湘南文芸TAK

逗子でフツーに暮らし詩を書いています。オリジナルの詩と地域と文学についてほぼ毎日アップ。現代詩を書くメンバー募集中。

言葉についての言葉の企み

2016-05-18 22:28:40 | 

「言葉なんかおぼえるんじゃなかった……」
このショッキングな書き出しでよく知られた「帰途」(詩集『言葉のない世界』一九六二年 所収)という詩がある
人間ともろもろの事物の間に横たわる断絶を埋めるのは
何よりも自分自身を驚かす言葉の企みしかない   *「自分自身を驚かす」に傍点
詩とはこれか
諸君 タムラを読もう もう一度

横浜に住む90代の現役詩人、平林敏彦の最新詩集でこんなふうに触れられている、言葉のある世界をパラドキシカルに表現したタムラの詩。
私たちの今月の共通テーマ「詩・言葉」にちなんでやはり、読もう もう一度。

帰途   田村隆一

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ

あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる
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