永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(73)

2015年10月08日 | Weblog
蜻蛉日記  中卷  (73) 2015.10.8

「その前の五月雨の廿よ日のほど、物忌みもあり、長き精進も始めたる人、山寺にこもれり。雨いたく降りて、ながむるに、『いとあやしく心ぼそき所になん』などもあるべし。返りごとに、
<時しもあれかくさみだれの水まさり遠方人の日をもこそふれ>
とものしたるかへし、
<ましみづのましてほどふる物ならばおなじ濡れにて下りもたちなむ>
といふほどに、うるふ五月にもなりぬ。
◆◆その初めの五月、五月雨の二十日ほどのころ、物忌みもあり、長い精進をはじめたあの人は山寺に籠っていました。雨がひどく降って、わたしはぼんやりと眺めていたときに、「なんと、妙に心細い感じのするところで」などと手紙があったようだった。その返事に、
(道綱母の歌)「よりによって参籠中に五月雨で増水し、川向こうのあなたが帰京できないのではないかと心配です」
と言ってやりますと、返事に、
(兼家の歌)「川の増水で、これ以上足止めされるようなら、この雨に濡れて山を下りよう」
などと、文を交わしているうちに、閏五月になったのでした。◆◆ 


■その前の五月雨=この年、五月が二つあり、前の五月のこと。

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