ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

未来地図レポート

2014-08-19 | Weblog
 中近東でもウクライナでもありませんが、佐々木俊尚さんのメルマガを、本日は前略中略のダイジェストで紹介します。「佐々木俊尚の未来地図レポート」は毎週月曜発行の有料メールマガジンです。購読をおすすめします。
 本日号特集「2010年代ネットメディア周辺で起きた3つの変化を読み解く~インターネットの言論空間はどう変わってきたのか。その歴史を振り返る(4)」(2014年8月18日 Vol.309)


 (前略)インターネットが普及する以前は、情報の需給バランスが著しく供給側に傾いていました。つまり情報を求めている人はたくさんいるのに、情報の供給が雑誌や新聞、テレビなどに絞られていたということです。この需給バランスは、メディア側に余剰の富をもたらしていたのはまぎれもない事実で、放送局や出版社、新聞社の高給はこの余剰から来ていたといえるでしょう。そしてフリーライターやフリーのテレビディレクターなどにも、そうした余剰がちゃんとまわってきて業界全体を潤してくれるというエコシステムができあがっていたんですね。


 しかしネットが普及したことでこの需給バランスは逆に振れ、需要側に傾いてしまいました。つまり供給は膨大にあるけれども、そんなにたくさんの情報を全部読める人はいない、という情報洪水状態になったことで、旧来の余剰が消し飛んでしまったわけです。これがフリーライター淘汰の原因と考えれば、当然の歴史的帰結ということになってしまうのですが、しかし一方でこれによって「一時情報を取材して書けるプロ」というのが減ってしまったという、社会的損失も忘れてはなりません。これも長期的には、大きな影響となってくるでしょう。(中略)

 この新しいネット世代は、2010年代なかばになって台頭してきました。もちろん、2ちゃんねるやブログに体現される古いネット世代は、最年長組が40歳代に達しつつあり、中高年の仲間入りをし、これはこれでまた別のかたちのネット層を形成してきています。さらには最近は、「マイルドヤンキー」などと呼ばれるような地方のユーザーの存在も可視化されてきています。

 格差社会化と世代交代、都市と地方。そしてパソコンから携帯電話へ、携帯電話からスマホへというネットのテクノロジの進化。そういうさまざまな要因が次々に加えられ、ネットのレイヤー化はますます加速していっています。

 今後、この複雑に多層化したレイヤーをどう横断的につなぎ、どう新たな世論を形成し、民主政治を維持していくのかということが大きな社会的課題になっていくといえるのですが、そういう中でネットメディアの市場もここに来て激変してきています。

 それは、キュレーションメディアとかキュレーションアプリと呼ばれる新しいジャンルのウェブメディアの普及です。グノシーやスマートニュース、LINEニュース、ニューズピックスなどがそうですね。ウェブ上に流れている新聞や雑誌、ネットメディアなどさまざまなニュースソースを収集し、アルゴリズムによって自動判別し、パーソナライズするなど読者に最適化した形で記事を届けているメディアです。これらのメディアの将来可能性には多くの業界人が期待していて、実際、小規模なベンチャー企業である両社とも十億円を越えるような巨額の資金調達に成功しています。

 このようなキュレーションメディアが、従来のSNSで加速されてきたクラスター化を防ぎ、新たなマスメディア的役割を果たすようになるのかどうか。つまり公共圏の担い手としてのプラットフォームになっていくのか、それとも単なるツールとして利用されるだけで終わるのかは、現時点ではまだ何とも言えません。先日開かれたグノシーのメディア向けセミナーで、わたしは「これからのグノシーの役割は?」と聞かれ、次のように回答しました。このコメントを持って、本シリーズのまとめとしたいと思います。

「ITの進化によって、新聞の世論調査よりもずっと精緻なビッグデータ分析で、人々の声や世論をすくい上げることもおそらく可能になる。その中で、Gunosyなどのキュレーションメディアも巨大化するに従って、公共性をどのようにして政策やアジェンダの設定に結びつけるのかという非常に重要な設問が必ず出てくる。ここをぜひしっかりと考えてもらいたい。そうすれば、新しい民主主義の可能性も開けるのではないか」 完
<2014年8月18日>
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラム国とは?

2014-08-15 | Weblog
 ISISとかISILで呼ばれていたイスラム過激派集団ですが、近ごろのマスコミ表記では「イスラム国」でほぼ統一されたようです。一体彼らはどのようなグループなのでしょう? 残虐な集団なのか、国家なのか? ロイターの記事は長文ですが、ほぼ納得できそうです。


「焦点:勢力拡大するイスラム国、中東の「新秩序」を形成か」 2014年 08月 14日 14:12 JST
[ベイルート 12日 ロイター]

 イラクで国土の約3分の1を制圧するまで勢力を拡大したスンニ派原理主義組織「イスラム国」。当初は国際社会から軽視される存在だったが、2011年にイラクを撤退した米軍に再び軍事介入を余儀なくさせるなど、中東で強力かつ永続的な勢力になろうとしている。
「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)が指導する国家」の樹立を宣言したイスラム国は、イラクが分裂状態に陥った隙をつき、アラブ世界の中心地で聖戦主義の拠点を築いた。イスラム国の兵士を狙った空爆でイラク情勢が好転する可能性は低い。
 専門家らは、シリア東部からイラク西部を掌握しているイスラム国との戦闘には、国連安全保障理事会の決議によって組織された国際部隊の創設が必要だと指摘する。
 聖戦主義を訴えるイスラム国は、忠誠を拒否すれば処刑、受け入れれば現金を与えるなどの統治手法を使って影響力を急速に拡大させており、チグリス川とユーフラテス川の間に国境を越えた「カリフ国家」建設を目指している。
組織の戦闘員たちは、アラブ社会に残る宗派間・民族間の対立を利用して地域社会を恐怖で支配し、シリア内戦に積極的に介入しようとしない欧米の姿勢にもつけ込んでいる。
 ウサマ・ビンラディン容疑者が率いていた国際武装組織アルカイダと違うのは、イスラム国には、領土に関する目標があり、社会構造をつくる意志もあることだ。彼らは、オスマン帝国の領土を分割し、アラブ世界の国境を引いた1916年のサイクス・ピコ協定に対して激しい怒りを持っている。
 米軍撤退から約3年が経ち、泥沼状態に陥ったイラク。オバマ米大統領はイスラム国に対する限定的空爆に踏み切ったが、その決断の背景には、シリア情勢も絡み合っている。
 シリアでアサド政権と戦う反政府勢力は、スン二派が多数を占める。専門家は、反政府勢力に武器が供与されなかったことが、同じスンニ派であるイスラム国が最初にシリア国内で勢力を拡大する足がかりになったと指摘する。

 オバマ政権は約1年前、化学兵器を使用した疑いのあるアサド政権に対する軍事行動を土壇場で見送った。その決断が結局、シリアと隣国イラクで多くの犠牲を生んだと指摘する声は多い。
 軍事介入が見送られたことでアサド政権は息を吹き返し、スンニ派が多い反政府勢力の弾圧強化につながった。シリアとイラクのスンニ派は失望し、武装組織が求心力を高める結果を招いた。

<レバノンにも攻撃の手>
 豊富な資金力で重武装したイスラム国の戦闘員たちは、過去数カ月で電撃的に勢力を拡大した。一方、イラク政府軍とクルド人治安部隊は、シーア派や少数派民族の虐殺も辞さないイスラム国の猛攻を前に腰くだけとなっている。
 またイスラム国は、処刑のシーンをネット上に流したり、少数派を虐殺したりすることで、自分たちの敵対勢力には容赦なく行動するというメッセージを送っている。多くの人にとって、彼らがやっているのは、アルカイダ以上に徹底した「異教徒の抹殺」だ。
 イスラム国は、シリアの国土の約35%に相当する地域を制圧。同国北部と東部を後方基地とし、今ではシリアの西に位置するレバノンにも攻撃の手を伸ばしてる。
 彼らの急速な進攻を可能にしているのは、内部分裂に陥ったシリアとイラクでスンニ派が疎外感を強めていることが大きい。スンニ派は、両国政府ともシーア派やその背後にいるイランに牛耳られているとみており、過激派であるイスラム国と手を組むことさえいとわなくなっているからだ。また、欧米各国の中東政策にもスンニ派は不満を募らせている。
 オバマ大統領は今回の空爆について、イスラム国による大量虐殺の恐れに直面するヤジディ教徒数万人を保護する人道目的であり、米公館が置かれる北部クルド人自治区の要衝アルビルを守るためだとも説明している。
 しかし、米国の真の戦略的狙いは、クルド人治安部隊「ペシュメルガ」への支援であることも透けて見える。ペシュメルガは、対シリア国境など約1000キロに及ぶ地域でイスラム国と対峙しているが、装備面では劣るために退却を余儀なくされていた。米政府はペシュメルガへの武器供与も始めた。

<対立と分断の受け皿に>
 イスラム国には、武器を購入したり戦闘員らを集めたりするだけの資金力がある。今年6月にモスルなどを制圧した際には、米国がイラク政府軍に供与していた最新兵器も手に入れた。
 資金源は、支持者からの寄付や略奪で得た金品だけではない。彼らは石油資源も押さえている。専門家によれば、シリア東部では油田50カ所が、イラク北部および北西部では油田20カ所が、イスラム国の掌握下にあるという。
また、イスラム国をアルカイダと同列に扱うべきではないと指摘する専門家は多い。
 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの中東政治学教授、ファワズ・ゲルゲス氏は、イスラム国は国家分裂で生じた空白部分を埋めており、アルカイダとは違って真の社会的基盤を構築していると指摘。
 「アルカイダは国境と無関係で、社会的基盤も見当たらなかった。イスラム国を軽視できないのは、彼らが宗派対立や社会的・観念的分断の受け皿になっているようだからだ。イスラム国の台頭は、アラブ国家が崩壊している兆候に他ならない」と語った。

<サウジアラビアの懸念>
 中東の大国サウジアラビアは、スンニ派のうち特にイスラム教の戒律に厳しいワッハーブ派を国教とし、フセイン政権崩壊後のイラクでシーア派中心政権が樹立するのを受け入れてこなかった。
 専門家らによれば、イラクで政府軍とクルド人治安部隊を撃破しているイスラム国に対し、サウジ国内の一部では、一定の共感と称賛が生まれているという。
 サウジの改革派学者モーセン・アルアワジ氏は「イスラム国のプロパガンダは、自分たちはシーア派と戦っているというもので、これが一部で共感を呼ぶ理由だ。しかし、その共感は過激主義者の間だけのものであり、実体はない」としたうえで、「われわれが非常に憂慮しているのは、このプロパガンダを信じるであろう若者たちのことだ」と述べた。
 一方、多くの専門家に共通するのは、米軍による空爆で流れは変わらないという認識だ。イラクの新政権がスンニ派の不満に根本的に対処しない限り、米国が思い通りに政策を進めるのは極めて難しいとみられる。スンニ派の政権参加を認めることも必要となるだろう。
そうした対応をしない限り、イスラム国はさらに勢力を拡大することになる。
 残虐な処刑行為などが報告されるイスラム国だが、独自の法と秩序で犯罪行為を抑止するなど、制圧した地域社会では一定の敬意を集めてもいる。職にあぶれた若者にとっては、イスラム国から受け取る現金は数少ない収入源の1つでもある。
イスラム国は、若い層に自分たちの理念を植え付けることに注力しているように見える。あるビデオでは、カリフ国家に参加するためベルギーから来たという一組の親子を取り上げている。
 ビデオの中で親は8歳になる息子に、家に帰りたいかとたずねる。「イスラム国に残りたい。欧州の異教徒たちと戦う聖戦の戦士になりたい」。これが少年の答えだった。
 少年たちを集めたイスラム国の訓練キャンプでは、教官の1人がカメラに向かってこう語った。「ここにいるのはカリフ世代の子供たちだ。米国とその仲間たち、背教者や異教徒と戦うことになる世代だ。彼らには本物のイデオロギーが植え付けられている」。
(原文:Samia Nakhoul、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)
<2015年8月15日>

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マレーシア機撃墜「ウクライナ軍」説

2014-08-13 | Weblog
 マレーシア機撃墜の真相は? 前に田中宇さんの説を紹介しましたが、本日は北野幸伯さんの解説を転載します。

「ロシア・中国で流れるマレーシア機撃墜『ウクライナ軍』説」
 PRESIDENT Online 8月12日 北野幸伯
 http://president.jp/articles/-/13198


○ウクライナ軍によるプーチン暗殺未遂?

 マレーシア航空機が7月17日、ウクライナ東部ドネツクで撃墜された事件。日本では、ウクライナからの独立を目指し、ロシアの支援を受ける親ロシア派による誤爆というのが定説だ。
 しかし、世界的な定説かというと、実はそうでもない。ロシアでは、ほぼ全国民が親ロシア派がやったとは思っていない。何と、欧米寄りのウクライナ軍がやった! というのだ。

「ウクライナ軍説」は、7月22日付毎日新聞にも掲載されている。
<ロシア国防省は21日、マレーシア航空機撃墜事件について会見し、スホイ25攻撃機とみられるウクライナ空軍機が撃墜当時、マレーシア機に3~5キロまで接近して飛行していたと発表した>
<またウクライナ軍が当日に東部ドネツク州で地対空ミサイルシステムを稼働していたとも指摘。断定は避けつつも、撃墜にウクライナ軍が関与しているとの見方を示した>

中国でもそうした報道が見られる。7月18日付新華ニュースは、ロシア国営メディア「ロシア・トゥデイ」の報道を引用して、こんな記事を掲載している。
<撃墜されたマレーシア航空機がプーチン大統領専用機と同じ航空路を飛行 プーチン大統領が襲撃目標か>
<(消息筋は)「マレーシア航空機はモスクワ現地時間午後3時44分に、プーチン大統領専用機は午後4時21分にそこを通った」と語り、「2機の外観、カラーなどがほとんど同じで、2機の区分けをするのは難しい」と付け加えた>
要するに、「ウクライナ軍によるプーチン暗殺未遂だ!」というのだ。

日本人にはトンデモ話に聞こえるが、中ロの示す根拠は3つある。


○誰が得し、誰が損したのか?

 第一に、なぜウクライナ政府は、戦闘地域への民間機の飛行を許可していたのか、だ。
 ドネツクでは、親ロシア派がしばしばウクライナ軍の軍用機を撃墜していた。なのにウクライナ政府は、マレーシア航空機や他の民間機がこの地域を飛ぶことを許可していた。これは、いずれ親ロシア派が民間機を誤爆することを期待していたからではないか? というわけだ。
 この場合、撃墜したのは親ロシア派だが、そこに誘導したのがウクライナ政府ということになる。ロシアではもっと進んで、「親ロシア派の犯行に見せかけるためにウクライナ軍が撃墜した」と報道されている。

 次に、誰が得をしたのか? だ。これは最もわかりやすい“真犯人捜し”だが、今回のそれは米国とウクライナだといえる。米国はロシアの孤立化に成功し、ウクライナは親ロシア派を「民間人を殺す悪の権化」にすることができた。無論、損をしたのは親ロシア派と、ますます世界で孤立したロシアである。

 三番目に、強力な証拠が出てこないことだ。オバマ大統領は、事件が起きると即座に、「親ロシア派がやった『強力な証拠』がある!」と宣言した。しかし、いまだに万民が納得できる「強力な」証拠は公開されていない。ロシア国防省は逆に、「証拠があるのなら出してみろ!」と米国側に噛みついている。

 ちなみに筆者は、親ロシア派誤爆説を支持しているが、これらの根拠への答えはない。いずれにせよ、国際調査委員会の報告が待たれる。
それにしても、同じ事件なのになぜ、地域によってこうも違う報道がなされるのか。
 日本人の大半は、マスコミはおおむね事実を報道すると信じているが、実は、そうではない。政治的意図は少なくない頻度で事実より優先される。今回の場合、米国の政治的意図は、「クリミアを併合し、米国に逆らうプーチン・ロシアを国際社会で孤立させること」。たとえウクライナ軍が撃墜したとしても、ロシアがやった! と主張する可能性が高い。
 ロシアの政治的意図は、逆に「孤立を防ぐこと」。だから、親ロシア派が撃墜したとしてもウクライナ軍がやった! と主張する可能性が強い。中国はロシアの原油・天然ガスと最新兵器を必要としているから、とりあえずロシアを支持する。
 外国から流されてくる情報は、いつも真実とは限らない。各国政府の意向に沿った政治的プロパガンダの場合もあるのだ。


参考1 プーチン大統領の支持率が87%に達しています。民間世論調査機関「レバダ・センター」が8月1日〜4日に実施。ロシア国民の結束は強固です。毎日新聞(8月12日)が報じました。
 またマレーシア機撃墜の責任がだれにあるかとの設問(複数回答可)では、50%がウクライナ指導部、45%がウクライナ軍、20%が米国と答え、親ロシア派武装集団は2%だった。国際社会では親露派の犯行説が有力視されているが、ロシア国内の見解は大きく異なっている。
 http://mainichi.jp/select/news/20140812k0000e030181000c.html


参考2 ロイターが配信した本日の記事のタイトル「ロシアがウクライナ東部に人道支援部隊派遣の意向 赤十字と連携」。いくらか紛争は収まるかと思いましたが、西側はロシアの進出を非常に警戒している。
 同記事によると「ウクライナ軍のリセンコ報道官はこの日の記者会見で、ロシアがウクライナとの国境沿いに4万5000人の兵力を集結させていることを明らかにした。同報道官によると、戦車160両、装甲車1360両、ミサイルシステム390機のほか、最大150機のミサイル発射台、192機の戦闘機、137機の攻撃ヘリコプターが配備されている。」
 http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL4N0QH58Y20140811


参考3 「プーチン大統領に選択肢少なく」豊島逸夫(2014年8月12日 日本経済新聞 電子版)

 ウクライナ情勢が緊迫化している。ロシア軍侵攻の可能性も視野に入ってきたとみている。
 昨日の本欄でも指摘したが、同政府軍はドネツクに接近しつつある。天王山の戦いともいえる「ドネツク決戦」が臨戦態勢に入っているとみている。人口100万を超えるウクライナ東部の中心都市ドネツクは、食糧・武器等補給のルートを絶たれている。とくによりロシア国境に近い都市ルガンスクとドネツクを結ぶ道路が、ウクライナ政府軍により遮断されたことで、親ロ派への武器供給が止まった。ウクライナ政府軍はドネツクとルガンスク市民に「避難勧告」を出した。並行して、国際赤十字による救援部隊派遣が、ウクライナ政府、欧州連合(EU),そしてロシア参加の条件で進行中。
 「人道的見地からのロシア系ウクライナ市民への救済」というプーチン・ロシア大統領の画策がどこまで続くのかは全くの未知数。すでに北大西洋条約機構(NATO)発表で2万人、ウクライナ政府発表で4万5千人のロシア軍がウクライナ国境付近に集結との報道が流れ、NATOは「ロシアの軍事介入の可能性高まる」との認識を示している。
 ドネツク支配を巡る戦いでウクライナ政府軍の優勢が決定的となれば、ロシア軍による「人道的見地からのロシア系住民救済作戦」の可能性が強まるだろう。仮にドネツクがウクライナ政府軍により奪還される事態になり、ロシア側がただ傍観すれば、プーチン大統領の体面にかかわるからだ。
 ここで事態を収束する役割を果たすことができる人物は、メルケル独首相をおいて考えられない。しかし、独ロ関係も変質しつつある。伝統的に密接な経済関係を維持してきた両国だが、ここにきて、メルケル首相は、EUによる対ロ制裁に協調・参加した。これはプーチン大統領にとっては誤算だったであろう。メルケル首相のロシア離れの背景には、マレーシア航空機撃墜を機に独国民の反ロ感情の高まりが世論調査で顕在化している事実がある。
 ますます孤立するプーチン大統領に残された手段は極めて限られる。そこで注目されるのがオバマ米大統領の反応だ。昨日のウクライナ大統領との電話対談では、「ロシア軍侵攻はUnacceptable(受け入れがたい)」との強い表現を使っている。
 とはいえ、かつての米ソ冷戦復活の可能性は極めて薄い。かつて「有事の金」といわれた金相場はベルリンの壁崩壊とともに、単なる投機的売買の対象にすぎなくなったが、「ウクライナ情勢」の緊迫化にもかかわらず、その位置づけに変化の兆しはない。

<2014年8月13日>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米軍のイラク空爆

2014-08-12 | Weblog
 3年ぶりにアメリカ軍はイラクに軍事介入しました。8月8日から毎日、空爆を繰り返しています。有人と無人の米戦闘機による攻撃です。
 WSJ(THE WALL STREET JOURNAL)の記事を転載しますが、イラク空軍の戦力は実質ゼロに等しいそうです。イラク北部でのISIS(イスラム国)勢力に対する攻撃は、米軍戦闘機とペシュメルガ(クルド人治安部隊)地上軍の共闘の成果に違いありません。連携する両軍によって、ISISのみならずイラク政府は一段と弱体化するのではないでしょうか。

 WSJ8月11日報道「クルド人部隊、イラク北部アフムルなど奪還―イスラム国に攻勢」
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303721104580084332021694138?mod=djem_Japandaily_t


 【バグダッド】イラク北部のクルド人治安部隊「ペシュメルガ」は10日、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に制圧されたクルド人自治区の重要拠点2カ所を奪還したと明らかにした。一方、米軍の同過激組織に対する空爆はこの日で3日目に入った。
 イスラム国は先週クルド人自治区に侵攻し、少数宗派に対する残虐行為を行ったことから、米国はそれを阻止するため3年ぶりにイラクへの軍事介入に踏み切った。米軍の支援を受けたクルド人部隊は、キルクーク北方のマフムルと、近郊のGwairを取り戻した。スンニ派過激組織は先週、クルド人自治区の首都アルビルに対する攻勢で、この2つの町を奪取していた。
 米国務省は同日、バグダッドの大使館とアルビルの領事館の職員の一部を退避させた。これら職員はイラク・バスラの領事館とヨルダンのアンマンに移送される。
 イラク政府軍が失地を回復できずにいる中で、ペシュメルガの反撃が戦果を挙げたことは、同部隊が6月にイラク政府軍を圧倒して首都バグダッドに迫ったイスラム国に対抗できるとの期待を取り戻させた。また今回の反攻は、米軍のイラクへの介入が同国の求心力の回復にとっていかに重要であるかも浮き彫りにした。
 ペシュメルガは、イラク政府軍よりも訓練され装備も整っているが、スンニ派過激組織はこれまで、退却したイラク政府軍から奪った武器で優勢を保っていた。戦況を逆転させたのが、イラク軍による空爆なのか(注:それはないようです)、米軍による空襲なのかははっきりしない。イラク北部ニネベのクルド人自治区首脳は、「ペシュメルガはイスラム国との激しい戦闘の末マフムルとGwairを解放し、イスラム国の戦闘員多数を殺害した」と語った。
 オバマ米大統領は、イラク北部に駐留している米外交官や軍当局者の保護と、イスラム国が背教とみなす少数宗派ヤジディ教徒に対する迫害阻止のために空爆を命じた。イラク政府などは、イスラム国が先週制圧した北部シンジャルの町から避難したヤジディ教徒最大1万5000人が、近くのシンジャル山に取り残されていると推定している。
 米軍は、ヤジディ教徒に対し食料や水を空中から投下しているが、イラク人権省の報道官によれば、すでに500人以上が殺害されたか、脱水症や飢餓で死亡したという。また同報道官によれば、イスラム国はヤジディ教徒の女性約300人を拉致したという。
 米政府当局者は10日、米軍の空爆によって、ヤジディ教徒が孤立しているシンジャル山周辺へのイスラム国の包囲網は弱まり、アルビル周辺へのイスラム国の攻勢も阻止されたもようだと述べた。米軍の空爆がスンニ派過激組織の戦略にどの程度の影響をもたらしたかはまだはっきりしないが、当初の兆候からはアルベルに侵攻するという同組織の野望をくじいたようだという。
<2014年8月12日>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラエルは なぜガザのトンネルを必死に潰すのか

2014-08-11 | Weblog
 奥田真司さんがジェラード・ディグルート氏の「眼下の敵:なぜハマスのトンネルはそれほどまでイスラエルを恐怖を与えているのか」を翻訳紹介しておられます。以下、ダイジェスト。
http://geopoli.exblog.jp/23125752/
奥田真司 2014年8月9日


●トンネルというのは古代から続く戦時の問題、つまり「防御の固い敵をどのように攻撃すればいいか」という問題を解決するためのシンプルな方法である。

●ガザに対する攻撃を正当化するために、イスラエル政府はハマスの武装グループが数十もの「テロ・トンネル」をイスラエル領内に向かって掘っているというシナリオを公開し、彼らがキブツやイスラエル軍の拠点を爆破しようとしているというストーリーを発信している。

●このようなシナリオはたしかに強力だ。悪魔が地獄からやってくるようなイメージによって、トンネルは不快な恐怖感を引き起こすものだからだ。

●もしターゲット側がイスラエルのように強固な守りを固めている場合は、攻撃する側は地上の戦場を横切って交戦するのはむずかしくなる。

●ところがトンネルというのは交戦の瞬間まで味方の姿を隠してくれる作用を持っているために、労力という面ではたしかに大変ではあるが、かなり安価な代替案を提供することになる。

●ハマスの政治機関のあるメンバーが最近誇らしげに語っていたのは、トンネルがパレスチナにとって戦争を有利にしてくれたということであった。彼によれば「われわれがイスラエルを侵攻する番なのです。彼らはわれわれを侵攻してませんから」という。このような結論はもちろん誇張したものだが、それでもトンネルは大きく感情的な反応を呼び起こすものだ。

●2000年以上の戦いの歴史において、トンネルというのは戦場の結末よりも、むしろ戦闘員(攻撃側・防御側の双方の)の心理面で重要な役割を果たしてきたといえるのかもしれない。

●たとえば1世紀頃のゲルマン人部隊はローマとオープンな戦場では戦えないことを悟り、トンネルによってつなげられた隠れた塹壕を掘り、これによって彼らはまだ占領されていないようにみえる土地でローマ側を待ちぶせすることができるようになったのだ。

●ローマ側はこのやり方に恐れをなすようになったのだが、それに対する効果的な対処法を見つけることができなかった。そしてこれは今日のイスラエルが直面している問題でもあるのだ。

●その数世紀後の256年にはササン朝ペルシャ軍が、現在のシリアにあるデュラ・ユーロポスのローマ側の砦を攻略することができず、代わりに壁の下にトンネルを掘っている。

●これに危機感をおぼえたローマ側は、ペルシャ側のトンネルに入り込むための対抗するトンネルを掘っているのだが、ペルシャ側は硫黄を混ぜた不快なガスをトンネル内に充満させており、これは歴史上知られている最初の化学兵器の使用となった。ローマ側の兵士は窒息死し、砦も最終的に陥落した。

●第一次世界大戦の時は、イギリスの炭鉱労働者たちがトンネルの専門会社に雇われており、ここでは西部戦線での塹壕戦を突破することを期待されていた。

●彼らの最も有名な行動は、メシヌにドイツが築いていた塹壕の地下に22本のトンネルを掘ったことだ。このうちの19本は1917年の6月7日に爆破され、約1万のドイツ兵を殺害した。ところが戦略的なインパクトは小さかった。この爆破でできた巨大なクレーターのおかげで、イギリス側は逆にここを越えて進撃することができなくなってしまったからだ。

●このような例から、通常戦におけるトンネルの効果には限界があることがわかっている。トンネルの建設には時間がかかるし、包囲戦のような動きのない戦いにしか使えない。その狭さからそこを通れる兵士の数にも制限があるため、攻撃の規模にも限界が出てくる。

●もちろん北朝鮮は20本ほどのトンネルを掘っており、それぞれが非武装地帯の地下をソウルの攻撃のために1時間で1万人の兵士を通すことができると言われている。それでもこのようなネットワークは、トンネルの存在が相手に知られてしまえばおしまいなのだ。出口が見つかってしまえば、簡単な対処によって大虐殺も可能だ。

●トンネルの価値は、小規模な反乱軍が大規模で強力な正規軍に対抗するような、非対称戦の場合に増加する。ユダヤ地区のバル・コクバの乱(132-136年)ではユダヤの反乱側はローマ側に奇襲をしかけるためにトンネルを使ったのだが、この時の狙いは相手に恐怖を植えつけて士気を落とさせることにあった。

●アメリカ人もベトナムでこれとほぼ同じ事態に陥っている。この戦争で米軍が直面した最大の問題は敵との戦いではなく、敵をいかに見つけるかのほうであった。ベトコン側は「クチの地下道」のような広大なトンネルを造って隠れており、突然現れて奇襲をしかけては消えるということを行っていた。

●「クチの地下道」は全長が320キロ以上あり、数千人の兵士を長期間にわたって収容できた。この施設には弾薬庫から宿舎、会議室、さらには病院や映画館まであった。

●イスラエル側が恐れているのは、まさにこのトンネルが反乱側に与える潜在性にある。地下に潜む敵は見えない存在として実像よりも恐ろしく感じられ、実際に相手が行ってくることよりも、むしろいつでもどこでも出現してくるという恐怖によって士気に影響を与えるのだ。したがって、トンネルというのは恐怖を運ぶ「媒介」なのである。

●2006年にハマスの戦闘員たちはイスラエル軍の基地を攻撃する際にトンネルを使っている。短距離で対戦車砲を集中的に浴びせてイスラエルの兵士を2人殺した後に、彼らは19歳のジラッド・シャリットという兵士を誘拐している。

●この一連の作戦は6分以内に終了したのだが、その影響は今日まで続いている。シャリットは5年間ハマス側に捕らわれており、1000人のパレスチナ側の囚人と引き換えに解放されている。ハマスはこのような作戦をもう一度成功させようとしているのだ。

●先週の月曜日にはトンネルから出てきたイスラエル軍の制服を来た10人のハマス兵士が、ニルアムのキブツのたった200メートルの地点から襲撃している。ハマス側の兵士は全員死亡したが、イスラエル兵士を四人殺害している。

●ニルアムで起こった事件に関して、地域の緊急担当委員は「ここまでトンネルが掘られているとは全く思いませんでした。ものごとの見方が変わりました」と述べている。

●この担当委員の嘆きは、トンネル戦の重要な一面を含んでいる。トンネルは反乱側に交戦のルールを変える大きなチャンスを与えてくれるのであり、相手はこのトンネルの脅威に対抗しなければならなくなるのだ。

●テクノロジー面で優位に立つ側も、少なくとも一時的にはトンネルを掘った側の原始的な世界で戦わなければならなくなり、その際には自分の優位を使えなくなってしまう。しかも反乱側はトンネル内部の構造をすべて知っており、敵側はその知識を知らないために、そのトンネルに入っても不安におののくことになる。

●ベトナムのトンネルに対処するためにアメリカがとった行動は「トンネル・ネズミ」という兵士を潜り込ませることであった。これは米軍が兵士に課した任務としては最悪のものであると言っていい。毒虫や蛇のいう暗くて狭いトンネルに潜り込ませるのだ。敵はそこら中にいてワナが仕掛けられている中を進むのである。

●トンネルはテクノロジーや物量などではるかに優越する敵に対して、反乱側を地下に隠すことによって戦いの助けとなるものだ。アフガニスタンやパキスタンやイエメンでイスラム系の過激主義者たちがアメリカの無人機からの攻撃に対してトンネルを作っていると見られている理由もここにある。

●トンネルに対抗するためのハイテクな解決法はまだ微妙だ。このため、米軍は「トンネル・ネズミ」を復活させるという不愉快な可能性を考えているという。

●ところがトンネルの最大の特徴は、それがプロパガンダ面での潜在力を持っていることだ。たしかに「トンネルがイスラエル・パレスチナ紛争の流れを変えた」という考えはナンセンスである。ところがこれがナンセンスであるからこそ、パレスチナ側は自信を深めている。トンネルは団結と戦いを表す効果的なシンボルとなっているのだ。

●「クチの地下道」が教えているのはまさにこれだ。トンネルはその建設の難しさから、これがベトコンの覚悟を表しているとも言えるのだ。ベトナム政府がこのトンネルを観光施設として熱心に推進しようとしているのは、それが愛国的な戦いのシンボルとなったからだ。

●ところがプロパガンダというのは「諸刃の剣」である。イスラエル側にとって、トンネルは自分たちが戦いのさなかにあることを示す効果的な手段である。人間は見えないものを最も恐れるからだ。そしてこの場合、地下から迫ってくる恐怖というのは、実際の脅威よりも数倍の大きさの反応を呼び起こすものである。

●トンネルはガザでのバランス・オブ・パワーを変化させる新たな脅威となるのだろうか?おそらくそれはないだろう。実際の歴史でも、トンネルを使う戦術によって戦争の流れが変わった例を見つけるのは難しい。トンネル戦というのは他に集団が無くなったために使われるような、必死の戦術でしかないからだ。

●ところがトンネルというのは、恐怖を巻き起こすという意味では常に効果的であった。国際的な非難を避けたいイスラエルがここまでガザのトンネルを必死で潰そうとしているのは、まさにこの恐怖にあるのだ。

<2014年8月11日>

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ政府からイスラエル・ガザへの思いやり予算

2014-08-10 | Weblog
 米国の非営利調査メディア「Mother Jones」が米国政府の対イスラエル・パレスチナ政策について興味深いことを報道しています(7月23日付)。「SYNODOS」記事からダイジェストで紹介します。

「イスラエルのガザ攻撃を海外メディア・専門家はどう見たか」(平井和也 / 翻訳 2014.08.09 Sat)
http://synodos.jp/international/10195

 米国務省は「ガザの人道状況の改善を支援するために」4,700万ドルの財政支援を行うと発表した(7月21日)。そのうちの3分の1は、戦争に苦しむガザの何万人ものパレスチナ人に食料、水、避難所を提供している国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動支援金として使われる。
 ところが、税金を払っている米国民は矛盾した立場に置かれている。というのも、米国民はイスラエル軍の活動支援とパレスチナの人道状況改善の両方に対して税金を払っていることになるからだ。米国は毎年イスラエルに対して、約31億ドルの軍事支援を行っており、これは1978年当時のカーター大統領の仲介によってイスラエルとエジプトの間で結ばれたキャンプ・デービッド合意に基づいて米国が負っている義務によるものだ。
 軍事支援金は大きく二つの用途に分かれている。約8億ドルはイスラエル軍の兵器と軍需品の製造に使われ、残りの23億ドルは、イスラエル軍が米国の軍需企業から武器と装備品を調達するために使う商品券のようなものだ。ある米国のイスラエル支援専門家は、「イスラエル国防軍の全ての部隊(ガザ攻撃を行っている部隊を含めて)が米国の支援によるメリットを享受していると考えていい」と語っている。そのため、イスラエルのガザ攻撃による破壊には「米国製」という刻印が入っていると考えることができる。
 しかし、その一方で、米国政府はイスラエルの攻撃によるおぞましい結果に対処するための活動に対しても財政支援を行っている。UNWRA(国連パレスチナ難民救済事業機関)が7月21日に発表した活動状況報告書によると、同機関は67の避難所を管理し、そこで84,000人以上のパレスチナ人を保護しているという。UNWRAは避難所に、食糧、水、赤ん坊の衛生管理用品、毛布、マットレスを提供し、21の診療所も運営している。子供たちに不発弾を触らないよう指導する教育も行っている。
 UNRWAの話では、ガザの75の施設が戦闘によって物理的な被害を受けているという。UNRWAが要請した6,000万ドルの緊急支援金の4分の1に当たる1,500万ドルが米国によって拠出され、その中から一部が米国の財政支援を受けているイスラエル軍の攻撃によって破壊されたUNRWAの施設の修復や再建に使われるものと考えられる。
 米国の新たな支援プログラムにはNGOに対する350万ドルの財政支援が含まれている。国務省の説明によると、この支援金は、パレスチナ難民への食料以外の物資の提供、ガザのパレスチナ人3,000人を対象とした短期雇用プログラムおよび2,000世帯を対象とした社会心理学的支援プログラムの延長、医療施設への医薬品と燃料の提供に使われるという。
 さらに、国務省の話では、米国はUNRWAに対する最大の資金援助国であり、今年に入ってからガザや他の中東地域のパレスチナ難民支援のためにUNRWAに2億6,500万ドル以上を拠出しているという。この中には、ザガの新しい学校や配給所の建設に使われる900万ドルが含まれている。
以上が「Mother Jones」の記事のまとめだ。

「SYNODOS」記:ドイツ誌『シュピーゲル』が8月3日付掲載記事で、8月1日に米国議会でイスラエルのミサイル防衛システム「アイアンドーム」に2億2,500万ドルもの巨額の財政支援を行う法案が可決されたことを報じていることを、ここに付記しておきたい。

<2014年8月10日 2億2500万ドルは、迎撃ミサイル4500発分の代金に相当します>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラエルのアイアンドーム

2014-08-09 | Weblog
 ガザでの戦争終結はやっと実現する気配です。この1ヶ月間、ガザの犠牲者は約1900人といいますが、ほかにも世界ではいたるところで戦争が続いています。シリアやイラクでは、痛ましいことにもっとたくさんの死者が出ています。

 紛争やテロ事件が相次ぐ中東諸国で、今年7月だけで死者が計約9000人に上ったことが分かった。2011年の民主化要求運動「アラブの春」以降、1カ月の死者としては最悪となった。
 シリア内戦やパレスチナ自治区ガザ地区の紛争に加えて、イラク、リビア、イエメンで紛争が拡大。エジプトやチュニジアでもイスラム過激派によるテロや軍との衝突が頻発した。8月に入っても各地で武力衝突が継続しており、中東の混迷は深まっている。
 国連や各地の保健当局・人権団体によると、7月の紛争に関連した死者は
▽シリア5342人
▽イラク1737人
▽ガザ地区約1400人(註:7月8日開戦から8月一時停戦までの死者は、ガザ1900人以上。イスラエル兵士64人、民間人3人)
▽イエメン約300人
▽リビア約120人。【8月6日 毎日新聞カイロ 秋山信一】



 イスラエル軍がガザからのロケット弾を迎撃するミサイルシステム、驚愕の「アイアンドーム」の記事を先日紹介しましたが、伊吹太歩さんの解説も詳しくわかりよい。ダイジェストで紹介します。http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1407/31/news018.html(7月31日)


「なぜ、ガザに比べてイスラエルの死者数は圧倒的に少ないのか?」(伊吹太歩の時事日想)

 報道を見ていて不思議に思うことがある。死者数で取り上げられるのが、ガザ地区にいるパレスチナ人ばかりということだ。もちろん米国に支援を受けたイスラエル軍がハマスを圧倒しているのは間違いないが、ハマスも負けじと反撃の砲撃を激化させている。にもかかわらず、イスラエル側にガザのような多数の死者が出ているというニュースは見ない。
 実際に、イスラエル側の死者数が圧倒的に少ないのは数字を見れば一目瞭然だ。30日時点でイスラエルは3289発のミサイルをガザに着弾させ、1221人を殺害した。一方のハマスは、2612発のミサイルをイスラエルに放っているが、死者数は56人。その多くはイスラエル軍の兵士である。
 この圧倒的な差の裏には、イスラエル軍が誇る「アイアンドーム(鉄のドーム)」の存在がある。アイアンドームとは、イスラエルが世界に誇る迎撃ミサイルシステムのことだ。このアイアンドームは、その正確性についての議論から、紛争のあり方すら変えてしまう可能性を持つ兵器として物議をかもしている。

 アイアンドームは、弾道軌道の無誘導ロケット砲をミサイルで撃ち落とすものだ。そうすることで、イスラエルに向けられたミサイルが自国内に着弾することなく被害を防げる。いわゆるミサイル防衛だ。
 アイアンドームは可動式で、発射を発見するレーダーユニットと、弾道と着弾点を計算する戦闘管理・コントロール車両、そして迎撃ミサイル3発を発射できるランチャーからなる。どんな天候でも迎撃が可能で、複数の砲撃にも対応が可能だ。しかも予想着弾点に人的被害がない場合には、あえて迎撃しないコスト意識も備わっている(迎撃ミサイルは1発5万ドル=約510万円)。
 例えばガザ地区からミサイルが発射されると、レーダーがミサイルを感知し、コントロール車両が弾道を計算し、迎撃ミサイルの発射を命じる。ミサイルを返り討ちにするまではあっという間だ。アイアンドームの守備範囲は約64キロ。近隣からの砲撃を想定する短距離型の兵器である。人口が密集する都市部のエルサレムやテルアビブなどに向けて放たれたミサイルを中心に迎撃しており、イスラエルの重要地域は、ほぼ完全にドームに覆われて守られていることになる。
 特筆すべきは迎撃の成功率だ。イスラエル軍によれば約86%だという。軍事専門家の中には成功率を“盛っている”と指摘する者もいるが、イスラエル軍は、アイアンドームが迎撃するのは都市部を狙った砲撃であり、迎撃する必要がないものも少なくないと反論している。

 イスラエルを「ドーム」で防衛するこのシステムは、イスラエルの3企業が開発したものだ。開発費は、米国政府からの9億ドルを越える財政支援が大部分を占めている。レーダーユニットはエルタ社、戦闘管理・コントロール車両はインプレス社、そして迎撃ミサイル「タミル」を開発したラファエル先端防衛システム社だ。ラファエル社が制作したプロモーションビデオでは、ナレーションが「技術的なブレークスルーだ」と絶賛している。
 かつてイスラエルのエフード・バラク国防大臣(当時)が「ほぼ完ぺきだ」と絶賛したアイアンドームは、2011年3月に導入されてからイスラエルのアラブ勢力との戦い方を変えたと言っても過言ではない。今回のハマスとの戦いでもアイアンドームがイスラエルへの砲撃を防いでいるために、民間人への被害は圧倒的に少なく済んでいる。

 それでも、アイアンドームに課題がないわけではない。例えば、破壊された砲弾はどうなってしまうのか。破片は地上に落ちてくるはずで、それによって被害を受ける人が出る可能性はある。このリスクについては開発者も認識しているが、現時点ではどうすることもできないという。
 コストの問題もある。ハマスが放つカッサーム・ロケットは1発1000ドル(約10万円)。これを迎撃するアイアンドームの迎撃ミサイルが1発5万ドル(約510万円)では高過ぎる。戦闘が長引けば長引くほど、イスラエルも財政的にどんどん首が絞まっていくことになるだろう。

 欧米ではアイアンドームの存在により、紛争のあり方についての議論を起こすまでになっている。英エコノミスト誌は、この迎撃システムへの確度や信頼性が高まれば「イスラエルは、紛争を早急に終わらせようとする国内世論や軍事的なプレッシャーに逆らって、ガザへの攻撃をいつまでも継続させることが可能になる」と警鐘を鳴らす、元政府高官のコメントを紹介している。
 自陣に犠牲を出さないため、紛争を長引かせて「ハマス戦闘員をせん滅させる」という大義のもと、死者数を無駄にどんどん増大させることにつながりかねないというのだ。恐ろしいシナリオだ。ちなみにガザ地区は人々が密集して暮らす地域であり、砲撃を受ければ巻き添えになる人が出る。それも、現在民間人の死者数を増加させている要因の1つだ。
 アイアンドームという優れた自衛の軍備が、結果的に敵陣にいる民間人を大量に虐殺する現実には、複雑な思いを抱いてしまう。今後、迎撃ミサイルの守備範囲が広がって確度がますます上がれば、「相手が先に攻撃してきた」という“専守防衛”という大義をかざして、敵陣を攻撃しまくることも可能になりかねない。
 イスラエルで今まさにそんな事態が発生している。自衛が無差別殺人を生む――“専守防衛”を掲げる日本でも自衛そのものについて、こうした角度から考えてみる視点も必要だろう。

<2014年8月9日 オバマ大統領はイラク空爆開始を承認し、米海軍FA18戦闘攻撃機2機が空爆を開始。日本時間8日午後7時45分、現地午後1時45分>

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ガザのトンネル

2014-08-08 | Weblog
 ガザのトンネルはほとんどがイスラエル軍によって破壊されました。やっと休戦がかなったのはそのためともいいます。小川和久さんのメルマガからハマスのトンネル記事を紹介します。


【地下トンネルこそイスラエルの脅威】(NEWSを疑え! セキュリティ・アイ)

 イスラエルはいま、ガザ地区での民間人犠牲者の激増によって国際的に指弾されているが、その原因はイスラエル自身の戦略的失策によるものだ。

 ガザ地区に対する今回の攻撃を始めた7月8日の時点で、イスラエルはガザ地区から二つの軍事的脅威を受けていた。

 ひとつは、ハマスなどイスラム主義武装勢力のロケット弾攻撃であり、いまひとつはトンネルを通って戦闘員がイスラエルへ進攻し、民間人や兵士を殺傷・拉致する可能性である。

 イスラエルは当初、ガザ地区を攻撃する理由としてロケット弾の脅威のほうを強調したが、これは防衛上も、国際宣伝戦の面でも失策だった。

 イスラエルが、ロケット弾による損害が少ないことを強調するほどに、「ロケット弾の発射を止めるためにガザ地区を攻撃する」ことの正当性が疑われることになったからである。

 実を言えば、トンネルを使った兵士拉致事件は2006年にも起きていたし、その後もハマスが多数の進攻用トンネルを掘っていたことは、掘削の騒音などから、近隣のイスラエル側住民やイスラエル軍には知られていた。

 ハマスが多数の進攻用トンネルを掘ったことの脅威は以下の二点に集約される。

 戦闘員をイスラエルに送りこむ戦術は、戦死の可能性が高いという点で、近年のハマスのロケット弾攻撃よりも、2008年以前の自爆攻撃に近い。進攻用トンネル30本以上の存在は、数百人以上のハマス戦闘員が、自殺的な攻撃への参加を志願していることを示している。

 これらのトンネルは地下6‐27メートルに掘られており、コンクリートで補強され、電線、電話線、送風管、上下水道、鉄軌道が敷かれたものも多い。そうした資材は、イスラエルにたびたび封鎖されるガザ地区では貴重なのだが、ハマスはその資材を、住宅の建設や再建・補修ではなく、イスラエルへの進攻とロケット弾の備蓄のためのトンネルに投入してきたのだ。

 イスラエルが進攻用トンネルを破壊する目的で、ガザ地区に進攻したのは、7月17日の人道的休戦の後だった。ちょうど17日に、ガザ地区の隣のキブツ(集団農場)で、ハマス戦闘員13人がイスラエル兵に変装してトンネルから現れたところを発見されたからだ。

 その前の14日、イスラエルはエジプトによる休戦提案を受諾し、翌朝は一方的に戦闘を一時停止した。もしハマスがこの時休戦に応じていれば、進攻用トンネルを温存することができた。イスラエル軍は7月28日までに進攻用トンネル30本以上を発見し、約半分を破壊したというが、今後も多くのトンネルが発見される可能性がある。

 イスラエルはこれほどの脅威に対して、探知技術を開発することも、ガザ地区との境界線を掘り下げて水で満たし、トンネルを崩落させることもしなかった。軍事力整備と秘密工作を、イランの核開発能力に対する攻撃と、ロケット弾攻撃の阻止に集中していたからだが、そちらに気をとられるあまり「足下の脅威」を見逃していたわけで、その代償は高く付く可能性がある。

<2014年8月8日>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラエルの迎撃システム

2014-08-07 | Weblog
 ガザ地区からハマスが発射したロケット弾は、ほとんどがイスラエル軍によって撃ち落とされたといいます。一方、ガザには防御するためのシステムなどあるはずがありません。高城剛さんのメルマガから、イスラエル軍の迎撃システム記事を転載します。


【ガザ侵攻で兵器プロモーション】(世界の俯瞰図・高城未来研究所「Future Report」)

 戦争兵器は、実際に使用しなければその性能がわかりません。いくらスペックだけみても能力は計り知れず、例えば、自動車を購入する際に、スペックやデザインは素晴らしく、また、デモ映像もよく出来ていたとして、実際に運転するか、走っているのをキチンと見なければ「実用的」価値はわからないのと同じです。

 現在、イスラエルのガザ侵攻によって、多くの兵器会社がプロモーション機会として利用している現実があります。

 一番大きな「製品」は、別名「アイアンドーム」と呼ばれる「全天候型ミサイル防衛システム」です。事実、パレスチナとイスラエルの民間人をあわせた死者が、パレスチナが1300名を超えているにの対し、イスラエルが50数名しかいないのは、この「アイアンドーム」のためだ、と喧伝している人たちがいます。死者数の違いを問題だと考える方も多いと思いますが、ハマスも、実はこの一ヶ月で1000発以上のミサイルをイスラエルに発射しており(原発を狙ったものも含まれます)、それらを阻止しているのが、この「アイアンドーム」で、結果、死者数に大きな違いが出る事になりました。

 2011年に実戦配備が始まったこの防空システム「アイアンドーム」は、中距離ロケット弾などの射程4km~70kmの兵器を着弾前に迎撃する事が可能で、開発はイスラエル企業が手がけていますが、資金提供と事実上システムの共同開発に関わっているのは米国です(ボーイング社など)。

 点在配備できる可搬型のミサイル発射端末とメインシステムの組み合わせによって、あらゆる地形に対応可能で、「BMC」と呼ばれる「バトル・マネージメント&コントロールシステム」は、バッテリー駆動で動く様にできており、まったく電源が無い砂漠だろうが、複雑な地形な山岳部であろうが、どこでも組み上げる事が可能なシステムです。

 この「アイアンドーム」が、いままでの迎撃システムとは違うのは、衛星やレーダーとリンクし、設定された人口密集地にむけて打たれたミサイルを「優先的」に迎撃することができる点にあります。一度に多くのミサイルが向かってきた場合、優先的に撃墜する砲弾を決める必要がありますが、瞬時に、迎撃のプライオリティがAIによって判断され、被害を最小限に留める事ができるのです。その「瞬時の判断能力」と「モバイル性」、「分散型」、そして「トータルサイズを自由にできること」などが兵器業界で大変高く評価され、この度ついに「実用的」プロモーションに大成功しています。

 既に、この「アイアンドーム」にかわる新型の開発も進んでおり、この新型は長距離ミサイルにも対応し、マイクロバンド帯域を使った衛星により、広範囲に渡り迎撃可能な新型システムだと発表されています。

 しかし、現行商品の「アイアンドーム」でも、保守費用は極めて高く、その費用は年間で200億円を超えるほどなのですが、その金額を実は米国政府が様々な形で支援しているのが現実です(イスラエルの戦争費用は、日本のODAと同じで、結果的に米国内に循環する「戦争兵器エコシステム」があり、それに日本も組み込まれました)。

 日本もこの「アイアンドーム」の改良型を、沖縄あたりに配備したいのでしょうが、現在、興味を示しているのが、韓国とインドです(シンガポールは、既に小システムを導入済み)。韓国は隣国に北朝鮮を抱え、インドはパキスタンとの問題があります。特にインドは、広範囲に渡る防衛システムの構築が急務であり、サイズを自由に設定できる「アイアンドーム」を、とても高く評価し「特別製」をイスラエルに打診しています。

 今年、フランスで開催された兵器見本市「ユーロサトリ」2014に日本も初参加(三菱重工、日立、富士通、TOSHIBAなど)しましたが、「アイアンドーム」のような衛星を使った新型ミサイル防衛システムとロボット、そして無人機攻撃が兵器業界のトレンドであり、その為にも、衛星を軸にした宇宙開発(と名打った「海域」ならぬ「宇宙域」の取り合い)が急務と言われ、多くの国家や企業がここに向かっています。

 現在、「アイアンドーム」は、「もっとも効果的」で「もっとも実践でテストされた」ミサイル防衛システムと宣伝されておりますが、残念ながら、それは事実として実証されてしまったのです。



原文:http://www.mag2.com/m/0001299071.html
<2014年8月7日>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ東部国境線

2014-08-06 | Weblog
 ガザがやっと安定するか、と思った途端にウクライナ東部の情勢が緊迫して来ました。このままではウクライナ内戦はエスカレートしてしまいます。銃声砲音の止むことを祈るしかありません。


「NY市場急落! ロシアが4万5千の兵士、160台の戦車、1千台の装甲車をウクライナ国境へ」 
2014年08月06日03:28


今日、ニューヨーク時間の午後1時半頃、メディアが相次いでロシア軍の動きに関して報道し、マーケットが急落しました。

まずブルームバーグはウクライナ軍報道官の談話として「ロシアが4万5千の兵士、160台の戦車、1,360台の装甲車をウクライナ国境へ派遣している」と報じました。同様のコメントはポーランドの外相からも発せられました。

以前書いたように、このところウクライナ東部の親ロシア分離主義者は劣勢であり、ドネツクとルハンスクというロシアの国境に近い二つの都市に追い詰められ、これらの都市に立て籠もり、最後の抗戦を試みるカタチになっています。

一方、勢いに乗るウクライナ政府軍はドネツクとルハンスクの二つの都市間の兵站の分断を試み、とりわけルハンスクで最後の決戦を挑む形勢になっています。ルハンスクからは市民が続々と逃げ出しています。一部報道によると既に70万人近い市民がロシアに逃げているそうです。

原文は
http://markethack.net/archives/51932002.html
<2014年8月6日>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

戦場のガザから

2014-08-02 | Weblog
 パレスチナ・ガザ地区の期待された昨日からの74時間停戦は、残念ながら実行されませんでした。この戦争には理(ことわり)がない、という指摘がありますが悲惨すぎます。
 日本人のフリージャーナリストは、何人もの義人がガザに入っています。危険な戦場で身をさらし、決死の覚悟でレポートを送り続ける彼らに脱帽します。活躍への敬意とともに、みなさんの無事を祈ります。

 今回はフリージャーナリスト田中龍作さんのレポートを転載します。
見出しは「村人たちは浴室に押し込められ射殺された 虐殺のフザー村」田中龍作ジャーナル 2014年8月1日

 原文にはあまりにも惨い写真が2葉添付されています。凄惨です。ショックを受けますが、田中さんのホームページでご確認ください。ここでは写真の解説のみ掲載します。
写真1 浴室の壁には血のりがべっとりと付き、夥しい数の弾痕があった。筆者が撮影できたのは、先の3遺体の搬出を待ってからだった。=1日午前11時頃 フザー村 写真:筆者=
写真2 夏の暑さも手伝い遺体は腐乱が進んでいた。焼け焦げているのではない。=日本時間:1日午後5時頃 フザー村 写真:筆者=

http://tanakaryusaku.jp/2014/08/0009827



 1日、筆者は大規模虐殺があったとされるフザー村に入った。この日午前8時(注:日本時間8月1日午後2時)からハマスとイスラエルが「72時間停戦」に入ったのを利用したのである。
 ガザ南西部のフザー村(人口約7千人)は、イスラエルとの国境にある農村だ。村人たちはいち早く一時帰宅していた。残された家族の安否確認や家財道具の搬出に帰ったのだ。
 次から次へと遺体が見つかり、簡易担架に乗せられて運び出されていった。後頭部がすっぽり抜け落ちた男性の遺体が、不吉なものを予感させた。
 東西にまっすぐ伸びる村の基幹道路を、西方つまりイスラエル国境に向かって進みきった所が、大きな瓦礫で塞がれていた。
 路地の奥から村人たちの大声が聞こえてくる。殺気立っていた。パレスチナ人記者が筆者に向かって「村人が処刑されている」と英語で言った。
 農家の浴室には6人の遺体が折り重なるようにして横たわっていた。浴室の壁には弾痕が無数にあり、血のりがべっとりと付着していた。
 イスラエルが村に侵攻したのは13日前だ。その頃から虐殺が伝えられ始めていた。遺体は10日以上経っていることになる。夏の暑さも手伝って腐乱が進んでいた。異臭が鼻を突いた。
 村は瓦礫野原と化していた。瓦礫の下に数えきれないほどの遺体が埋まっているはずだ。潰れた顔と、手と足を地上にのぞかせた男性の死体もあった。
 「神がイスラエルを殺すだろう。イスラエルを破壊するよう神に祈ろう」。中年女性が絶叫した。
 イスラエル領土内からの砲撃は間断なく続いた。イスラエル軍は「停戦中でもハマスの軍事用トンネルの破壊は続ける」と宣言していた。
 一時帰宅から4時間経つか経たない頃だった。男性2人がイスラエルのスナイパーに撃たれた。
 絶えず上空を舞っていた無人攻撃機の飛行音が、ヒステリックなほど騒々しくなった直後だ。
 村人たちは再び大脱出を始めた。基幹道路は人の洪水のようだ。
 その頃、中東の衛星放送『アル・アラビヤ』は、イスラエルが国連に「停戦破棄」を通告したことを速報で伝えていた。

 戦争の現実を伝えるために、あえて凄惨な写真の公開に踏み切りました。


読者の皆様。田中はクレジットカードをこすりまくってガザに来ております。借金です。ご支援よろしくお願い致します。政治やマスコミが取り上げない人々の声を伝えるためには、現場に足を運ばなければならず、多大な費用がかかります。庶民にとって重大事であるにもかかわらず、新聞・テレビが報道しない出来事があまりに多すぎる昨今です。
真実に迫るための取材にお力をお貸し下さい。ご支援賜りますよう何卒お願い申しあげます。10円からでも100円からでも有難く頂戴致します。


追記 イスラエルから飛来する無人機(ドローン)についての田中さんの記述には驚いた。国連の避難所へのイスラエル軍の攻撃も、そうだったのかと腑におちた次第です。
「イスラエル軍は、ハマス(あるいはイスラム聖戦)がロケット弾を発射した場所を、アイアンウォール(防空網)と無人攻撃機(偵察機)によって正確に割り出している。『近くからロケットが発射されたため撃ち返した』とする弁明は笑止だ。国連の避難所への誤爆は、誤爆ではない。」
寸志ですが、わたしも郵便局から振り込みます。掲載写真と共にカンパ詳細は上記「田中龍作ジャーナル」をご覧ください。
<2014年8月2日>

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする