幼虫の決意
余り陽が届かない森の中でこの花は目立ちます。
きれいに染まった紫色をした物もあれば、少し薄くなってピンクに近い物、更には
色が抜けてほとんど白く見える物まで花の色にはかなりな幅があります。
これが生えていると、何が潜んでいるか分からない鬱蒼とした藪でさえも、少し
ばかり秩序ある世界に見えて来ます。
毎週火曜日はウォーキングの途中で見かけた山野草を取り上げていますが、今週は
キジカクシ科 ヤブラン属 ヤブラン です。
夜明け前、世界が一番暗い時。
幼虫は一心に土をかき分け地表を目指していました。
長かった地中での暮らしも今日で終わり。
羽を身にまとい大空を駆け巡る日を迎えたのです。
地上に出たら近くの木に登ってかぎ爪を掛けて体を固定する。
やがて背中が割れて脱皮が始まる。
狭い身体から抜け出したら殻を捨てて舞い上がるのだ。
一連の動きは本能が教えてくれるので迷いも心配もありません。
ただひとつだけ、幼虫には本能では無くて長い間温め続けて来た自分の考えがありました。
オレは武骨な木の肌からではなく、きれいな花の上から飛び立ちたい!
長かった闇の中での暮らしから一転して、光の世界に飛びたつにはそこが一番適した
場所に思えたのです。
ところが地表に出るとそこは森の中。
樹が生い茂るばかりで花など見当たりません。
付近を探し回って漸く見つけたのは思い描いていた赤や黄色をした大きな花ではありません。
細い茎の先に紫色の小さな花が集まった1本の花穂でした。
頭に描いた花とはかなり違ってはいますが仕方ない。
不安定に揺れ動く細い茎をよじ登り、花穂のてっぺんまで這いあがり、その先端に鎌の様な
かぎ爪をしっかりと食い込ませました。
暫くすると背中が割れる乾いた音がしました。
窮屈な殻から漸く抜け出た体にはクシャクシャに縮んだ羽がありました。
時間を掛けてそれを広げると夢にまで見た大空が透けて見えました。
幼虫は今蝉になって、大空に飛びたちました。
滅多に見ない光景
細長い艶のある緑の葉がまっすぐに伸びていますが、自分の重さを支えきれずに先端は
下を向いてしまっています。
そんな幾本もの葉の間からは紫色の3,4ミリの小さな花を一杯に付けた花穂が立っています。
その先端にセミの抜け殻が着いている珍しい光景を目にしました。
大抵の蝉は1、2メートル樹を上ってそこで脱皮をします。
高さがせいぜい30センチしかないヤブランで間に合わせるとは、最初見た時はかなり
手抜きな蝉に思えました。
しかし太い樹と違いヤブランの茎は足場にするには不安定な場所。
敢えてそこを選んだのには特別な理由があった様に思えてきました。
ヤブランの花を見ながら、意外な所に脱ぎ捨ててある殻の主に思いを巡らしてみました。
余り陽が届かない森の中でこの花は目立ちます。
きれいに染まった紫色をした物もあれば、少し薄くなってピンクに近い物、更には
色が抜けてほとんど白く見える物まで花の色にはかなりな幅があります。
これが生えていると、何が潜んでいるか分からない鬱蒼とした藪でさえも、少し
ばかり秩序ある世界に見えて来ます。
毎週火曜日はウォーキングの途中で見かけた山野草を取り上げていますが、今週は
キジカクシ科 ヤブラン属 ヤブラン です。
夜明け前、世界が一番暗い時。
幼虫は一心に土をかき分け地表を目指していました。
長かった地中での暮らしも今日で終わり。
羽を身にまとい大空を駆け巡る日を迎えたのです。
地上に出たら近くの木に登ってかぎ爪を掛けて体を固定する。
やがて背中が割れて脱皮が始まる。
狭い身体から抜け出したら殻を捨てて舞い上がるのだ。
一連の動きは本能が教えてくれるので迷いも心配もありません。
ただひとつだけ、幼虫には本能では無くて長い間温め続けて来た自分の考えがありました。
オレは武骨な木の肌からではなく、きれいな花の上から飛び立ちたい!
長かった闇の中での暮らしから一転して、光の世界に飛びたつにはそこが一番適した
場所に思えたのです。
ところが地表に出るとそこは森の中。
樹が生い茂るばかりで花など見当たりません。
付近を探し回って漸く見つけたのは思い描いていた赤や黄色をした大きな花ではありません。
細い茎の先に紫色の小さな花が集まった1本の花穂でした。
頭に描いた花とはかなり違ってはいますが仕方ない。
不安定に揺れ動く細い茎をよじ登り、花穂のてっぺんまで這いあがり、その先端に鎌の様な
かぎ爪をしっかりと食い込ませました。
暫くすると背中が割れる乾いた音がしました。
窮屈な殻から漸く抜け出た体にはクシャクシャに縮んだ羽がありました。
時間を掛けてそれを広げると夢にまで見た大空が透けて見えました。
幼虫は今蝉になって、大空に飛びたちました。
滅多に見ない光景
細長い艶のある緑の葉がまっすぐに伸びていますが、自分の重さを支えきれずに先端は
下を向いてしまっています。
そんな幾本もの葉の間からは紫色の3,4ミリの小さな花を一杯に付けた花穂が立っています。
その先端にセミの抜け殻が着いている珍しい光景を目にしました。
大抵の蝉は1、2メートル樹を上ってそこで脱皮をします。
高さがせいぜい30センチしかないヤブランで間に合わせるとは、最初見た時はかなり
手抜きな蝉に思えました。
しかし太い樹と違いヤブランの茎は足場にするには不安定な場所。
敢えてそこを選んだのには特別な理由があった様に思えてきました。
ヤブランの花を見ながら、意外な所に脱ぎ捨ててある殻の主に思いを巡らしてみました。