永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(561)

2009年11月15日 | Weblog
09.11/15   561回

三十七帖【横笛(よこぶえ)の巻】 その(9)

 夕霧の(歌)、

「ことに出でていはぬをいふにまさるとは人にはぢたるけしきをぞみる」
――あなたのはにかんだご様子をみていますと、口に出して言わないことが、言うこと以上に深い思いだと分かります。(言に琴を掛ける)――

 と申し上げますと、落葉宮はただ曲の最後の方だけをお弾きになって、(歌)

「ふかき夜のあはればかりはききわけどことよりほかにえやは言ひける」
――深夜に聴きます想夫恋の曲の趣は、私にも分かりますが、琴を弾くこと以外に、私は何を申し上げることができたでしょう――

 故人(柏木)が、落葉宮に伝授された筝の音色をいつまでも聴いていたかったのに、すぐに止められましたので、夕霧は恨めしい気がして、

「すきずきしさを、さまざまにひき出でてもご覧ぜられぬるかな。秋の夜ふかし侍らむも、昔のとがめやと憚りてなむ、まかで侍りぬべかめる」
――私の好き心を、琵琶や和琴を弾いて見透かされてしまいましたね。秋の夜を更かしすぎましても、個人に咎められるかと遠慮されますので、もうお暇しなければなりますまい――

 後日また参上いたしますまで、琵琶や和琴の調子をそのままにしておまちくださいませんか。弾き違い(違約)ということも世間ではありますから心配で、と夕霧は、

「まほにはあらねど、うちにほはしおきて出で給ふ」
――真正面からではありませんが、意中を仄めかしてお帰りになります――

 御息所が、

「今宵の御すきには、人ゆるし聞こえつべくなむありける」
――今夜のこの程度の風流さを、人も咎めはしないでしょう――

 と、夕霧へ、この夜のお礼の贈り物に笛を添えて差し上げます。

ではまた。