筋起始部に圧痛があることが多い。しかし大腰筋性痛は、通常の押圧ではどこも圧痛点は発見できず、起立筋外縁から椎間板方向に深く押圧し圧痛点が発見できるという点にある。
4)大腰筋過収縮の症状
①中腰姿勢になり、無理に上体を起こすと腰痛増悪。
②朝起きたときに痛いことが多い。(持続収縮した腸腰筋を無理に伸張状態にしている)
③腰神経叢興奮症状
大腰筋と腰方形筋の間を腰神経叢の分枝が通っている。この腰神経叢から出る神経中、とくに大腿神経と閉鎖神経が刺激され、これらの神経を刺激すれば、それぞれ大腿前面あるい下腿内側に針響を与える(同時に、大腿前面痛や下腿内側痛が本法の適応になる)。針がや下方を刺激すれば、腰神経叢からの分枝である陰部大腿神経(陰部~大腿内側に響く)外側大腿皮神経(大腿外側に響く)に響く。大腰筋過緊張の場合、5~10分程度置針する。
5)大腰筋刺針
広く知られているのは、伏臥位にてL4、L5椎体棘突起の外方3寸からの深刺で大腰筋に刺入するものである。この方法は、起立筋や椎体横突起間を貫かねばならないため、技術に難しく、刺激感も強くなるのが普通である。
筆者の方法を紹介する。側腹位(=シムズポジション)、3寸#5~10の針を用い、ヤコビー線の高さで、起立筋外縁(痩せた者では横突起の直前)を刺入点とし、椎体側面方向に7~8㎝刺入針先が患部へ響くと、ズーンと重く響くような感覚が腰全体に広がる。この肢位にしても大腰筋の緊張が触知できない場合、患側の大腿をさらに挙げて腹に近づけるようにすると触知しやすくなる。
※大腰筋刺針は普通は強い針響を与えるが、押し手を弱くして組織に抵抗を与えないようスルスルと刺入すれば、3寸#10程度の針であっても、比較的抵抗なく患者に用いることもできる。
6)大腰筋脱力のケース
まれなケースだが、腰砕け状態で、まったく立位になれない者がいる。これは大腰筋の脱力を意味している。大腰筋の伸張持続が極端な場合、このままでは筋が断裂すると筋・腱紡錘中の受容器が反応し、反射的に脱力状態になる。このような症状の腰痛は、10年に1度ほど診る感じである。
この状況から本来の筋トーヌスまで回復するには、大腰筋に対して長時間置針(1時間ほど)が必要であるとの見解がある。