帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百十三〕冬は

2011-07-09 00:02:35 | 古典

 



                                      帯とけの枕草子〔百十三〕冬は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


 清少納言枕草子〔百十三〕冬は


 冬はいみじう寒き、夏は世にしらずあつき。

(冬はひどく寒い、夏はほかに知らぬほど暑い……終は・
尽き果ては、ひどく心がさむい。撫つは、夜にしらず熱い)。
 
 
言の戯れを知り言の心を心得ましょう。

 「冬…四季のおわり…終…尽き果て」「寒い…身が寒い…心が寒い」「夏…なつ…なづ…撫でる…愛撫する」「世…余…その他…夜」「しらず…知らず」「あつき…暑い…熱い…情熱で熱い」。
 

 
藤原公任撰「和漢朗詠集」の「冬夜」にある紀貫之の和歌を聞きましょう。

おもひかねいもがりゆけばふゆのよの  かはかぜさむみちどりなくなり

 (思いに堪えかねて彼女の許に行けば、川風寒くて、千鳥が鳴いている……思いに堪えかねて、愛するひと、かりゆけば、ひとの心風さむく、しきりに泣いている)。
 
 
「がり…許に…かり…狩り…猟り…あさり…むさぼり…まぐあい」「川…女」「風…心に吹く風」「千鳥…しば鳴く小鳥…鳥…女」「なく…鳴く…泣く」。
 

 
藤原公任撰「和漢朗詠集」の「夏夜」にある紀貫之の和歌を聞きましょう。

なつのよのふすかとすればほとゝぎす なくひとこゑにあくるしのゝめ

(夏の短夜が、臥すかとすれば、ほととぎす鳴くひと声に、明ける東の空……撫づの夜が、伏すかとすれば、かつこう、泣くひと声に、飽くるしののめ)。


 「なつ…夏…暑い…懐…撫づ…熱い」「ふす…臥す…床につく…伏す…立つものがたおれ伏す」「ほととぎす…時鳥…ほと伽す…郭公…且つ乞う」「鳥…女」「ひと…一…人…女」「あく…明く…夜が明ける…飽く…満ち足りる」「しの…篠…細竹…しなやかなさま」「め…女」。

 枕草子の文は、このような和歌と表現様式は同じで、言の心も変わらない。
 

 
伝授 清原のおうな

聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)


  原文は、「枕草子 新 日本古典文学大系 岩波書店」 による