ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

奇声「カッカ、カカカカ」

2008-03-02 | Weblog
商用で近江大津の石山に行ったときのこと、信じられない奇跡に出くわした。わたしの口は開いたまま、よだれこそ垂れなかったが、あまりのショックに愕然としてしまった。
 目的地に着いて、車のドアを開けると同時に、どこからか声というか音が聞こえてきた。「カッカ、カカカカ!」。このけったいな音声の発信元を知るべく、周りを見渡したが、わからない。それでも気になるので、しばらく立っていた。するとまたも「カッカ、カカカカ」と、明らかに鳥の声らしきものが、耳に響いた。
 どうも向こうのメタセコイアに似た大きな樹の梢から声は届くように思うのだが、いくら待ってももう鳴かない。あきらめて商いに出向いた。事務所のみなさんに、このことをいっても、どなたも「閣下?閣下?何のことですか?」と、話しにもならない。
 もしも鳥なら、日本の在来種に、あのような鳴き声の野鳥はいないはずだ。おそらく舶来種をだれかが飼っていて、奇声に驚愕した近所の住人からの苦情のために、飼い主はついに折れて手放したのではないか? 大きな変な声なので、飼うには周囲を一向に気にしない度胸がいる。
 そして一週間の後、再訪して驚いた。わたしが来るのを待っていたかのごとく、駐車場に着くと同時に「カッカ、カカカカ」と、冷たい空気を切り裂くように、忘れがたい例の声が鳴り響いたのである。
 「よし、今日こそは正体を見定めてやる」と決意し、つぎの発声を待った。すると、また鳴いた。建物屋上の角の位置に、その鳥がいる。視力の低下した老眼で見据えると、なんとその声の主は、カラスなのだ。体を上下に揺らしながら、「カッカ、カカカカ」と何度も鳴くではないか。
 彼か彼女かは知らないが、周りには数羽の仲間が取り囲んでいる。しかしただの一羽も「カア」ともいわない。沈黙して、このけったいな仲間を見守っている。それこそ全員が、わたしもだが、口をポカーンと開いて、天才奇声カラスを凝視している。
 眼が点になるとはこの光景をいうのだろう。みな尊敬の小さな眼差しで、ダーウィンも驚くほどの奇跡カラスの奇声に聞きほれている。さらには遠方からも、仲間がどんどん飛来してくる。有名な歌手の主人公以外、どの鳥もすべて沈黙している。
 彼とよぶが、このカラスは人間でいえば「人間国宝」、彼の世界では「カラス国宝」、体は有形、芸は無形の重要文化財であろう。
 わたしなど、幼いころから、奇人変人の扱いを受けてきた。決して反省などしないのだが、彼を見ていて思うのは、わたしに似合う呼称は「天然記念物」であろうか。オオサンショウウオやイリオモテヤマネコが聞いたら、「一緒にするな」と気分を悪くするだろうが、文化財とは縁遠い。国宝か文化財並みのこのカラスは、たいした奴である。
 この文章を自宅パソコンで叩いていたら、窓ガラスの向こうをカラスが一羽飛んでいく。「アッフォー」と鳴きながら。
<2008年3月2日 南浦邦仁>
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