粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

結局一番の正解!「放射線の影響はニコニコしている人には来ない」

2014-05-17 12:33:07 | 過剰不安の先

来週発売されるブックコミックスピリッツ。連載の漫画「美味しんぼ」の他に、これまでの掲載を巡る様々な批判や意見を特集として載せるという。既に早売が出ていて何人かの学者の発言内容が報道されている。批判的なものが多いようだが、中にはこの漫画を擁護する学者の意見も紹介されている。

一方で、岡山大の津田敏秀教授(疫学、環境医学)は「チェルノブイリでも福島でも鼻血の訴えは多いことが知られています」「『低線量放射線と鼻血に因果関係はない』と言って批判をされる方には、『因果関係がない』という証明を出せと求めればいい」と擁護。「こんな穏当な漫画に福島県の放射線のことが描かれたからといって文句を言う人のほうが、むしろ放射線を特別視して不安をあおっているのではないでしょうか」とつづった。(産経新聞5月16日記事)

まだ発言の全容を把握していないので論評するのは僭越だが、学者にしては酷く一方的で乱暴な意見だと思う。特に「こんな穏当な漫画に福島県の放射線のことが描かれたからといって文句を言う人のほうが、むしろ放射線を特別視して不安をあおっている」といった点だ。

話は前後するが特集では漫画に批判的な学者の意見が先に紹介されている。津田教授の意見とは対照的だ。

この中で、立命館大の安斎育郎名誉教授(放射線防護学)は、1シーベルト超の被曝(ひばく)をしなければ倦怠感は表れないが、漫画で第1原発を見学した際の被曝線量ははるかに低く、倦怠感が残ったり鼻血が出たりすることは考えにくいと指摘。「率直に申し上げれば、『美味しんぼ』で取り上げられた内容は、的が外れていると思います」「200万人の福島県民の将来への生きる力を削(そ)ぐようなことはしてほしくない」と訴えた。(同新聞記事)

1シーベルト超の被曝をしなければ」と具体的に数字を挙げている。これは広島や長崎での高線量被爆を受けた人の病状を長年統計的に調査した現実的な知見と言える。これが津田教授が批判する「むしろ放射線を特別視して不安をあおっている」人たちといえるだろうか。逆に安斎教授側からすれば、津田教授の方へこの言葉を返したいのではないか。

津田教授の意見は結局、「鼻血と被曝の因果関係は十分に分かっていない」という反原発派の学者やジャーナリストが日頃抗弁する論拠を一歩もでていない。むしろその因果関係のないことを否定派が証明しろと責任転嫁しているのはある種開き直りにさえ思える。「わからないから鼻血が出るかもしれない」では科学ではない。

鼻血と被曝の関係を完全否定することはできない。現に「私は鼻血を出しました。被曝のせいです」と名乗り出る某前町長がいるし、福島の事故後そんな症状を訴える人が少なからずいた。あるいは津田教授が指摘するようにチェルノブイリ事故でもそうした症状が散見される。しかしこれが、被曝で鼻血がでるという証明にはならないことはいうまでもない。

そんな迷路に陥ってしまう時にある学者の発言を思い出す。山下俊一福島県立医科大学副学長が事故直後に発した言葉で当時は非難囂々たる逆風であった。

放射線の影響はニコニコしている人には来ません」山下氏が言いたいことは安全と安心は別物であり、福島のような低線量被曝は安全のうえではさほど心配ではない。しかし安心は個人差がある。むしろ影響を気にし過ぎて体にストレスを溜め込むということがことの方が問題だ。それによって逆に病気を誘発させることを注意しなければないないということだ。

福島での被曝の影響はその後国連の科学委員会の報告書や国内の様々な健康調査で現在あるいは将来において軽微であることが明らかになり、山下氏の発言を裏付けるものとなっている。

また事故後の鼻血に関しては、原発作業員たち事故現場で働く人々や避難区域から県内に避難した多くが経験がないと答えている。逆に某前町長のように直ぐに県外に避難して県内に戻ろうとしない人が鼻血を頻発させている。あるいは南関東の若い母親が子どもに鼻血が出たと朝日新聞の記事で語っている。さらには岩手県の震災がれき焼却(一部が震災がれきに過ぎず大半が地元のゴミ)した直後やはり鼻血がでたと大阪の一部住民が名乗り出る。

こうしたちぐはぐな証言から鼻血と被曝の因果関係を云々することは無理がある。むしろ被曝の影響を過剰に心配して体にストレスを溜め込んだことによる体調不良と考えた方がよほどすっきりする。事実、鼻血を訴える人は某前町長や「大阪おかんの会」さらには朝日新聞の取材を受けやすい母子など、放射能を気にする人に多いというのが現実のようだ。

あるいは放射能を気にする人は食材にもやたら気にして時に栄養の観点に偏り(ビタミン不足)があるといわれる。それがストレスと重なって自分や子どもの体調に影響を及ぼす。これはチェルノブイリ事故を取材してウクライナの医師も証言している。

もちろん全てがストレスだけと自分自身が言い切るつもりはない。しかし、鼻血を被曝と関係づけるよりはるかに合理性があると考える。「放射線の影響はニコニコしている人に来ない」津田教授いかがでしょうか?

 

追記:津田教授の「(鼻血と被曝の)因果関係がないという証明を出せ」という主張はネット上でこれは「悪魔の証明」であるとして批判が渦巻いているようだ。

ない(存在しない、起きない)」ことを証明するためには、世の中の森羅万象を調べ尽くさなければならず、それは不可能に近いからだ。

たとえば「宇宙人は存在しない」ということを証明することは困難だ。それをもって「伊宇宙人はいる」と決めつけてしまうのが「悪魔の証明」ということになる。

つまりもともと証明困難なことを要求することであり、津田氏の要求もその類いということだ。