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帯とけの枕草子〔百十一〕常より異に聞こゆるもの
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、君が読まされ、読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔百十一〕つねよりことにきこゆるもの
原文
つねよりことにきこゆるもの、正月の車のをと、又鳥の声、あかつきのしはぶき、物のねはさらなり。
文の清げな姿
常とは異なって聞こえるもの、正月の車の音、又、鳥の声、暁の咳、ものの音色は、さらに言うまでも無い。
心におかしきところ
常より殊に感じられるもの、睦つきのものの音、また、とりの声、赤つきのし端吹き、ものの根はなおさらである。
言は戯れ、心得るべき「言の心」がある。
「ことに…異に…殊に…特別に」「きこゆ…耳に聞こえる…心に感じる…身に受ける」「正月…睦月…睦ましい壮士…睦ましいつき」「月…壮士…おとこ…突き」「車…しゃ…者…もの…おとこ」「又…亦…股」「鳥…女」「声…囀り…意味不明のひとのことば」「あかつき…暁…赤つき」「赤…元気色」「つき…突き…尽き」「しはぶき…咳き…子端吹き」「し…子…おとこ」「は…端…身の端」「ふく…吹く…やま吹きの白い花が咲く…やまばで噴出する」「ね…楽器などの音色…声…根…おとこ」。
藤原公任撰「和漢朗詠集」の「暁」にある貫之の歌を聞きましょう。
あかつきのなからましかばしらつゆの おきてわびしきわかれせましや
(暁がもしも無かったならば、白露が降り、起きて、わびしい別れをするだろうか……あか尽きがもしも無かったならば、白つゆ贈り置いて、わびしい別れをするだろうか)。
「あかつき…暁…あか尽き」「しらつゆ…白露…白つゆ」「白…おとこのはて」「おきて…起きて…降りて…贈り置きて」。朝帰り来て女のもとに遣った歌。
貫之、公任と同じ「言の心」で歌を聞けている人は、歌の「心におかしきところ」がわかり、歌が「をかし」と思え、恋しくなるでしょう。
枕草子は、このような歌と同じ文脈にある。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。