永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(574)

2009年11月28日 | Weblog
09.11/28   574回

三十八帖 【鈴虫(すずむし)の巻】 その(4)

 このように法会のお場所も整って、お説教の僧が参上し、行香の人々も参集されましたので、源氏もそちらへお出ましにまろうと、女三宮のいらっしゃる西の廂をのぞかれますと、常のお居間が法会に使われましたので仮の御座所に、仰々しく着飾った女房たち五六十人ばかりも集まっていて、薫物を咽かえるほど煽ぎたてていますので、源氏は、

「空に焼くは、いづくの煙ぞと思ひわかれぬこそよけれ、富士の峰よりもけに、くゆり満ち出でたるは、本意なきわざなり。講説の折は、大方の鳴りをしづめて、のどかに物の心も聞きわくべき事なれば、憚りなき衣の音なひ、人のけはひ、しづめてなむよかるべき」
――空薫きというものは、どこから漂ってくるのか分からないくらいが良いのだ。富士山の煙りかと思うほど辺り一面にけぶらせるのは、良くないね。お説法を伺うときは、あたりもしんとして、静かに説法の意味も聴きとるべきですから、無遠慮な衣ずれの音や、人声は立てないようにした方が良い――

 と、源氏は思慮の足りない若女房たちにお教えになります。

「宮は人気に圧され給ひて、いとちひさくをかしげにて、ひれ臥し給へり」
――(女三宮の)尼宮は、あまり人数の多いのに気圧されて、たいそう小柄な美しいご様子で、物に寄り臥しておいでになります――

 若君(薫)は悪戯ざかりなので、女房に抱かれてあちらへ連れて行かれました。

◆写真:尼姿の女三宮  風俗博物館

ではまた。