永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(556)

2009年11月10日 | Weblog
09.11/10   556回

三十七帖【横笛(よこぶえ)の巻】 その(4)

「若宮は乳母のもとに寝給へりける、起きてはひ出で給ひて、御袖を引きまつはれ奉り給ふさま、いとうつくし」
――若宮(薫)は、乳母の傍でお寝みになっておいででしたが、起きては這い出して、源氏のお袖を引っ張ったり、まつわりついたりなさる様子が大そう可愛らしい――

「いとらうたげに白くそびやかに、柳を削りて作りたらむやうなり。頭はつゆ草してことさらに色どりたらむ心地して、口つきうつくしうにほひ、まみのびらかに、はづかしう薫りたるなどは、なほいとよく思ひ出でらるれど」
――(薫は)大そう可愛らしく、色は白くてすらりとしていて、柳の木を削って作ったお人形のようです。頭はつゆ草で特に染めたような濡れ羽色で、口元は艶やかに愛らしく、目元が穏やかで美しく深みがあるなど、やはりどこか柏木によく似ているようではありますが――

「かれはいとかやうに、際離れたる清らはなかりしものを、いかでかからむ、宮にも似奉らず、今より気高くものものしう、様異に見え給へる気色などは、わが御鏡の影にも似げなからず見なされ給ふ」
――柏木にはこれほど並外れたきれいさは無かったのに、薫はどうしてなのだろう。母の女三宮にも似ておらず、今から上品で重みがあって、特別立派にお見えになるご様子は、鏡に映った源氏のお顔に比べてみても、わが子としてまんざら似ていないでもないとお思いになるのでした――

 薫はやっと歩き初めの頃で、あれこれとお口に入れたりなさるので、源氏は、

「あな乱がはしや。いと不便なり。かれとり隠せ。食ひ物に目とどめ給ふと、物いひさがなき女房もこそ言ひなせ」
――ああ、行儀のわるい。いけないよ。その筍を隠してしまいなさい。食べ物をねらう意地汚い子だと、口の悪い女房たちが言いふらすからね――

 と笑いながらおっしゃる。

ではまた。