帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百五〕見ぐるしきもの

2011-07-01 00:05:25 | 古典



                      帯とけの枕草子
〔百五〕見ぐるしきもの


 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 

 清少納言 枕草子〔百五〕見ぐるしきもの

 見ぐるしきもの(見苦しい情況)
 衣の背縫を片方に寄せて着ている。又、のけくびしたる(後襟をのけ反らせて着ている)。

 
馴染みでない人の前に子どもを背負って出てくる者。
 
ほふしおんやうじのかみかぶりしてはらへしたる(法師陰陽師が紙冠して祓えをしている…ほ伏し陰陽子が白いもの被って振っている)。
 色黒く見にくげな女が、かつら(鬘)しているのと、髯面でかじかんだように痩せた男、夏に昼寝しているのだけは、ひどく見苦しいことよ。なにの見るかひにて(何の見る甲斐にて…何をみる貝があるために)、そうして寝ているのでしょうね。夜ならば、容貌も見えず、また、だれだってそのようなこと(寝乱れ)になるけれど、われは醜いと起きだすこともないし、そうして、翌朝早く起きると、いとめやすかし(とっても見た目にも安らかよね…とってもめが安らかよね)。

 夏、昼寝して起きたのは、よき人ならば、いますこし趣もある。何ということもない容貌は、つやめきねはれて(顔は・てかてかで寝腫れして)、気づかずに頬がゆがみもしてしまっているでしょう。お互いに見交わすときの生きている甲斐のなさよ。

 痩せて色黒い人が、生絹のひとえ着ている、いと身ぐるしかし(とっても見苦しいよね)。

 
 言の戯れを知り言の心を心得ましょう。
 
「ほ…お…おとこ」「陰…女」「陽…おとこ」「し…師…子…名詞に付いて親愛なる物の意を表す」「はらへ…祓え…ぬさなど振る」「見る…目で見る…夫婦となる…まぐあう」「見…覯…媾」「かひ…甲斐…期待した効果…峡…貝…交い」「かつらの女・色黒…他でもない、わがことよ、女たちは皆知っていること」「め…目…見…女」「かし…よ…強めていう言葉」「生絹のひとえ…薄物で裏地なし…黒い肌色が透けて見える」。


 
「色黒くにくげな女のかつらしたる」は自嘲。自らを自らがあざけり笑っている。これも人の笑いを誘う。
 宮に初めて参りたる頃、宮のお付けになられた「わがあだ名」は、かつらぎのかみ(鬘着の上…葛城の神…明るいのは苦手な神…髪の筋目も色黒も見られるので明るい時は苦手な女)」。これを知る女たちには自嘲とわかる。



 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)


 原文は「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による