永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(573)

2009年11月27日 | Weblog
09.11/27   573回

三十八帖 【鈴虫(すずむし)の巻】 その(3)

 お仏前に薫く香は、唐風の百歩(ひゃくぶ)という薫衣香(くぬえこう)を焚いていらっしゃる。阿弥陀仏、脇持の菩薩ともに白檀で作らせてあります。閼伽の具は小さく作ってあって、青や白や紫の蓮の造花を飾り、荷葉(かよう=香の調合法)による名香が蜜で固めたことが目立たないように、ほろほろに焚き合わせてあって、それが百歩の香と一つに合わさって大変懐かしいげに薫っています。

「経は六道の衆生のために、六部書かせ給ひて、自らの御持経は、院ぞ御手づから書かせ給ひける。」
――お経は、六界に輪廻して迷う人々を救うために、法華経を六部写せられて、女三宮が朝夕お持ちになるお経は、源氏自ら写経なさったものです――

「これをだにこの世の結縁にて、かたみに導き交はし給ふべき心を、願文に作らせ給へり」
――(源氏は)せめてこの経を現世の夫婦の縁として、来世はその功徳で互いに手を取り合って浄土に往生できるようにとの意味を、仏前への願文にお書きになりました――

 また阿弥陀経も、唐の紙は脆くて朝夕お手になさるにはどうかと思われて、官用の紙屋紙(かんやがみ)を漉く人々を召して立派に作られた紙に、この春頃から、源氏はお心を込めてお書きになっただけに、眩しい程の見事さです。

「罫かけたる金の筋よりも、墨つぎの上に輝くさまなども、いとなむめづらかなりける。
……これはことに沈の花足の机にすゑて、仏の御おなじ帳台の上に飾られ給へり」
――(写経の)罫を引いてある金泥の線よりも、源氏の墨色の輝かしさの方がずっと珍しい見ものです。……源氏ご自筆の写経は、特に沈の香木の花足(けそく)のついた机にお載せして、ご本尊と同じ帳台の上に飾られました――

◆六道の衆生のため=六道(ろくどう)とは、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上の六界のこと。

◆写真:源氏が書写したお経  沈の花足の机の上に置かれています。
     風俗博物館

ではまた。