永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(861)

2010年12月03日 | Weblog
2010.12/3  861

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(38)

「昨夜の方より出で給ふなり、いと柔らかにふるまひなし給へる、にほひなど、えんなる御心げさうには、いひ知らずしめ給へり。ねび人どもは、いとあやしく心え難く思ひまどはれけれど、さりとも悪しざまなる御心あらむやは、となぐさめたり」
――(明け方になって)匂宮が昨夜入っていかれた所から出ていかれるらしい。たいそう立ち振る舞われるのにつれて漂う薫物の香りなども、こうした恋の道行にふさわしく、ひとしお念入りにご用意なさったものでしょう。老女たちは事の次第が呑み込めず、戸惑い顔ではありますが、いくら何でも悪いようにはなさるまいと、心に言い聞かせて安心しています――

「暗き程にといそぎ帰り給ふ。道の程も帰るさはいと遥けくおぼされて、心安くもえ行き通はさらむ事の、かねていと苦しきを、「夜をやへだてむ」と思ひなやみ給ふなめり」
――(お二人は)暗いうちにと急いでお発ちになります。匂宮は後ろ髪を引かれる思いで、これからは気軽に宇治へ行ったり来たりも出来そうにないと、今から悩みの種ではありますが、中の君との新手枕(にいまくら)を交わしたからには、どうして夜を隔ててすごすことなど出来ようと、しきりに気を揉んでいらっしゃるご様子です――

 まだ人目に立たぬうちに六条院に帰り着かれ、廊のあたりに御車を寄せてお降りになります。

「異やうなる女車のさまして隠ろへ入り給ふに、みな笑ひ給ひて、『おろかならぬ宮仕の御志となむ思ひ給ふる』と申し給ふ。しるべのおこがましさを、いと妬くて、うれへもきこえ給はず」
――風変わりな女車の態を装って、人目を忍んでそそくさと奥にお入りになりますと、お二人で顔を見合わせでお笑いになり、薫が「並々ならぬお宮仕えぶりでございました」と申しあげます。薫は結局のところ匂宮のご案内役で終わってしまった馬鹿馬鹿しさに、情けなくも癪にもさわるので、愚痴を申し上げる気にもなりません――
 
 匂宮は早速後朝(きぬぎぬ)の御文を差し上げます。

「山里には誰も誰も現の心地し給はず、思ひみだれ給へり。さまざまにおぼし構へけるを色にも出し給はざりけるよ、と、うとましくつらく、姉宮をば思ひきこえ給ひて、目も見合わせ奉り給はず」
――宇治では大君も中の君も、真にあった事とも思えず、思い乱れていらっしゃいます。中の君は、姉君があれこれと計画しておられたことを、お顔色にもお出しになられなかったことよ、と、疎ましく辛くお思いになって、目も見合わせられません――

◆「夜をやへだてむ」=古歌「若草の新手枕をまきそめて夜をや隔てむにくくあらなくに」から。

では12/5に。


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