永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(566)

2009年11月20日 | Weblog
09.11/20   566回

三十七帖【横笛(よこぶえ)の巻】 その(14)

 夕霧は、あの夢を思い出されて、

「この笛のわづらはしうもあるかな、人の心とどめて思へりしものの、行くべき方にもあらず、女の御伝へはかひなきをや、如何思ひつらむ、…」
――この笛は厄介なことがありそうだ。柏木が執着を持っていたものが私の所に来るというのは筋違いだし、女の方から贈られるものではないし、いったい柏木は何と思っていたのだろう。――

「かのいまはのとじめに、一念のうらめしきにも、もしはあはれとも思ふにまつはれてこそは、長き世の闇にも惑うわざななれ、かかればこそは、何事にも執はとどめじと思ふ世なれ」
――柏木があの臨終の際に兆した怨恨や執着の一念によって、死後も長く闇に迷うということだ。だからこそ何事にも執念を持つものではないのだ――

 などと思い続けて、愛宕の寺で柏木追善の読経をおさせになりました。そのほかの柏木が帰依しておられた寺でも読経をおこなわせららました。例の笛をいきなり寺に寄進することは尊いことながら、それではあまりにもあっけないことだと思って、六条院に参上しました。

 源氏は丁度明石の女御のお部屋においでになっておられな、女御の皇子の三の宮は三歳になっていて、久しぶりに夕霧に甘えてだっこをおねだりしています。兄宮の二の宮と、女三宮の若君薫とが、こちらでは分けへだてなくお遊びになっておられます。これは紫の上のご配慮でもあります。
 夕霧は薫をまだよく見たことがないと思い、桜の枝をお見せになってこちらに呼ばれますと、走っていらっしゃる。

「二藍の直衣の限りを着て、いみじう白う光りうつくしきこと、御子たちよりもこまかにをかしげにて、つぶつぶと清らなり」
――(薫は)二藍の直衣だけを着て、大そう色白で艶やかに美しいことは親王たちよりもずっと優れ、気品があり、丸々と太って綺麗でいらっしゃる――

「なま目とまる心も添ひて見ればにや、眼居など、これは今少し強うかどあるさままさりたれど、まじりのとぢめをかしうかをれる気色など、いとよく覚え給へり」
――何となくそう思って見るせいか、目もとなどは、薫の方が柏木より強く才気が勝っているようだが、目尻の切れが美しく薫っている様子などは、たいそう良く柏木に似ている――

◆女の御伝へはかひなきをや=笛は男性から男性へ伝え贈られるもの。この場合、柏木から実子の薫へ贈られるべきことを暗示している。

◆眼居=まなこゐ=眼差しのこと

◆よく覚え=よく似ている

ではまた。

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