湘南文芸TAK

逗子でフツーに暮らし詩を書いています。オリジナルの詩と地域と文学についてほぼ毎日アップ。現代詩を書くメンバー募集中。

言葉についての詩

2016-06-02 16:11:39 | 
1年ほど前に詩作についての詩として室生犀星「はる」堀口大學「詩」「詩を漁る」を、書くことについての詩として高橋睦郎「書くこと」を掲載しました。
今日は言葉についての詩を紹介します。

言葉  笹沢美明

わたくしは ときどき言葉をさがす、
失くした品物を さがすときのように。
わたくしの頭の中の戸棚は混雑し
積まれた書物の山はくずされる。
それでも 言葉はみつからない。
すばらしい言葉、あの言葉。
人に聞かせたとき なるほどと思わせ、
自分も満足して にっこり笑えるような、
熟して落ちそうになる言葉、
秋の果実そのままの 味のよい
のどを うるおして行くような あの言葉。
美しい日本の言葉の ひとつびとつ
その美しい言葉をつかまえるために
わたくしは じっと 空を見つめる。
それなのに、その言葉は 遠くわたくしから
遠くわたくしから 去ってしまう。
秋の夕空に消えて行く
あの渡り鳥の影に似た言葉よ。
どうして つかまえなかったかと後悔する。
だが、遠い渡り鳥の影を誰が捕まえられよう。
わたくしは心を残して自分の心の窓を閉める。

やわらかな言葉、やさしい言葉。
荒さんだ人の心を柔らげるハーモニィ。
しゃべりすぎた自分を控えさせるモデラート。
そっとしておいて下さいと願う人にはピアニシモ。
そのときどきの そんな言葉はないものだろうか。
見うしなった影を追い求めるように
わたくしは じっと 空を見つめる。

現代詩で言葉さがしをテーマにしたら、失くした言葉をこんなにうっとり偲んだりしないでしょうね。
笹沢美明は小説家・笹沢左保のお父さんだそうです。

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