中近東でもウクライナでもありませんが、佐々木俊尚さんのメルマガを、本日は前略中略のダイジェストで紹介します。「佐々木俊尚の未来地図レポート」は毎週月曜発行の有料メールマガジンです。購読をおすすめします。
本日号特集「2010年代ネットメディア周辺で起きた3つの変化を読み解く~インターネットの言論空間はどう変わってきたのか。その歴史を振り返る(4)」(2014年8月18日 Vol.309)
(前略)インターネットが普及する以前は、情報の需給バランスが著しく供給側に傾いていました。つまり情報を求めている人はたくさんいるのに、情報の供給が雑誌や新聞、テレビなどに絞られていたということです。この需給バランスは、メディア側に余剰の富をもたらしていたのはまぎれもない事実で、放送局や出版社、新聞社の高給はこの余剰から来ていたといえるでしょう。そしてフリーライターやフリーのテレビディレクターなどにも、そうした余剰がちゃんとまわってきて業界全体を潤してくれるというエコシステムができあがっていたんですね。
しかしネットが普及したことでこの需給バランスは逆に振れ、需要側に傾いてしまいました。つまり供給は膨大にあるけれども、そんなにたくさんの情報を全部読める人はいない、という情報洪水状態になったことで、旧来の余剰が消し飛んでしまったわけです。これがフリーライター淘汰の原因と考えれば、当然の歴史的帰結ということになってしまうのですが、しかし一方でこれによって「一時情報を取材して書けるプロ」というのが減ってしまったという、社会的損失も忘れてはなりません。これも長期的には、大きな影響となってくるでしょう。(中略)
この新しいネット世代は、2010年代なかばになって台頭してきました。もちろん、2ちゃんねるやブログに体現される古いネット世代は、最年長組が40歳代に達しつつあり、中高年の仲間入りをし、これはこれでまた別のかたちのネット層を形成してきています。さらには最近は、「マイルドヤンキー」などと呼ばれるような地方のユーザーの存在も可視化されてきています。
格差社会化と世代交代、都市と地方。そしてパソコンから携帯電話へ、携帯電話からスマホへというネットのテクノロジの進化。そういうさまざまな要因が次々に加えられ、ネットのレイヤー化はますます加速していっています。
今後、この複雑に多層化したレイヤーをどう横断的につなぎ、どう新たな世論を形成し、民主政治を維持していくのかということが大きな社会的課題になっていくといえるのですが、そういう中でネットメディアの市場もここに来て激変してきています。
それは、キュレーションメディアとかキュレーションアプリと呼ばれる新しいジャンルのウェブメディアの普及です。グノシーやスマートニュース、LINEニュース、ニューズピックスなどがそうですね。ウェブ上に流れている新聞や雑誌、ネットメディアなどさまざまなニュースソースを収集し、アルゴリズムによって自動判別し、パーソナライズするなど読者に最適化した形で記事を届けているメディアです。これらのメディアの将来可能性には多くの業界人が期待していて、実際、小規模なベンチャー企業である両社とも十億円を越えるような巨額の資金調達に成功しています。
このようなキュレーションメディアが、従来のSNSで加速されてきたクラスター化を防ぎ、新たなマスメディア的役割を果たすようになるのかどうか。つまり公共圏の担い手としてのプラットフォームになっていくのか、それとも単なるツールとして利用されるだけで終わるのかは、現時点ではまだ何とも言えません。先日開かれたグノシーのメディア向けセミナーで、わたしは「これからのグノシーの役割は?」と聞かれ、次のように回答しました。このコメントを持って、本シリーズのまとめとしたいと思います。
「ITの進化によって、新聞の世論調査よりもずっと精緻なビッグデータ分析で、人々の声や世論をすくい上げることもおそらく可能になる。その中で、Gunosyなどのキュレーションメディアも巨大化するに従って、公共性をどのようにして政策やアジェンダの設定に結びつけるのかという非常に重要な設問が必ず出てくる。ここをぜひしっかりと考えてもらいたい。そうすれば、新しい民主主義の可能性も開けるのではないか」 完
<2014年8月18日>
本日号特集「2010年代ネットメディア周辺で起きた3つの変化を読み解く~インターネットの言論空間はどう変わってきたのか。その歴史を振り返る(4)」(2014年8月18日 Vol.309)
(前略)インターネットが普及する以前は、情報の需給バランスが著しく供給側に傾いていました。つまり情報を求めている人はたくさんいるのに、情報の供給が雑誌や新聞、テレビなどに絞られていたということです。この需給バランスは、メディア側に余剰の富をもたらしていたのはまぎれもない事実で、放送局や出版社、新聞社の高給はこの余剰から来ていたといえるでしょう。そしてフリーライターやフリーのテレビディレクターなどにも、そうした余剰がちゃんとまわってきて業界全体を潤してくれるというエコシステムができあがっていたんですね。
しかしネットが普及したことでこの需給バランスは逆に振れ、需要側に傾いてしまいました。つまり供給は膨大にあるけれども、そんなにたくさんの情報を全部読める人はいない、という情報洪水状態になったことで、旧来の余剰が消し飛んでしまったわけです。これがフリーライター淘汰の原因と考えれば、当然の歴史的帰結ということになってしまうのですが、しかし一方でこれによって「一時情報を取材して書けるプロ」というのが減ってしまったという、社会的損失も忘れてはなりません。これも長期的には、大きな影響となってくるでしょう。(中略)
この新しいネット世代は、2010年代なかばになって台頭してきました。もちろん、2ちゃんねるやブログに体現される古いネット世代は、最年長組が40歳代に達しつつあり、中高年の仲間入りをし、これはこれでまた別のかたちのネット層を形成してきています。さらには最近は、「マイルドヤンキー」などと呼ばれるような地方のユーザーの存在も可視化されてきています。
格差社会化と世代交代、都市と地方。そしてパソコンから携帯電話へ、携帯電話からスマホへというネットのテクノロジの進化。そういうさまざまな要因が次々に加えられ、ネットのレイヤー化はますます加速していっています。
今後、この複雑に多層化したレイヤーをどう横断的につなぎ、どう新たな世論を形成し、民主政治を維持していくのかということが大きな社会的課題になっていくといえるのですが、そういう中でネットメディアの市場もここに来て激変してきています。
それは、キュレーションメディアとかキュレーションアプリと呼ばれる新しいジャンルのウェブメディアの普及です。グノシーやスマートニュース、LINEニュース、ニューズピックスなどがそうですね。ウェブ上に流れている新聞や雑誌、ネットメディアなどさまざまなニュースソースを収集し、アルゴリズムによって自動判別し、パーソナライズするなど読者に最適化した形で記事を届けているメディアです。これらのメディアの将来可能性には多くの業界人が期待していて、実際、小規模なベンチャー企業である両社とも十億円を越えるような巨額の資金調達に成功しています。
このようなキュレーションメディアが、従来のSNSで加速されてきたクラスター化を防ぎ、新たなマスメディア的役割を果たすようになるのかどうか。つまり公共圏の担い手としてのプラットフォームになっていくのか、それとも単なるツールとして利用されるだけで終わるのかは、現時点ではまだ何とも言えません。先日開かれたグノシーのメディア向けセミナーで、わたしは「これからのグノシーの役割は?」と聞かれ、次のように回答しました。このコメントを持って、本シリーズのまとめとしたいと思います。
「ITの進化によって、新聞の世論調査よりもずっと精緻なビッグデータ分析で、人々の声や世論をすくい上げることもおそらく可能になる。その中で、Gunosyなどのキュレーションメディアも巨大化するに従って、公共性をどのようにして政策やアジェンダの設定に結びつけるのかという非常に重要な設問が必ず出てくる。ここをぜひしっかりと考えてもらいたい。そうすれば、新しい民主主義の可能性も開けるのではないか」 完
<2014年8月18日>