ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

ロボットが世界を変える (5)

2015-03-28 | Weblog
「人間とロボットの共生」

 賢くなったロボットや人工知能AIと、人間とがどう折り合いをつけ、人にとって幸福な共存生活をどうやって営んでいくかを、真剣に考え始めるべき時期に来ている。ロボットの採用は、人手不足の業種や危険作業などからはじまっている。しかし人工知能の進化とあいまって、どんどん人間から仕事を奪ってしまうようにもなりつつある。松原仁氏(はこだて未来大学教授)はそのように述べておられる。

 工場の産業用ロボットは有名だが、人間が近づけない原子炉内を調べるロボの完成も近いようだ。農業用もかなり開発されつつある。介護や医療ロボも活躍している。チェスや将棋のプロもコンピュータロボAIに完敗している。
 アマゾンの倉庫ではロボットが走り回ってピックアップ作業で活躍している。すでに複数の巨大な物流センターで合計500台以上の集品ロボが活躍している。
 ドローン(無人飛行機)は雑誌ディアゴスティーニで組み立てられるほどに普及しはじめた。宅配便にかわる輸送手段として注目されている。軽量の荷物専用だが、自宅まで運ぶ実験が進みだした。またインフラの老朽化調査や警備などにドローンの力は欠かせない。セコムのドローンは深夜、工場や倉庫で不法侵入者を見張っている。ドローンは2020年の東京オリンピックでも上空からの監視と情報収集や、事故や犯罪の防止に活躍する予定であるという。五輪のこの年だけ、警備会社は社員を増やすことは不可能である。各社ともロボットの活用をいま真剣に模索している。

 運転手のいない無人自動車はすでに実用化されている。普通乗用車は一般公道で無人運転の試験中だが、オーストラリアでは巨大な無人ダンプトラックが走り回っている。タイヤ直径だけで4メートル近い。一度に300トンの鉄鉱石を運ぶというからすごい。ドライバーは運転席には不在である。建機・鉱山機械メーカーのコマツ製だ。
 東短リサーチ㈱の加藤出氏は次のように語っている。豪では、中国需要の高まりによる数年前までの鉄鉱石ブームの際に、採掘場でダンプカー運転手の不足が深刻になり、彼らの年収が2000万円以上に一時跳ね上がったことがあった。しかし、そうなると、経営者はコスト削減と運転手不足のリスクを最小化するために、アルゴリズムで自動運転するダンプカーを大規模に導入した。これは運転者の賃金を下落させる方向に働く。今後、技術的課題をいくつか乗り越えれば、自立運転の車の普及が広範囲に進み、運転手に対する求人は全般的に減少していく。

 米国のボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によると、産業用ロボットの利用を拡大することで、日本企業は人件費を25年には14年に比べて25%削減できる見込みという。「安価な人件費を求めて、生産拠点を海外に移す動きは終わる」とBCGは断言している。

 人工知能の例だが、アメリカではまったく新しい会計ソフトが出現し、会計士が数万人も失業した。この会計ソフトは、単に金額を整理するだけではなく、税金を減らすこともできるそうだ。テクノロジー失業という新語が生まれたという。
 人工音声を使ったコミュニケーション技術も急速に進んでいる。カタログ通販に電話して、オペレーターと話しているつもりが、相手は実は機械だったという時代がもうすぐ来るだろう。

 労働人口の減少、人手不足から自動化・ロボット化の飛躍的拡大導入がはじまっている。しかしこの動きがエスカレートすると、コストの安いロボットが人間の仕事を奪ってしまう。
 たとえば自動車の製造工場で、溶接や塗装で産業用ロボットがずいぶん前から活躍している。わたしもトヨタのプリウス工場へ見学に行ったことがあるが、将来は組み立て作業や完成車検査、走行試験、さらには設計など、現在は人間が行っている作業までロボットがこなす可能性がないとはいえない。
 ロボットは一時も休むことなく、1台が24時間働き続けることができる。8時間労働の人間3人分の仕事を延々と疲れることなく続けることができるのだ。ロボットばかりが働く無人工場の映像をみたことがあるが、照明は消され空調もほとんで効いていない。そのような工場で、ロボットが黙々と働いている。
 ロボットの大量採用は人口減の社会では必要であろう。しかしロボットと人間の良好な関係性、どのように共存するかが問われようとしている。またロボットが生産した成果の富を、いかに非生産者である人間に分配するのか。問題は山積している。

 一段と期待されるロボットとAIについて、これからも注目して行こうと思っている。
<2015年3月28日 南浦邦仁>
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ロボットが世界を変える (4)

2015-03-20 | Weblog
「ハウステンボスのロボット・ホテル」

 長崎県佐世保市にあるテーマパーク、ハウステンボス「HTB」が好調だ。かつての長崎オランダ村から発展した当初は苦戦だったが、旅行業の「HIS」エイチ・アイ・エスが引き継いだ後、業績はウナギ登りだそうだ。園内には直営ホテルも充実しているのだが、新しく「変なホテル」を今夏に開業する。
 「変なホテル」とは実に「変」だが正式名称である。サブ呼称は「変わり続けることを約束するホテル」。この変なホテルは「世界一生産性が高い」。同規模のホテルと比べ、人件費は3分の1から4分の1に抑える。それではサービスが低下してしまうのではと心配してしまうが、人件費を抑えられる理由は、たくさんのロボットに仕事を任せるためである。
 フロントの女性3人はすべてチェックインアウト受付の人型ロボットである。「このロボは顔や表情に重きを置いたタイプで、人の表情の表現には十分」と語るのはロボット「アクトロイド」を製作会社した㈱ココロ。なおココロはサンリオの関連会社。ほかにもポーターや清掃、ルームサービスなど、たくさんのロボットが活躍する。
 7月中旬に第1期棟72室がオープン予定だが、予約受付は3月1日から始まる。一度訪れたいホテルであるが、気になる宿泊料金は安心。園内のほかのホテルの3分の1程度だそうだ。人件費以外にも低光熱費の実現や、コンテナ型の建築工法などにも工夫をこらして、ビジネスホテル級の価格を実現できた。ホテルの3大コスト、人件費、光熱費、建築費のすべてを抑えたのである。

 設計を担った川添善行氏(東京大学生産技術研究所准教授)によると、ホテルは半分が木々の緑で占める敷地に立地。「エアコンのない快適性」をコンセプトに放射パネルや蓄熱性の高いレンガを用い、風の抜けるゆとりのデザインとし、「東京では実現できない空間の豊かさが享受できる」とアピールする。
 建築部材はあらかじめ加工したものを現地で組み立てるプレハブ工法である。世界のどこで建てようとも現場作業の簡略化と工期の短縮、人件費の削減ができる設計である。

 ハウステンボス社長でエイチ・アイ・エス会長の澤田秀雄氏は「これからの日本は少子化が進んで、サービスを提供する人が減ってくる。それを補う方法はふたつしかない。ひとつは移民政策、もうひとつはロボットが人の代わりになること。それをテストする段階に入ってきた。若者が減少し、サービス分野の人が足りなくなる。そうした状況のなかで貢献できるよう、サービスロボットを共同開発して進化させていきたい」
 世界最高の生産性で、世界のホテルの常識を変える、と豪語する澤田の鼻息は荒く、目標は壮大である。この『変なホテル』はこれから全世界に展開、世界のホテルを変えてみせると意気込む。砂漠でもアマゾンの奥地でも、都会で作って運んで組み立てることができるよう研究を進めているという。
 「1000軒まで行ける。LCCローコストエアライン(格安航空会社)は、17年前の私の予見通りにいま全盛期を迎えている。あと10年くらいしたら、豊かになったアジアの中間層が海外旅行に出かけるようになり、ローコストホテルLCHが全盛になる。そうしないと世界のホテル需要がまかなえず、価格が上がって旅行がしにくくなる」
 ホテル従業員ロボットが使用する言語は、取りあえずは日本語だが、英語、韓国語、中国語での対応も予定されている。ところで人間でも、これだけの言語を操れる人は少ない。ロボットの進化はすごい。変なホテルが開業すれば、やはり行ってみよう。
<2015年3月20日 南浦邦仁>

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ロボットが世界を変える (3)

2015-03-11 | Weblog
「ソフトバンクのPepper」

 ソフトバンクが満を持して発売するロボット「Pepper」(ペッパー)のうたい文句は、人間の感情を理解してコミュニケーションが取れ、人に寄りそうロボットである。高さ121センチ、重さ28キロ、首からはタブレット端末を下げている。マスコミの報道でご覧になった方も多いだろうが、人の顔や腕、胴体を模した機構を持つヒューマノイド型ロボットである。価格は税別198000円と破格に安い。
 人型ロボットであることは、感情のセンシングにも役立つ。ペッパーは人ににじり寄って自ら話しかけ、身振り手振りを交えながら発声し、相手の顔をのぞき込むようにして話す。すると、人は自然にペッパーの方を向き、ペッパーと対話しはじめる。人のような振る舞いは、人の表情や音声を取得するのにも有利である。

 ペッパーがこれまでの人型ロボットと最も異なる点は、ネットワークに常時接続できる通信環境と、クラウドコンピューティング環境の存在だとされる。現在では、音声や画像から関連情報を見つける処理などをクラウドに任せられるようになり、ロボットのセンシング能力や表現能力が劇的に向上した。
孫は「クラウドや半導体などの要素技術がそろって、”心”を実現できる時がきた。共同開発先の仏社の技術を活用することで”身体”も用意できる。長年の夢に向かって、今こそ挑戦すべきだと考えた」

 お笑いの「よしもとロボット研究所」も開発にかかわっているが、人の感情がポジティブになるようにするには、ペッパーがどのような話し方や行動をとればよいか。目標のひとつはそこに置かれている。絶妙な間合いやユーモアなど、ペッパーは吉本興業の特訓を受けた。
 ロボット研究所は人気バラエティー番組の放送作家、中野俊成氏をチーフプランナーに、ペッパーの「出し物」の企画・演出が練られた。会話の間(ま)も重要なポイントである。

 人の感情を認識し、感情の変化と行動の履歴をもとにペッパーは学習を繰り返す。これからペッパーの兄弟姉妹たちは、まずは日本を中心に、ゆくゆくは世界各地に膨大な数の仲間たちが送りだされる。それぞれのペッパーの体験はクラウドに蓄積され、すべてのペッパーがその記憶を共有することで、学習スピードが幾何級数的に高まっていく。ペッパーは加速度的に頭脳を進化させることができるのである。
 ペッパーが活躍する姿は次のように想定されている。家庭ではゲームの相手や、歌やダンスで場を盛り上げる。ロボットが家族の帰りをあたたかく出迎えたり、出かけるときには「傘を持って出かけた方がいいですよ」とアドバイスしてくれる。子どもと一緒に学校の勉強をしたり、会話を楽しんだりすることも夢ではない。外国語の教師にも適任だそうだ。最も多い要望は、高齢者の話し相手に使いたいという消費者の切実な声であるが、ペッパーは必ず助けてくれる。間もなく、ロボットのいる生活が当たり前になる。そのような時期がもう目前に迫っている。

 家庭だけではない。店舗やホテルで、ペッパーは接客ロボットとしても活躍する。ネスレは自社コーヒ―メーカーの販売員として、千台のペッパーを発注した。全国の家電量販店などの売り場に配置する。客とペッパーの対話、そして胸のタブレットにタッチすることでコーヒーとマシンの話しを進めていく。たいへんすぐれた営業員である。
 ネッスルのライバルのはずのサントリー缶コーヒー「BOSS」のTVコマーシャルにもペッパーは登場。企画発表会にはタモリさんとペッパーが出演し、彼の持ち芸「コンドルの着地」に挑戦した。筆者もPC動画で見たが、ペッパーが羽ばたくモノマネは見事であった。タモリは「上手いねえ。こんなにしなやかな動きをするとは思わなかった」と驚いていた。司会の高橋真麻さんのモノマネには「Pepperのほうが上手いな」。本当にその通りで、ペッペーの身のこなしはすばらしかった。
<2015年3月11日 南浦邦仁>
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ロボットが世界を変える (2)

2015-03-06 | Weblog
「孫正義のロボット」

 ソフトバンクの孫正義氏は昨年夏、日本の労働人口を1億人に増やすことが可能だと語っている。彼が解決策として提案するのは、ロボットである。
 日本ではこれまで、単純生産ロボットを製造業の工場で活用してきた。しかしこれからはクラウドAI(人工知能)で学習する汎用型ロボットに置き換え、一気に普及させるべきだと語る。
 製造などにかかわる人口の「1億人構想」は以下の通り。1日24時間働くロボットを、8時間働く人間の3人分と考え、産業ロボットを3千万台導入すれば、労働力は9千万人に相当する。
 現在、約千万人ほどの日本の製造業人口と合算すると1億人になる。これにより、7千万人いる中国を超える「世界最大の労働人口大国」になる。
 平均月額賃金は日本が25万円、中国が7万円ほどであるのに対し、ロボット1体百万円と仮定して5年で減価償却した場合、ロボットは月1万7千円と安価である。
筆者の判断だが、ロボット1体が百万円では安すぎると思う。しかし量産効果で3倍程度の価格ならロボット1体が月五万円ほどになり、中国の人件費よりも安い。
 孫はロボットについて、人口減少と人件費の増加というふたつの大きな問題を解決するという。さらに工業用ロボットだけではなく、家庭や小売サービス業などの場には、これからはサービスロボットが普及する。

 パーソナルコンピュータが今ではなくてはならないように、今度はパーソナルロボットの時代が来ると孫は予測する。そしてソフトバンクではロボット「Pepper」の発売を開始した。もともと2月発売予定だったが、同月からは社外のソフト開発者向け販売を優先した。一般消費者向けは、生産が追いつく6月か8月に発売される予定である。
 あまりに好評な予約状況に、ソフトバンクは1月時点で次のように話している。「当面はペッパーに搭載するアプリ開発者向けの販売に限定する。開発者向けだけで数多くの予約をいただき、これだけで発売前から当分のあいだ売り切れの状況だ。アプリ(応用ソフト)が多くそろうことが消費者に楽しんでもらうことにつながると思う」
 全国でたくさんのソフトの開発会社がペッパーの先行発売を受けて、アプリの開発を大急ぎで進めている。たとえばの一例だが、介護事業者向けコンサルティング、静岡市のインフィック㈱は、ペッパーとジャンケンのできるアプリを開発した。介護施設で入所者がペッパーとジャンケンをしたり、昼食メニューを紹介されたりする。また高齢者の徘徊を防いだり、認知症の予防につながるアプリも同社では開発中だ。
<2015年3月6日 南浦邦仁>

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ロボットが世界を変える (1)

2015-03-03 | Weblog
好評のeマガジン「LAPIZ」(ラピス)春号が刊行されました。「Amazon」「DL MARKET」「雑誌ONLINE」で購読できます。良記事満載で頒価はわずか300円。
 今回も寄稿しました。タイトルは「ロボットが世界を変える」。マガジンでは全文一括掲載ですが、ここでは5分割連載します。ご笑覧くださればうれしいです。


「トマ・ピケティが予言するロボット社会」

 日本では国民の4人にひとりが、65歳以上の高齢者になってしまった。一方、若者や子どもの数は減り続けている。遠くない将来、町を歩く人の半分ほどが老人になってしまうという。というか高齢者の多くはむやみに外出しない。だからどこに行っても老人も少なく閑散として、歩いている人はだいぶ減ってしまいそうである。日本が迎えた極端な人口減少は、戦争や疫病の大流行などが原因でなく、ごく平和な日常のなかで急激に進行している。経済的先進国が世界史上はじめて経験する特異な現象だそうだ。わたしたちはどのような問題をこれから経験するのだろうか。また解決する方法はあるのだろうか。

 ところで、いまいちばん著名な経済学者は、フランスのトマ・ピケティ氏であろう。著書『21世紀の資本』が世界的ベストセラーになっている。2013年9月のフランス語初版、昨年4月の英語版以降、飛躍的に売り上げを伸ばし発行部数はすでに150万部に達している。日本語版刊行は昨年12月だが、わずか3月足らずで15万部が発売された。この本は本格的な経済学書であり、本文約700ページ、税別価格5500円、重量はおよそ1キロほどもある。
 ピケティは1月29日から4日間、日本を訪れた。超多忙なスケジュールのなか、たくさんのインタビューに応じたが、日本経済新聞には次のように語った。
 日本経済への助言として「日本では人口成長が、インフレを創り出すことよりはるかに重要です。人口減を少しでも人口増に変えていくことが、日本の最優先課題です」
 また、記者の質問「IT化の進展で、機械が人間の労働に置き換わっている結果、資本の力が強まっているのではないか」に対して、「米アマゾン・ドット・コムが無人飛行機(ドローン)を発表したが、極端なケースはロボットが人間にとって代わる世界だろう。ひょっとすると、2030年はロボット社会になっているかもしれない」
 アマゾンの無人ヘリコプターは荷物を運ぶロボット機である。運転手の不足という切実な問題を解決する方策である。グーグルなどが開発している無人運転自動車とともに、早期の実用化が期待されている。
<2015年3月3日 南浦邦仁>

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