永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(568)

2009年11月22日 | Weblog
09.11/22   568回

三十七帖【横笛(よこぶえ)の巻】 その(16)

 源氏はお話を続けられて、

「女はなほ人の心うつるばかりの故由をも、おぼろげにては漏らすまじうこそありけれと、思ひ知らるる事どもこそ多かれ。過ぎにし方の志を忘れず、かく長き用意を人に知られぬとならば、同じうは心清くて、とかくかかづらひ、ゆかしげなき乱れなからむや、誰が為も心にくく、めやすかるべき事ならむとなむ思ふ」
――しかし、女はそれほどの嗜みがあったとしても、めったなことでは示すものではないと思うことが多いね。あなたが柏木との友情を忘れず、その落葉宮を末長くお世話しようというならば、同じ事なら、潔白な心で何かと配慮して、浅はかな浮気心など起こさない方が、誰の為にもゆかしく無難なことだと思うよ――

 とおっしゃいます。夕霧は、

「さかし、人の上の御教へばかりは心強げにて、かかるすきはいでや」
――なるほど、人にお教えになるときだけは、しっかりと要心深くおっしゃるけれど、さて、ご自身のこととなると、こんな時の浮気はどんなものであろうか――

 と、お心にお思いになりながら源氏をお見上げして、

「何の乱れか侍らむ。(……)」
――何の浮気などいたしましょう。(でも親切を尽くし始めてたちまち顧みなくなっては、返って世間から疑いをかけられそうで。想夫恋もあの方はご自分からではなく、たいそう奥ゆかしい風情がありました)――

「齢なども、やうやういたう若び給ふべき程にもものし給はず、またあざれがましう、すきずきしき気色などに、物馴れなどもし侍らぬに、うちとけ給ふにや、大方なつかしうめやすき人の御有様になむ、ものし給ひける」
――(落葉宮の)年齢も、それほど若々しいという程でもありませんし、私もふざけた浮気事などの経験もありませんから、安心しておいでのようで、全体に優しく感じの良い方でいらっしゃいます――

 と申し上げて、丁度よい機会とお思いになり、あの笛の夢のお話をなさるために、源氏の近くに膝を進めます。

ではまた。