そしてもうひとつ、
たぶん誰も気づかないであろうけれど、
ここだけは、ゆるがせにはすまい、と、
私がこだわったのが、
<手紙> でした。
老人がアメリカに暮らす妹、文代に、
1年前に送った、長い長い手紙です。
自身が認知症であるとわかった老人は、
自分の意識がしっかりしているうちにと、
はじめて妹に手紙を書きます。
父親に反発して家を出た息子、政伸への思い。
仕事に明け暮れ、父親として、
やさしい言葉のひとつも、かけてやらなかった後悔。
早くに亡くなった妻への詫び。
そして、音信不通の政伸が見つかったなら、
それなりの財産を渡したい、という親心。
彼の人生が凝縮したような手紙です。
・・・なーんて、
わかったようなことを書いてますが、
これ、お芝居ですから(笑)
ホントに手紙なんてありませんから。
文代のセリフから、こういうことが書かれているって、
想像できるだけなんですね。
この台本を読んだとき、
最初に「うーーん」と考えたのが、
この手紙でした。
何度か、台本を読むうちに、
ここの小道具はどうする、とか、
ここでの衣裳は早替えか?とか、
そんなことも考えたりするんですが、
そのとき、まず、
(こりゃ、難物だな)
と思ったのが、この手紙でした。
稽古では白い便箋を使っていたんですが、
さて、どうしよう、
とずっと考えていました。
本番も白い便箋で、というのも、ありです。
あえて、字が書いてないものを読むのは、
よくやることですから。
でも、主宰に指示されない限り、
それはやりたくなかった。
この手紙は、父親を恨んでいる息子、
政伸に渡して、読ませます。
だからこそ、思いがこもった手紙を、
政伸に手渡したかったんですね。
政伸役の2人だって、
白い便箋を読んで泣くのは、
つらいでしょうし。
(稽古場では、そうだったんだけど)
だけど、手紙の内容の説明は、
セリフにしたら、ほんの数行。
でも、私のセリフに、
「初めてくれた手紙が、こんなに長くて驚いたわよ」
というひと言があるくらい、
長いものにしなきゃいけない。
さて・・・、どうしたものか・・・。
(つづく)
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