帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (214)山里は秋こそことにわびしけれ

2017-04-29 19:05:25 | 古典

            

 

                         帯とけの古今和歌集

                     ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 214

 

是貞親王家歌合の歌            忠岑

山里は秋こそことにわびしけれ 鹿の鳴く音に目をさましつつ

是貞親王家(寛平の御時、宇多天皇と御兄弟のお方の家)の歌合の歌。ただみね(古今集撰者の一人)

(山里は、秋こそ、特に侘びしいことよ、鹿の鳴く声に目を覚ましながら……山ばの妻女は、厭きこそ特に侘びしいことよ、肢下の泣く根によって、めを冷まし、筒)


 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「山里…山近い里…山ばの妻女」「山…ものの山ば」「さと…里…言の心は女…さ門…おんな」「秋…飽き…厭き」「わびし…もの足りずさみしい…つらい」「しか…鹿…肢下…おんな・おとこ」「なく…鳴く…泣く…なみだを流す」「ね…音…根…おとこ」「に…により…原因理由を表す」「め…目…女…おんな」「さまし…覚まし…覚醒し…冷まし…高ぶる感情を冷やし」「つつ…繰り返す…継続する…筒…空洞・空虚」。

 

山里は、秋こそ、特に侘びしい風情であることよ、鹿の鳴く声に、目を覚ましながら。――歌の清げな姿。

山ばのさ門は、厭きこそ、特に侘びしいことよ、肢下の泣く根のために、めを冷まし、筒・空しい。――心におかしきところ。

 

ものの厭き、おとこの儚くて、もの足りず、つらい性(さが)を、自嘲的に言い出した歌のようである

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)


帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (213)うきことを思つらねてかりがねの

2017-04-28 19:10:19 | 古典

            

 

                       帯とけの古今和歌集

                       ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 213

 

雁の鳴きけるを聞きてよめる          躬恒

うきことを思つらねてかりがねの なきこそわたれ秋の夜なよな

 雁が鳴いたのを聞いて詠んだと思われる・歌……かりする女が泣いたのを聞いて詠んだらしい・歌。 みつね(古今集撰者の一人)

(世の中の・憂きことを思い連ねて、雁の声が、鳴きつづくよ、秋の夜毎に……浮きことを思い連ねて、かりする女の声が、泣きつづくよ、飽き満ち足りる夜な夜な……憂きことを思い連ねて、肢下の根が、おとこ泣きし続ける、厭きの夜毎に)。

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「うきこと…憂きこと…つらいこと…浮きこと…浮かれたこと」「かりがね…雁が音…雁の声…鳥の言の心は女…女の声」「ね…音…声…根…おとこ」「なき…鳴き…泣き」「こそ…(前の語を)強く指示する」「わたれ…わたる…(山などを越えて)渡る…広がり満たす…(その情態が)続く」「あき…秋…飽き…飽き満ち足り…厭き…あきあき」「よなよな…夜な夜な…夜毎夜毎に…世なよな」。

 

世の中の・辛い事を思い連ねて、雁の声が、鳴きながら、渡ってゆく、秋の世なよな。――歌の清げな姿。

浮きことを思い連ねて、かりする女の声が・喜びの泣き声が、満ち、続く、飽きの夜な夜な……辛い思いを連ねて、かりする肢下の根が、汝身唾を流しおとこ泣きつつ、厭きの夜毎に。――心におかしきところ。

 

飽き満ちる夜な夜な、かりする妻女の、浮天に漂う喜びの声を詠むとともに、その厭きの、おとこの辛い思いを詠んだ歌のようである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)


帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (212)秋風に声をほにあげてくる舟は

2017-04-27 19:05:53 | 古典

            

 

                       帯とけの古今和歌集

                       ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 212

 

寛平御時后宮歌合の歌        藤原菅根朝臣

秋風に声をほにあげてくる舟は 天の門わたるかりにぞありける

(寛平御時后宮歌合の歌)        藤原菅根朝臣(菅原道真が流罪となった時、太宰府に同行して、そのまま、太宰府の少弐(三等官)となったようである。のち都に復帰して参議となる)

(秋風吹く時に、声を帆のように張り上げてくる舟は、天の水門を渡る、雁であったことよ……飽き風の心に吹く時に、小枝を帆のように上げて、来る繰る夫根は、あまの門わたるかりであったなあ)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「秋風…季節風…飽き風…心に吹く飽き満ち足りた風」「に…時を示す」「こゑ…声…小枝…おとこ」「ほにあげて…帆のように張り上げて…張って」「くる…来る…行く…繰る…繰り返す」「舟…ふね…夫根…おとこ」「あま…天…吾女…女」「と…門…水門…身門…おんな」「かり…雁…刈・狩・めとり…まぐあい」。

 

秋風吹く時に帆を張り、船頭たちが・声張りあげ漕ぎ行く舟は、天の水門渡る雁の群れだったことよ。――歌の清げな姿。

飽き満ちた風が心に吹く時に、小枝を帆のように張って、ゆくくる繰り返す夫根は、女のみ門わたるかりだったなあ。――心におかしきところ。

 

ただ、おとこの、かりするありさまを、詠んだ歌のようである。藤原菅根の歌は、古今集にこの一首のみである。心深くはない歌で、伝承人麿歌と対比するために、ここに置かれたようである。

 

仮名序にいう「今の世の中、色につき、人の心、花になりにけるより、あだ(徒・婀娜・不実)なる歌、はかなき言のみ出で来れば、色好みの家に、埋もれ木の、人知れぬこととなりて、まめなる所には、花薄、穂に出だすべきことにもあらずなりにたり」という歌群に属する歌だろうか。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)


帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (211)夜を寒み衣かりがね鳴くなへに

2017-04-26 19:01:27 | 古典

            

 

                       帯とけの古今和歌集

                            ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 211

 

(題しらず)            (よみ人しらず)

夜を寒み衣かりがね鳴くなへに 萩の下葉もうつろひにけり

この歌は、ある人のいはく、柿本人麿が也と

(夜が寒いのに、衣借りられず、朝・雁の鳴く声とともに、萩の下葉も色あせ散ったことよ……世の風が寒いので、衣借りられず、男泣き・汝身唾を流す、とすぐ、端木の下端も涸れ衰えたことよ)。

この歌は、或る人が云うには、柿木人麻呂の作であると


 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「夜…世…世間…世の風…男女の仲」「寒…肌身が寒い…みすぼらしい…心が寒い…心に寒風が吹く」「を――み…なので…なのに…原因理由を表す」「衣…心身を被うもの…心身の換喩…身と心」「かりがね…雁が音…雁の声…借りかね…借りられず」「かね…接尾語…し続けることが難しい…することができない」「鳴く…泣く…なみだを流す」「なへに…と共に…とすぐに」「はぎ…萩…草ながら端木と戯れて男木」「したは…下葉…下端…おとこ」「うつろひ…移ろひ…悪い方に変化すること…衰え・萎え・尽き」「けり…詠嘆」。

 

夜が寒いのに、衣借りられず、朝・雁が鳴くとともに、秋萩の下葉も枯れ落ちていたことよ。――歌の清げな姿。

妻との間が寒々しいので、身も心もかりすることできず、おとこ汝身唾流すとすぐさま、端木の下端も涸れ尽きてしまったことよ。――心におかしきところ。

世の風が寒いので、衣借りることもできず、男泣きしおとこ汝身唾流せば、たちまち、端木の下端も涸れ尽きたことよ。――歌の心深いところだろう。

 

妻とも遠く離された孤独な情況で詠んだ男の歌と聞いた。上のような多重の意味が、「よをさむみころもかりかね なくなへに はぎのしたはも うつろひにけり」の三十一文字に込められてある。

仮名序は「正三位柿本人麻呂なむ、歌のひじりなりける」。真名序は「先師柿本大夫者、高振神妙之思、独歩古今之間」と称賛する。作者の高ぶる思いが、不思議なほど抑制されて、聞き手の心に伝わる歌である。


 歌の「清げな姿」しか見えなければ、結局、何も見えなし、聞こえないのと同じである。(国文学は、上の句は序詞、雁と借りは掛詞と指摘するが、平安時代には、序詞とか掛詞という言葉さえない)。

 

 

古今集に収められた伝承・人麿の歌(七首)は、流人として流される船旅か流罪地かで、それ以外あり得ないような孤独な情況での歌のようである。これは(135)に次ぐ、第二首目。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)


帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (210)春霞かすみていにしかりがねは

2017-04-25 19:09:55 | 古典

            

 

                       帯とけの古今和歌集

                 ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 210

 

(題しらず)             (よみ人しらず)

春霞かすみていにしかりがねは 今ぞなくなる秋霧のうへに
                                         
(詠み人知らず、女の詠んだ歌として聞く)

(春霞、かすんで去ってしまった、雁の声は、今、聞こえているでしょう、秋霧の上に……張るが済み、かすむように逝ってしまった、かりが根は今ぞ亡くなる・かりする女の声は井間ぞ泣くなる、厭き切りの、その果てに)。

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「春霞…戯れて、春が済み・春情が済み・張るが済み」「かすみて…霞んで…霞がかかったようになって…ぼやけてしまって」「かりがね…雁が音…雁の声…かりする女の声…かりが根…かりするおとこ」「かり…雁…鳥…女…刈・狩り…めとり…まぐあい」「ね…音…声…根…おとこ」「いま…今…井間…おんな」「ぞ…(いまを)強調」「なくなる…鳴くのが聞こえる…泣くのがきこえる…亡くなる…逝く」「あききり…秋霧…飽き限り…厭き切り」「きり…霧…限…切り…離れ・途絶え・尽き」「うへに…上で…そのうえに…そのあげく」。

 

 

春霞と共に帰って行った雁の声は、今、秋霧の上に聞こえている。――歌の清げな姿。

張るが済み、かすんで逝った、かりの根は、井間にぞ、無くなる、厭き切りのうえに。――心におかしきところ。

 

いと早くおとこ根は尽きて逝く、和合ならなかった女の、井間の思いを表出した歌のようである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)