わ! かった陶芸 (明窓窯)

 作陶や技術的方法、疑問、質問など陶芸全般 
 特に電動轆轤技法、各種装飾方法、釉薬などについてお話します。

現代陶芸141(里中英人2)

2012-06-15 21:43:55 | 現代陶芸と工芸家達

② 里中英人氏の陶芸

  ) 「透明な密室」: 窯の中の状態を、偶然性に寄らずに、自分の意思の通りにコントロールする事を

     里中氏は透明化と呼んでいます。

   a) 焼き物は、当然ですが窯で焼成する事により完成品になります。

     即ち、窯に入れてしまえば、後は窯任せ(貴方任せ)の状態になります。この事は他の絵画や彫刻

     書などの作品には見られません。窯の中でどの様な事が起こっているかは、見えない密室な

     状態とも言えます。その中では、酸化や還元焼成では、焼き上がりに差があり、更に窯変など

     思っても見ない状態で、窯出しする事も稀ではありません。この事が陶芸の魅力であると言う人も

     居るのも現実です。

  b) 里中氏は、制作のこの空白部分を、なるたけ排除したいと考えます。

     その為、温度を自由にコントロール出来、還元焼成の出来ない電気窯を選びます。

 ) 里中氏は次々に新たな作品を発表して行きます。

  a) 1975年 「シリーズ:ワイングラスの悪夢」(高 15 X 横 60 X 奥行 40cm)

     既製(市販されている)のワイングラスを陶土で作ったボックス(箱)に載せ、更に陶土で作った

     花を挿した作品を数個つくり、各々を温度差を付けて焼成した作品です。 

     温度差によって、ワインガラスの熔けと、倒れ具合、陶花の絡みつきに微妙な差ができます。

     ここでは、病める現代社会を表現しようとしています。

  b) 1976年「傷痕」: 鉄と土それに釉の三つを混ぜ合わせ、二重にした匣鉢(さや) の中に入れ、

     高温で完全に融合した後、徐冷中に余分な物質が表面に出て、「傷痕」の様な肌になります。

     これは、元総理の田中角栄が関係した「ロキード事件」が世間を騒がせている頃の作者

     (里中氏)の心情が傷ついた状態を表しているとされています。

  c) 1977年「シリーズ:妄想族(ぼうそうぞく)」: (高 15 X 横 40 X 奥行 120 cm)

     黒光りする陶板に若い女性を一人描き、その陶板上に一台のミニチュアカー(陶土では無く本物)

     が載っている作品です。暴走族をもじった題名になっています。

  d) 1979年「表層シリーズ:天中殺-十大恒星・十二命星」: (縦 30 X 横 20cm)

     表層、陶板、陶壁のシリーズは、火(焼成)を使用しない「アン・ファイア」と呼ばれる作品です。

     板や壁に柔らかい粘土を、平面に塗り込めます。やや厚めにします。そのまま放置して置くと

    土が乾燥収縮し、無数に亀裂が不定形に入ります。

    この作品は、この亀裂の形の美しさを鑑賞する物ではなく、土が呼吸をしている真実を表現して

    いると言われています。 1981年「陶壁・予兆空間」 (縦 2.4 X 横 12m)(文京大学図書館)、

   e) 1982年「陶板・シリーズ韻」: (縦 30 X 横 30 cm) 6個の組物

      軟らかい陶板上に、剣先で円や四角をややずらして二重書きした物や、鋭い刃物で凸状に

      切起し、対角線上に平行連続文様にした作品等です。この作品は無釉で焼成されています。

    f) その他、1985年の「黒の風景」、1987年の「シリーズ蝕:黒の風景」、 1988年の

       「陶板、予兆空間」、1989年の「予兆空間」、「僕の世紀末」と次々に作品を発表し、

       一貫して社会への提言を秘めた作品となっています。

  尚、朝日陶芸展審査員をしばしば勤め、陶芸を伝統工芸の枠から解き放ち、クレイワークという分野を

   確立する原動力となった作家の一人でした。

以下次回(坪井明日香)に続きます。

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