ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

世界の潮流 見聞雑記 (5)

2016-09-22 | Weblog
<パナマ文書>

 何者かによって送られ、本年4月に突然暴露されたパナマ文書は、世界中の権力者、超資産家にとてつもない衝撃を与えた。
 英国のキャメロン首相は、亡父がパナマに約20億円の投資ファンドを設立。キャメロン自身も投資し利益を得ていた。彼は13年の主要8か国G8首脳会議・サミットで租税回避防止の強化をする方針を打ち出していた。英国内の法整備も進めてきた張本人である。本人がいう通り、違法性はないのかもしれないが、説明責任を果たす姿勢と誠実さに欠けるとの批判が高まった。キャメロンに対して「偽善だ!」との非難もあり、6月の国民投票行動にも事件はいくらか影響したであろう。
 アイスランドのグンロイグソン首相は清廉な政治家として国民に人気だったが潔く辞任した。妻と保有するバージン諸島の企業が、自国銀行の債券へ投資していたことが判明したためである。
 スペインのソリア産業エネルギー観光相は、課税逃れのためにバハマと英領ジャージー諸島に法人を設立していた。政治的混乱を招いたとして辞任。
 中国の習近平国家主席は姉の夫、義兄が英領バージン諸島に複数のペーパーカンパニーを設立していた。
 ロシアのプーチン大統領の古くからの友人、チェロ奏者ロルドゥギンはバージン諸島などの企業での約2000億円の取引が判明。内1000億円ほどが不透明という。
 アルゼンチンのマクリ大統領は、父親が設立したバハマの会社の役員をつとめたが、税務申告をしていなかった。検察が操作を開始した模様である。
 シリアのアサド大統領のいとこ、米国の制裁対象になっている人物だが、彼もバージン諸島に法人を設立していた。
 マレーシアのナジブ首相の息子が、バージン諸島のペーパーカンパニー2社の役員についている。
 パキスタンのシャリフ首相一族に、バージン諸島での租税回避の不正疑惑。
 アゼルバイジャンのアリエフ大統領一族による蓄財、金鉱山の権利取得などの不正疑惑。
 南アフリカのズマ大統領は、コンゴでの石油契約に不正の疑い。
 オーストリア州立銀行のトップが辞任した。顧客の資産隠しに関与したとされる。

 名前のあがっている政治家とその家族はほかにも数多い。きりがないないのだが、ウクライナのポロシェンコ大統領、サウジアラビアのサルマン国王、アラブ首長国連邦のナヒヤーン大統領。元元首級の国名だけを表示すると、ジョージア(グルジア)、イラク、ヨルダン、スーダン、カタール、エジプト、スペイン、ギニア……。

 日本では400名ほどの名前があがっているそうだが、警備会社セコムの創業者2名がタックスヘイブンに設立した複数の会社で700億円の超えるセコム株を管理していた。パナマ文書の記載では「創業者の死後に備え、セコム株を親族らに取り分けておくことなどが目的」とされている。
 AIJ投資顧問の年金消失事件の首謀者であった浅川和彦元社長の名も、パナマ文書にある。彼はタックスヘイブンの英領ケイマン諸島を利用していた。同投資顧問は主に中小企業の厚生年金基金を運用し、2011年には大小124の企業年金から2000億円の資金運用を受託していた。そのほとんどの年金が消え去ってしまった事件だが、13年には元社長に懲役15年、関係者ふたりにも懲役7年の実刑判決が確定した。
 佐川印刷の不正流用事件では、英領バージン諸島で約90億円が操作されている。


<おわりに>

 ふつうの国民である99%には、タックスヘイブンなどまったく無縁である。ごく一握り、1%のエリートは1万mの上空をプライベートジェットやファーストクラスの機中から、99%の貧民を見下ろしあざ笑っている。(「高野孟のTHE JOURNAL」16年4月16日)
 タックスヘイブンから見えて来た不平等に対する庶民に鬱積した不満は、やがて国家に矛先が向かう。「近年、世界各国で勃発する反グローバリズムやポピュリズムの動きは、拡大している格差問題と重なっている」(「日経ビジネス」16年6月27日「共生」)
 世界中で格差と貧困への怒りが広がっているのは、グローバル資本主義に対する失望と反感であろう。グローバリゼーションは99%の人々にではなく、1%のひとの役に立っていただけだという事実が白日のもとにさらけだされた。

 さらに世界はこれから、ロボットやAIやITなど、最新の技術で急速に発展していく。この流れは変えようがない。産業にはヒト・モノ・カネが必須条件というが、必要とされる「ヒト」の数はどんどん減っていく。反対にほぼ完全な無人工場は、それ以上にどんどん増えている。格差と貧困の問題はますます拡大し、世界中で混乱は激化していくのではなかろうか。

 近ごろインダストリー4.0すなわち第4次産業革命が声高に叫ばれている。第1次産業革命は蒸気機関によって18世紀に起きた。そして第2次産業革命は20世紀初頭から、電気による大量生産である。次に1980年代になるとコンピュータによる自動化が進んだ。第3次産業革命である。
 そして今度の第4次産業革命(インダストリー4.0)。AIやセンサーや通信技術ITをフルに活用し、生活のあらゆる分野で革命が起きつつある。これからの高度化社会では、多くの産業が省力化を徹底する。必要とされる労働者は、ごく少数になってしまう。
 人類は、生き方や価値観を根本から改める意識革命を迫られるであろう。(完)
<2016年9月22日 8月15日記>

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世界の潮流 見聞雑記 (4)

2016-09-19 | Weblog
<イタリアの五つ星運動>

 英国のEU離脱は、欧州の分裂の兆候であろうと思う。これまでの世界はグローバリエーションが拡張し続ける大潮流であった。しかし地球上の大きなトレンドは反転しつつある。統合から分裂に向かっているのではないだろうか。
 ヨーロッパでは英国以外にもEUを離脱する国が続く可能性がある。また各国内ではスコットランドやスペインのバスクやカタルーニャなど、独立を求める機運も強くなっている。

 イタリアでは新興「五つ星運動」(略:五つ星)が、レンツィ首相率いる民主党を抜き、世論調査では支持率首位に躍り出た。本年10月には同国では国民投票が実施される。憲法改正を問う投票だが、現首相の信認も決定する。イタリアでは「五つ星」の躍進から、「10月危機」が来襲する危惧がある。英国に続いて伊国でも脱EUの激流が渦巻こうとしている。

 日本ではなじみの薄い「五つ星運動」(MoVumento 5 stelle、略M5s)。一体どのような政党なのか。6月の統一地方選で選ばれた新首長たちをまずみてみよう。有権者は腐敗した政治プロではなく、常識を持った「素人」の女性候補たちを選んだ。「未経験の素人」と対立候補から攻撃され続けた新人の彼女たちは圧勝した。(月刊「選択」8月号)
 まず工業都市トリノのキアラ・アッペンディーノ市長。32歳の彼女は、環境運動を経て五つ星に加わり、過去20年間ベジタリアンを通している。新市長選の宣言は「ベジタリアン都市作り」。
 トリノがあるピエモンテ州は肉料理と赤ワインが名物なだけに、新方針には抗議が殺到しているが、市長は「まず小中学校に菜食教育の講座を作る。健康と環境にいい」と動じていない。
 ローマのヴィルジニア・ラッジ新市長は37歳。夫とは別居中の彼女は、郊外で7歳の息子とふたりで暮らしている。五つ星のラッジは選挙前、ニューヨークタイムズのインタヴューに対し「子どもたちのために世界を変えたいと願う、母親たちのために頑張りたい」と語った。選挙戦では、汚職撲滅や行政サービス向上を訴えた。
 ラッジ市長は「市民の声に耳を傾ける」ことを第一に掲げた。この後は「機能する信号機の整備」「資格がないのに、身体障碍者用スペースに駐車したひとへの罰金」など、市内交通改善に関する細かな施策が並ぶ。ローマ在住の邦人記者は「外から見ると『なに、これ?』と笑うでしょうが、ここローマでは最低限のモラルから始めないと」

 ローマでは中道左派のイニャツィオ・マリーノ前市長(61歳)が昨年10月、市のクレジットカードで私的な夕食やワインの代金を支払っていた公費使い込み疑惑で辞任した。特別担当官が任命され、ラッジの就任まで公選市長不在の異常事態が約半年間も続いていた。(毎日新聞6月21日)

 新党「五つ星運動」の創設者、ベッペ・グリッロは人気コメディアン。M5sは、グリッロとITエキスパート、故ジャンロベルト・カサレッジオ(16年4月病死)の協力で生まれた。ネット市民政治活動から発展した政党である。2013年のイタリア総選挙では、予想に反して下院630議席の109議席、上院315議席の54議席という驚異的な数の議席を獲得し、現在のイタリアの国政において、PD(与党民主党)に次ぐ第2勢力となっている。同党議員団の指導者で下院副議長のルイジ・ディ=マイオ(30歳)は、大学中退後にインターネットの仕事をしていた青年である。
 かつて欧州各紙だけではなく、ワシントン・ポスト、フィナンシャル・タイムスをはじめとするインターナショナルな主要新聞がM5sに注目し、ポピュリズムの危険性をも含め書きたてたので、いまや世界でも有名なイタリアの市民、つまり政治の素人たちが形成する政党となった。
 M5sの出発点はそもそも2005年にベッペ・グリッロがはじめたブログに遡る。過激な暴露記事や、世界のリアリティを歯に衣を着せることなく書いた。そのグリッロのブログそのものが、よりよい世界の構築のために意見を述べ合い、テーマを議論、提案する『Social network Meet up(ソーシャル・ネットワーク・ミートアップ)』という発想で発展。短期間に直接民主主義を旨とするヴァーチャル市民政治活動にまで育ち、政党を立ち上げるに至った。右も左もなく、政治思想とはまったく無縁、伝統的な政党色を排除し、現在でもイタリア国内の既存の大政党と連合することを完全に拒否している。政治戦略、各選挙の候補者を含め、あらゆる事項をネット上でM5sの支持者の投票により決定する、という特殊な形態を持つ。いわばヴァーチャル民主主義とも呼べるポピュリズムを核としている。基本的に物理的な本部を持たず、M5sの支持者それぞれがネット上で交流するヴァーチャル・コミュニティにより政党が維持されている。名称の五つ星は、水、環境、交通、発展、エネルギーをシンボライズしている。
 「Meet up」から発展したヴァーチャル政党が2011年のイタリア地方選で、それまでまったく政治経験がなかった普通の市民たちを候補に擁立し、多くの議席を獲得。ネットから飛び出して現実の政治活動を始動することになった。ここで一気にイタリア国内の注目を集め、2012年にはグリッロ、カサレッジオがM5sを『政党』として登録。翌年のイタリア総選挙の結果は前述したように大勝。イタリアの大きな政治勢力のひとつとして確固とした地位を獲得した。
 ポピュリズム、民主主義、合法性、アンビエンタリズム(交通網の整備と環境保全)、非競争主義、アンチマテリアリズム(反物質主義)、非ユーロ主義(ユーロ離脱を主張)、非政党主義(腐敗した伝統的政党の否定)と、『アンチシステム』、『アンチキャピタリズム』を掲げるこのM5sは、ベッペ・グリッロのユーロ離脱や移民排斥などの度重なる過激な発言で、さんざんメディアに叩かれ、時にはファシストだのフォークロアとまで呼ばれている。しかし一方、国政に市政に、普通の市民から躍り出た議員たちのなかには、例えばアレッサンドロ・ディ・バッティスタやロベルト・フィーコなど、短期間にめきめきと政治力を発揮しはじめたスターも生まれている。
 カサレッジオがベッペ・グリッロの知名度とともに仕掛けたM5sのネット世代の若者たちへのメッセージの浸透力、いわゆるデジタル・ストラテジーの見事さには目を見張る。「ベッペ・グリッロのブログは、めちゃくちゃ面白い」という話を大学生たちが話しているのを聞き始めたのは2008年ごろから。イタリアのネット世代の若者たちは、不正と嘘と不公平がはびこる社会、そして世界にすっかりうんざりしていた。しかしそれから数年の間に、そのブログが市政、国政の場に現実に議員を送り込む大政党に発展するとは考えもしなかった。ベッペ・グリッロ自身も急激なこの膨張を『ミッション・インポッシブル』と表現している。
 2013年のイタリア総選挙でM5sが大躍進を遂げ、大量に議席を獲得した際、当時イタリアの大統領だったジョルジョ・ナポリターノが「これが民主主義というものだ。市民がM5sを選んだのだ」と発言した。市民の多数決で政治を作るのが民主主義というものなのだ、と国民の多くは改めて実感した。(ネット「Passione」16年6月22日)
<2016年9月19日>
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世界の潮流 見聞雑記 (3)

2016-09-13 | Weblog
<英国のEU離脱>

 英国の6月23日の国民投票の結果には驚いた。まさか欧州連合EUからの離脱を国民の多数が選択するとは、損得勘定からありえない結論であろう。大きな原因のひとつは、EU加盟の全国民をルールで縛る欧州委員会の横暴だといわれている。各国民が直接選挙で選んだわけではない特権階級の欧州委員会の委員たちが、自分たちの頭だけで判断して各国民に強制する。欧州委員会の委員たちは秀才のエリート官僚であるが、彼らは欧州連合所属の国民たちに無理難題を押し付けている。英国民が国民投票で「ノー!」と叫んだのは、官僚主義のエスタブリッシュメントに対する反撃でもあった。

 フランクフルトのフォルカー・ビーラント(ゲーテ大教授)は「英国の多くの有権者は、自国政府や議会の権限をこれ以上EUに渡したくないと判断した。BREXITに対し、欧州統合の強化を求めることは適切ではない」

 また独日刊紙「ターゲスシュピーゲル」6月27日付は、「EUでは官僚主義が蔓延し、市民生活から隔絶していると、多くの欧州人は考えていた。BREXITは、EUがこれまでたどって来た道が誤りであったことを証明したのかもしれない」

 少し長い文ですが、竹下誠二郎(静岡県立大学経営情報学部教授)「Brexitの真犯人 官僚主義がはびこる欧州委員会の大罪」(週刊ダイヤモンド 16年7月23日号)を転載します。
 「英国の欧州連合(EU)離脱は欧州委員会に対する不信任案だ。Brexitの論議は英国の経済とその波及にとどまっている感が強いが、欧州委員会らの行政姿勢が劇的に改善されなければ、英国に追随する国が続出する可能性は高い。 
 欧州委員会は深刻化する移民問題を憂える声に対し、「ゼノフォビア」(外国人嫌い)や「イスラマフォビア」(イスラム嫌い)のレッテルを貼り、多元文化主義を念仏のように唱え続けた。その結果、移民問題は西欧や北欧の国民の不安と怒りを増大させ、右翼化を爆発的に加速させた。
 多くの警告を無視して突き進んだ緊縮財政策がもたらしたものは、南欧の極めて高い失業率と欧州のさらなる南北格差だ。ギリシヤのGDPは30%も落ち込み、失業率は25%を超え、人口の3分の1は貧困層となっている。失政のかじ取りを大きく変える動きも反省もなく、南欧のEUに対する不信感は怨嗟に変わりつつある。
 国民の声を聞く耳を持たない例は枚挙にいとまがない。EUでは電力を無駄にしている消費者を「再教育」するために、2014年に1600ワットの大型掃除機の販売を禁止した(しかし新規制下の機種では吸引力が弱い分、長く掃除機を使わなければいけないため、電力消費量は増加)。バナナやきゅうりの曲がり具合を規制しようとし、レストランでオリーブオイルを浸す皿を禁止しようとした。「欧州のトイレ水分使用量の統一化」に2年半の歳月と費用をかけた60ページにもわたる「技術レポート」はまだ(幸いなことに)日の目を見ていない。このような政策が矢継ぎ早に出るのも、EUの官僚主義が末期症状にあるからだろう。常に「上から目線」で、各国の事情を考慮しない姿勢にはフランシスコ・ローマ教皇までもが苦言を呈したほどだ。
 EUの行政機関における官僚主義はトップから下層にまで深く浸透している。ルクセンブルクで多国籍企業の脱税を促すタックスヘイブン(租税回避地区)の基盤を作り上げていたことが暴露された欧州委員会トップのユンケル委員長は、批判が高まっても引責はおろか、謝罪の言葉もない。6月23日のBrexitでも「逆ギレ」をして英国に脱EUの手続きを催促し、メルケル独首相に戒められる有様だ。
 英国の離脱により、EU基本条約の改正が必要となる。その際には表面上の条約改定だけではなく、執行部の官僚制の廃棄が求められている。移民問題、右翼化・国家主義の高まり、保護貿易主義への回帰の可能性、シェンゲン協定(国境検査をなくす協定)の崩壊、ロシアの脅威、地域独立運動など、EUの問題は山積みだ。これらに前向きに取り組める組織力が果たして欧州委員会にはあるのだろうか? 答えは否、だ。EUの行政は各国民の直接選挙で選ばれる欧州議会へ権力を早急に移し、欧州委員会の提案を否決する力を与えるべきだ。
 EUの行政を擁護する人たちは必ずと言っていいほど「これだけ多様な格差や価値観を取りまとめなければならないため、困難が伴う」という主張を展開する。しかし、困難を伴うのは承知の上だ。その困難な統治が無理ならば、それはまさにEUが拡張し過ぎたことの証しなのではないだろうか。」
<2016年9月13日>
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世界の潮流 見聞雑記 (2)

2016-09-09 | Weblog
<アメリカ大統領選挙>

 ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンがデッドヒートを争っている米国大統領選挙。このふたりが最終候補なのだが、つい先日までクリントンに肉薄したバーニー・サンダースにも注目すべきであろう。

 サンダースをいまも支持する青年は、バーニーとともに戦ってきた運動は「政治がわずか1%の特権階級にカネで買われ、この国が僕ら一般国民じゃなく一握りの富裕層のためだけの国になっていることに対する国民の怒りの声なのです。ヒラリーはその1%にバックアップされている人物です」(堤未果著『政府はもう嘘をつけない』角川新書)

 英国の保守党と労働党の明確な差異が消滅してしまったのと同じように、いまの米国は民主党も共和党も同じ穴のムジナのように見える。保守を選ぼうが、リベラルに投票しようが、結局は1%が支配し、圧倒的多数の国民は貧困と格差に追いやられる。

 誰もがアメリカンドリームを手にする機会があったはずの米国が、国家としての力を失い、超富裕層だけが潤う「株式会社国家」になってしまった。トランプは過激発言や失言がマスコミに追及されてばかりいるが、彼は国民多数の厚い支持を得ている。トランプのスローガンは「強欲な1%から、アメリカを取り戻す」であり、サンダースの主張とピタリ重なる。堤未果氏は「トランプ&サンダース旋風」は同じコインの表と裏という。

 バーニー・サンダース議員はこう語っている。「アメリカの大統領と議会が国民のニーズに応えていない大きな原因は選挙資金です。お金持ちや大企業がお金で政治家を売り買いできるような制度になっていて、金持ちはより金持ちになり、貧しい人々はますます貧しくなります。普通のアメリカ人が政治から閉め出されているのです」

 米国内の反資本主義の流れは、現在本命視されているクリントンが当選しても、やはり変わらないであろう。あるいはより過激な運動になっていく可能性すら感じる。圧倒的に多数の米国民が、主流派・エスタブリッシュメントに対して「ノー!」と言いはじめたのである。
 米国民が体制に向けた怒りが、今回の大統領選で噴き出したのである。貧困層の拡大、広がる格差、それらに向けた怒りが異端トランプへの支持であり、民主社会主義者サンダースへの敬愛であったのであろう。だれが大統領になろうが、99%対1%の闘いはますます激化するしかないはずだ。それはおそらく、反グローバル者の時代のはじまりであろう。
<2016年9月9日掲載 8月15日記>



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世界の潮流 見聞雑記 (1)

2016-09-05 | Weblog
 ほんの十数年ほどのあいだ、21世紀になったころから、世のなかの変化は以前に増していちだんと激しくなったように思う。ある方と話していて「わたしたちのまわりで、何がいちばん変わったのか?」。とりあえずの答えは、莫大に増え続ける情報量ではないかという実感になった。インターネットを通して、だれでもがほぼ公平にあふれるほどの情報の洪水に接することができる。
 ところが困ったことに、集めれば集めるほど、知れば知るほど、何が正しくてどれが自分に必要な情報なのか? 大切なのはどれで、自分の限られた時間を消費しては限りなく消耗しそうな情報はどれか? 
 いくらたくさんの有益な情報なり知識を得ても、それらをどのように理解構築し、整理して自分の内に取り入れていくのか? あまりにも多すぎることはおおいなる悩みでもある。
 またそれ以前に、わたしは自分自身そのものを理解できない。あきらかに異常であり、身近な生活の周辺を判断対処することにも難儀しているのが現状である。
 しかし悩んで立ちすくんでいてばかりでも悔しい。そこでエイヤッ!とばかりに、世界のいまを「世界の潮流 見聞雑記」と名づけて書いてみた。複雑な世界を探求することから、ごく狭い自分の小さな世界が見えてくるかもしれない。そんな思いである。
 雑文「世界の潮流 見聞雑記」は例によって、Eマガジン「Lapiz」(ラピス)秋号に掲載していただいた。アマゾンなどで購入できますが200ページほどの雑誌で、わずか300円。京都山麓では数回に分割しての掲載ですが、「Lapiz」では全文一括掲載。すてきな記事満載のおすすめマガジンです。
 なお以下の文は、8月のお盆のころに書いたものです。


<リオ五輪>

 ブラジルのリオデジャネイロ五輪で熱い日々が続いています。時差がちょうど12時間のようでLIVE放送でも寝不足にならず、また夏休み中で自由な日本人も多い。開会式の中継は、日本国内で半分近い国民がTVで観たという。ところが現地ブラジルでは、オリンピック開催国なのに、ほとんど盛り上がりがみられない。過半の国民は静かであるという。

 その原因をみるとまずは政治の混乱だ。五輪開会式でテメル大統領代行が開幕を宣言すると、マラカナン競技場のなかはブーイングに包まれた。そして競技場の外では、五輪の開催に反対する市民のデモ隊が治安部隊と衝突していた。いまのブラジルは、世界大恐慌のとき以来、といわれるほど景気は低迷している。国営企業を軸とした汚職スキャンダルは底知れぬほどに広がり、ルセフ大統領は職務停止に追い込まれ、代行が五輪の開幕を宣言することになった。ルセフ大統領に対しては国家会計の不正操作問題でオリンピック終了直後、8月末にも弾劾裁判が開始されそうである。
 かつてBRICsと賞され、新興国の代表格として将来の大発展が約束されていたはずのブラジル。しかし期待は裏切られ「最近のブラジル情勢には、政治家へのブーイングや五輪に反対するデモが当然とも思える面が、確かにある」(「日本経済新聞」春秋 16年8月7日)

 ブラジル国民がオリンピックに沸かないもうひとつの理由は、一般国民の貧困である。サンパウロ在住のジャーナリスト、美代賢志氏はつぎのように報告しておられる。ブラジルではサッカー以外のスポーツは庶民のものではない。同国ではプールを備えた公立小中学校は数少ない。水泳をやれるのは経済的に裕福な国民だけで、スポーツクラブに加入する必要がある。どのスポーツをとっても同様で、所得格差の大きいブラジルでは同じ上位の社会階層に属する者同士が、一種の結社を構えている。一般庶民は、どのクラブにも入ることは困難だ。
 例外はサッカー。ボールがひとつあれば、誰でも参加できる。運動具をそろえる余裕のない庶民には、国民スポーツのサッカーだけが唯一の競技である。いまのブラジルでは、競技場席どころか、テレビの前で観戦し、熱狂する多数派の一般国民は存在しない。
<2016年9月5日>
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