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帯とけの枕草子〔二百九十二〕左右の衛門の尉を
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百九十二〕左右の衛門の尉を
文の清げな姿
左右の衛門の尉(三等官)を判官(検非違使の尉)という名をつけて、ひどく恐ろしく偉い者と思っているけれど、夜回りし、細殿(女房の部屋)などに入り寝ている、とっても見苦しいものだ。布の白袴を几帳にうち掛け、うえの衣(武官の袍)の長く幅広いのを、丸めて掛けている。まったく相応しくない。太刀の尻に(袍の裾を)うち掛けて巡回するのは、それはよい。
青色(六位蔵人の着る袍)をただ常に着ていたら、どれほど立派でしょう。「見しありあけぞ(見た有明けの月よ…見た明け方も健在の月人壮士よ)」と、誰れが言ったでしょうか。。
原文
左右の衛門のぞうを、はう官といふなつけて、いみじうおそろしう、かしこきものに思ひたるこそ。やかうし、ほそどのなどにいりふしたる、いとみぐるしかし。ぬのゝしろはかま、き丁にうちかけ、うへのきぬの、ながくところせきをわがねかけたる、いとつきなし。たちのしりに、ひきかけなどしてたちさまよふは、されどよし。あをいろをただつねにきたらば、いかにおかしからん。見しありあけぞ、とたれいひけん。
心におかしきところ
左右の衛門の三等官を、はう官(判官…放官…勝手気ままに振る舞う官)というあだ名をつけて、とても恐ろしく、並々ならぬものに思っている。夜行し、細殿に入り横になっている、ひどく見ぐるしいことよ。布の白袴、几帳にうち掛け、上の衣の、長く大きいのを我が寝掛けている、まったく相応しくない。太刀のしりにひき掛けなどし、巡回などするのは、それは良い。青色衣を常に着ていたならば、どれほど立派かしら。「見しありあけぞ(見たわ有明のつきを・あのおとこ強くすばらしいよ)」と誰か言ったでしょうか(誰も言わない)。
言の戯れと言の心
「はう官…判官(衛門府に検非違使庁あり、警察、検察、裁判まで兼ねた役所の三等官)…放官(あだ名)…放埒官…放縦官…放逸官…勝手気ままで手荒」「やこう…夜の巡回…夜行…夜の徘徊」「わがね…環がね…まるめて…わが寝…我が寝るのに」「あをいろ…六位蔵人の着る袍の色…青色…若い色」「見…覯…媾…まぐあい」「有明け…明け方に残る月…残月…明けがたまでも健在のつきひとおとこ(これが言の心のわかる女の、おとこの褒め方)」「月…月人壮士…おとこ」「たれいひけん…誰が言ったでしょうか…つき人壮士を心より愛でる言葉を・どこの女人が言ったでしょうか・誰も言わない」。
宮仕えしたならば「ほう官」に気を付けよという話かな。判官には、苦々しい思い出がある。道長と闘争し逃亡する大納言伊周を逮捕したのは判官であろう。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。