永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(865)

2010年12月11日 | Weblog
2010.12/11  865

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(42)

 次の夜は結婚三日目の夜となって、

「三日にあたる夜餅なむ参る、と、人々のきこゆれば、ことさらにさるべき祝ひの事にこそは、とおぼして、御前にてせさせ給ふもたどたどしく、かつは大人になりて掟て給ふも、人の見るらむことはばかられて、面うち赤めておはするさま、いとをかしげなり」
――結婚三日目の夜は祝いの餅を召しあがるものです、と、侍女たちが大君に申し上げますが、大君も特別にお祝いせねばならない御祝儀だとは思っても、御前でお作らせになりますものの、実はどうしたらよいものか見当もつきません。その上、大人ぶって指図なさるのも、人の目に恥ずかしく、お顔を赤らめていらっしゃいます。いかにも可憐なご様子です――

「このかみ心にや、のどかにけだかきものから、人の為、あはれになさけなさけしくぞおはしける」
――(大君は)姉のせいでしょうか、おっとりと上品であるうちにも、他人にたいして、慈しみ深く思いやりの深いご性質なのでした――

 そこへ薫から御文が届けられました。そこには、

「昨夜参らむと思う給へしかど、宮仕への労もしるしなげなめる世に、思う給へうらみてなむ。今宵は雑役もやと思う給へれど、宿直所のはしたなげに侍りしみだり心地、いとど安からで、やすらはれ侍る」
――昨夜御伺いしたいと思いましたが、一生懸命お仕えの甲斐もなさそうな、あなたとの間を恨めしく存じまして。今宵も(三日夜の)雑用もあろうかと存じますが、先夜のあなたの情れないおもてなしで風邪をひきまして、今なお治らずぐずぐずしております――

 と、

「陸奥紙においつぎ書き給ひて、設けの物ども、こまやかに縫ひなどもせざりける、色々おし巻きなどしつつ、御衣櫃あまた懸子に入れて、老人のもとに、「人々の料に」とてたまへり」
――風情のないごわごわした陸奥紙(みちのくがみ)に、行を揃えて几帳面にお書きになって、三日夜(みかよ)のお祝いに御入要な品々を(お急ぎになられたせいか)、きちんと縫い上げてなどしていなくて、ぐるぐる巻きにした物など、御衣櫃(みぞびつ)をたくさんの懸子(けんし)に納めて、老女(弁の君)のところへ「女房たちのご用に」と差し上げられました――

◆あはれになさけなさけしく=あはれに情け情けしく=しみじみとご愛情深く

◆宮仕への労(ろう)もしるしなげなめる=ご奉仕の甲斐もなさそうな。大君に対して。

◆陸奥紙(みちのくがみ)=良質ではあるが厚手の紙。恋文などには適さない紙。

◆御衣櫃(みぞびつ)あまた懸子(かけご)に入れて=衣裳箱をたくさんの懸子(外箱のふちにかけて、中に落ちないようにして、ひと回り小型の箱をはめこむように作った箱)に入れて。

◆絵:大君への思いの叶わなかった二日前の朝。

では12/13に。

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