ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

小泉純一郎と図書館・美術館(2)

2014-03-21 | Weblog
 前回に引き続き、季刊Eマガジン「Lapiz」(ラピス)3月1日号掲載文の再録。これで完結です。

<東京足立の区立図書館>

 雑誌「AERA」が「指定管理者の労働実態 公務員の代替時給180円」と報じた。足立区立図書館での低賃金労働の内部告発である。2013年2月25日号。
 元副館長の女性が告発したのだが、低賃金が「あまりにひどいと抗議したら、契約更新を拒否された」という。指定管理者として管理運営を請け負っていた民間会社に彼女は雇われ、区立図書館の副館長をつとめていた。
 問題になった労働は、通常業務終了後にパート館員がみなで行っていた資料整理の作業である。賃金は時給に換算すると、180円から500円にしかならない。当然だが、東京都の最低賃金にも届かない。
 職員は1年間の有期契約だが、彼女を含め全員が希望すれば契約を更新されて来た。ところが会社に苦情を言い改善を求めたところ、契約更新は拒否され、彼女は退職を強いられた。
 法曹界からは「公立図書館の管理運営という本来継続性が要求される業務に指定管理者制度が導入され、職員が有期雇用となることに、構造的な問題があるのではないか。特に副館長は総合的な面から業務を行い、専門的な知識も要求される仕事なのに1年間の有期雇用であるのは不合理」(柿沼真利弁護士)
 金山喜昭法政大学教授は、基礎的な技能の習得のほかにも、地域の人たちとのネットワークや信頼関係づくりには時間がかかる。図書館では人材育成が重要課題であり「人件費が若干増加しても、サービスが大幅に向上することも立派な行政改革のひとつであると、自治体は認識するべき」

<民から官に回帰する公立美術館>

 全国に公立美術館は600館ちかくあるそうだが、導入していた指定管理者制度を廃止する館も出だした。雑誌「日経ビジネス」が報じた。「彷徨う公立美術館『民から官』に回帰」2014年2月3日号。
 芦屋市立美術館は運営をNPO法人に委託していた。3年前の契約更新のとき、人件費削減を告げられた学芸員4人が反発して一斉に退職してしまった。また彼らを信頼して美術品を預けていた寄託者の多くが、貴重な作品を引き上げるという最悪の事態になってしまった。芦屋市が期待した「民による経営合理化」の結末がこの非常事態である。
 美術館の業務には、研究や寄託品の調査、また長期間を費やしての企画展という昇華。さまざまの作業がある。わずか1年での雇用更新や、自治体と民間法人との3~5年という有期の契約では、学芸員も育ちようがない。
 美術ビジネスで知られる丹青研究所は「文化を後世に残しながら活用していくには、莫大なカネがかかる。個々の美術館だけで運営していくのは難しくなっている」。短絡的な指定管理者制度ではより困難であろう。
民から官へと逆流現象を見せ出した美術館界。全国の経営難にあえぐ公立館を再編し、新中央美術館の元で独自色を打ち出すというグループ化構想も提唱されている。指定管理者制度の功罪がこれから一層問われるであろう。

<未来の図書館>

 美術館や博物館などにはわずかでも入場料収入がある。ところが公立図書館は利用料を徴収することが法律で禁じられている。図書館法第11条には「公立図書館は、入館料その他図書資料の利用に対するいかなる対価も徴収してはならない。」
 わたしは「Lapiz」前号で図書館資料の貸し出しについて、超安価な利用料徴収を提言した。単に図書館運営の経費捻出のためだけではなく、本の原点である著作者に印税を正当な対価として増加させることなく、無料利用をよしとする考えには納得できない。作家で著作年収が500万円を超えるひとはごく少数という。ほとんどの小説家、ノンフィクション作家の年間収入は、300万円以下ともいう。作家が滅べば、文化も衰退してしまう。
 ところで図書館の指定管理者制度について猪谷千香氏は「来館者が増えれば増えるほど、図書館の管理、運営費用も増していくため、営利団体である企業の運営に図書館はなじまない。数年の契約で指定管理者がかわる可能性があるため、専門性の高い司書や職員の人材育成にも向かないーーそういう批判が根強くある」(『つながる図書館―コミュニティの核をめざす試み』2014年1月刊、ちくま新書)
 東京都知事選の表舞台で久しぶりに活躍された小泉純一郎氏。彼の置き土産、指定管理者制度は10余年を経たいま全国で是非が問われている。
<2014年3月21日>

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小泉純一郎と図書館・美術館(1)

2014-03-15 | Weblog
 季刊Eマガジン「Lapiz」(ラピス)に図書館についての原稿を以前に寄稿し、このブログに転載紹介したことがあります。そして3月1日発行最新号でも、前回に続き図書館についての記事を掲載していただきました。タイトル「小泉純一郎と図書館・美術館」。同誌の了解を得て、数回にわけてまたもや転載いたします。「Lapiz」はなかなか読みごたえのあるビジュアル雑誌。MAGASTOREで有料300円ですが、試し読みもできます。ご一読ください。
http://www.magastore.jp/product/17481
http://www.magastore.jp/search/?q=lapiz&field=all
以下本文第1回。


<元総理の置き土産>

 下馬評通り、都知事選は舛添要一元厚労相が圧勝した。小泉純一郎とタグを組んだ細川護煕両元首相チームは惨敗してしまった。彼らふたりの作戦は「ワンイシュー」。原発ゼロだったが、同じ方針の宇都宮健児氏の得票にも及ばなかった。
小泉氏はかつて2005年夏の総選挙で大勝した。郵政選挙だが、彼は民営化を単一争点に得意のワンイシュー戦略をとった。
 彼のワンフレーズは「民営化」であったが、官から民への「指定管理者制度」も置き土産である。郵政選挙の2年前にはじまった新制度だが、10年以上が経過したいまも、この制度を導入した図書館や美術館などには問題が山積している。
 指定管理者制度とは地方自治体の施設(図書館や博物館、音楽やスポーツ施設など)の管理運営を民間に代行させる制度。2003年の小泉改革による地方自治法の改正からスタートした。

<武雄市と伊万里市>

 九州でもっとも注目されている図書館は、佐賀県の二館であろう。武雄市図書館と伊万里市市民図書館。ともに市民の利用頻度と評価が高い。市外県外からの視察者も絶えず、地元観光産業の重要ポイントにもなっているというから驚きだ。地方の市立図書館がである。
 両館については当誌「Lapiz」前号で三室勇氏が詳報された。興味ある方はぜひご覧いただきたい。彼から直接聞いた話では「伊万里は市民の力を結集してつくり、また職員と市民が日々協力しながら運営している市民密着型図書館。指定管理者制度には当然ですが反対している。一方の武雄市はユニークで、新鮮な印象を与えるサプライズ型図書館。この館は指定管理者制度を導入しているが、どうも人出不足のよう。利用者のちょっとした問い合わせにも応じる余裕がない。民間の運営だけにコスト意識が高いようだ」
 武雄市図書館の20名近い職員は館長以下全員が、民間のCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)と5年間の雇用契約を結んでいる。CCCはTUTAYAの屋号でレンタルDVD、書店、Tポイントなどを営む会社である。
 図書館では武雄市唯一のスターバックスで飲食しながら座り読みができ、蔦屋書店で新刊書籍や雑誌などを購入できる。買いたい本の精算レジは、図書館本の貸し出しと共用の自動貸出機。図書館利用者はTポイントカードを図書貸し出しカードとして利用できる。革命を起こした、という評価も受ける武雄市図書館だが、毀誉褒貶にさらされている日本一注目度の高い公立図書館でもあろう。
 現時点でいくらユニークで斬新であっても、まったく新しく意表を突く驚きの図書館がこれからも全国各地に誕生するであろう。武雄市詣でもその内に落ちつく。この館への評価は本来は市民が下すものであるべきだが、脚光が冷めブームの過ぎた時点から評価はやっと定まるのではないか。当然だが、指定管理者制度も含めてであることはいうまでもない。
<2014年3月15日 続く>
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