粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

文春に煽りは似合わない

2012-02-26 00:10:01 | 煽り週刊誌

昨年のうちに週刊誌の煽りが終わったと思ったら、こんな時期にこともあろうに週刊文春が煽り記事を出してきた。3月1日号(380円)を買って読んでみた。特集「郡山4歳児と7歳児に甲状腺癌の疑い」(一部抜粋)がそれだ。郡山から北海道に自主避難してきた親子309名(うち子供139名)を対象に地元の内科医がボランティアで甲状腺の超音波検査(エコー検査)した。すると冒頭の見出しのように「7歳の女児に喉の部分にある甲状腺に8ミリの結節(しこり)が、4歳男児に10ミリと4ミリの結節が、石灰化を伴ってみられた」という。その医師は「児童にはほとんどみられない。癌細胞に近い。二次検査が必要です。」と「警告」した。

その後もこの記者の「懸念」が続く。普通は児童に見られない結節が2例も見つかるのは、「原発事故の影響」ではないかと。女児の母親は2歳の妹も同じ検査で2ミリの結節が見られたことで一層不安を募らせている。昨年6月の自主避難の際、夫ともめて離婚した上に、将来甲状腺癌で娘が苦しむことはないかと親子で悲嘆にくれているという。

これだけ読むといかにも放射能の恐怖が高まり、原発事故許すまじの気になる。ただ、この記者が例の自由報道協会理事というところがひっかかった。この特集に関してネット上で議論されていないか検索してみたら、あるサイトが目に入った。

それによると、児童に結節が見られるのは決してあり得ないことではなく、これまで児童がエコー検査をあまりしてないだけの話だ。原発事故に関係なく幼児の結節は珍しくないとあった。

もし結節が見つかったら、2次検査として、血液検査で甲状腺癌やより軽度の甲状腺腫の病状を調べることが出来る。そこで「良性」となれば特別今心配することはない。良性であることは、甲状腺癌の症状が出ていない証拠であるといってよい。実は問題の女児はその後血液検査をして「良性」と見なされているから、余り心配しなくてのよいと思うのだが、不安は消えないようだ。

自分自身、こうした医学のことは全くのド素人で、これに論評を加えることは困難だ。ただこの記者が福島の避難民だけの結果で原発の影響を云々するのはどうか。たとえば札幌の親子と比較せねば、意味がないと素朴に思う。それに血液検査で良性となっているのに「甲状腺癌の疑い」とは飛躍しすぎではないか。自主避難のこの親子をまるで「悲劇の親子」のように書き立てるのには違和感を覚える。普通なら「そんなに不安になることないのでないか」となだめるべきなのに、トーンは放射能の恐怖へ持っていこうとする意図がありありだ。

福島県の「健康管理調査検討委員会」の座長を務める山下俊一福島医科大学副学長に対しては当然ながら批判的だ。「3年かけて18歳以下の県民の甲状腺を検査する」のは、遅速で危険性を放置し無責任だとする論調だ。しかしエコー検査、血液検査、細胞検査と精度を高めていく手順は格別非難されるべきいわれはない。18歳以下の全ての福島県民を3年かけて検査する」ことも、早くても4,5年で発症する甲状腺癌の性質(発症後の経過はゆっくりで極度の悪化も少ない)からいって別段遅速の批判は当たらない。山下氏から問題の医師へは「独自の検査は遠慮してください。」といわれたというが、福島県が避難民を含めて無料で検査していることを考えると、言葉尻はともかくとして、県外の医師にとやかく言われたくない心情は理解できる。実際、県の最初のエコー検査で3,465人中26人が結節等の異常が見られたが、2次検査で全て良性だと判明したという。避難民どころか地元住民も児童を含めて原発事故の影響は皆無といってよい現状だ。

文春の煽り記事はもうひとつあった。「セシウムスギ花粉が放射性物質を日本に拡散する」なる記事だ。読んでみるとあっけにとられた。最大キロ25万ベクレルのスギの雄花は、濃度的には花粉も一緒でその飛来が心配されているという。しかし林野庁の話だと、たとえこの濃度の花粉が住宅地に届いても、呼吸による被曝の放射線量は毎時0.000195マイクロシーベルトで、シーズン全体でも累計で0.000553ミリシーベルトの被曝で超微量である。(筆者自身も文中で認めている。)原発に近い最高値でこの数字だから、首都圏では濃度は30分の1に過ぎない。記者はそれでも服に花粉がかかったりしたら危ないのでないかと、山内和也神戸大学教授のコメントを載せているが、果たしてこの微量でどんなもんだろうと思ってしまう。「苦しいときの山内頼み」にしか見えない。

というわけで文春の記事は、自分からすると煽り以外の何ものでもないように思える。花田編集長の頃は硬派で読み応えがあったが、最近の文春はこうした煽り記事と芸能界のゴシップばかりだ。煽りはアエラやサンデー毎日、東京新聞くらいでいい。芸能記事はそれこそ「アサ芸」で充分だ。ただ今週号で一つ感心したグラビア写真があった。韓国と北朝鮮での南北の違いを、同種の施設や同年代の人々の各写真を配置することで際立たせていた。そのなかで女子学生の比較があった。北朝鮮の女学生が無理して笑顔を繕っているのがありありとわかるのに、韓国の皆が好き勝手にポーズをとり自然な笑顔で自己主張を楽しんでいる。デフォルメの感もあるが、同じ民族で体制の違いでこんなに差がでてしまうのかと驚く。文春はもっとこんなハッとさせるような企画を増やしてもらいたいと願うばかりだ。文春に煽りは似合わない。


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