永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(567)

2009年11月21日 | Weblog
09.11/21   567回

三十七帖【横笛(よこぶえ)の巻】 その(15)

そして、薫の様子は、

「口つきの、ことさらはなやかなる様して、うち笑みたるなど、わが眼のうちつけなるにやあらむ、大臣は必ず思しよすらむと、いよいよ御けしきゆかし」
――口元がことに華やかで、にっこりとなさるところなどは、わが眼を疑うほどそっくりで、これでは六条の院(源氏)もきっとお気づきのことであろうと、ますます父上のお心を知りたいと思うのでした――

 明石の女御の皇子たちは、そのご身分として拝見するから気高くも思えますが、この薫は非常に上品で、特別に愛嬌もあって、ついつい見比べてご覧になる夕霧は、

「いであはれ、もし疑ふゆゑもまことならば、父大臣のさばかり世にいみじう思ひほれ給うて、子と名乗り出で来る人だになきこと、形見に見るばかりの名残をだにとどめよかし、と泣きこがれ給ふに、聞かせ奉らざらむ罪得がましさ…」
――なんとまあ、もしも自分の疑いが当たっているなら、柏木の御父大臣があれほど気が抜けたようにおなりになって、柏木の子だと名乗ってくる人すら無いことよ、せめて形見と思うだけのあとを残してくれたならと、泣き泣きお暮しになっておられるのですから、この事をお知らせしないのは罪作りなことだ――

 と、思いますものの、

「いで、いかで然はあるべき事ぞ」
――いや、どうしてそんなことがあろう――

 どうしても納得がゆかず、見当がつかないのでした。薫は気立てもやさしく、夕霧にすっかりなついていられるので、可愛くてご一緒にお遊びになります。

 夕霧はそのあと源氏に、昨夜の一条邸に行かれたご様子をあれこれお話なさいますと、
源氏は微笑しながらお聞きになっていて、かの想夫恋の合奏のところでは、「その想夫恋を弾かれた落葉宮のお心持ちはどうであったろう。なるほど後の世までも語り伝えたいようなあわれ深い話ではあるがね…」と続けられます。

ではまた。