永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(575)

2009年11月29日 | Weblog
09.11/29   575回

三十八帖 【鈴虫(すずむし)の巻】 その(5)
 
 寝殿の北廂との間の障子も取り払って広くして、女房たちをそちらへお移しになって、やや静かになったところで、源氏は、

「宮にも物の心知り給ふべきしたかたを、聞こえ知らせ給ふ。いとあはれに見ゆ。」
――女三宮に、今日の法会についての予備知識をお聞かせになります。まことにあはれ深い情景です――

 女三宮がご自分のお居間をお貸しになった法会の場所のご設備をご覧になるにつけ、源氏はあれこれと胸にせまってきて、

「かかる方の御営みをも、もろともにいそがむものとは思ひ寄らざりし事なり。よし後の世にだに、かの花の中の宿に、隔てなくと思ほせ」
――こういうご法会のお手伝いを申そうとは思ってもおりませんでした。まあ、来世には同じ蓮の上に宿って、隔てなく暮らすことを御祈願ください――

 と、ほろほろと涙をこぼされて、(歌)

「はちす葉をおなじうてなと契りおきて露のわかるるけふぞ悲しき」
――来世は一つ蓮の上にと約束しても、今尼になったあなたと離れ離れになってしまったのが悲しい――

 女三宮の返歌、

「へだてなくはちすの宿をちぎりても君がこころやすまじとすらむ」
――未来は同じ蓮の上にとおっしゃっても、あなたはこだわりをお捨てにはならないでしょう――

 源氏は苦笑いをなさって、

「いふかひなくも思ほしくたすかな」
――折角私の心から申しましたのを、くさしておしまいになって――

 と、やはりしみじみと物思いに沈んでいらっしゃるご様子です。

◆したかた(下形)=模型、ひな形、心得、前もっての用意。

ではまた。