おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

豚と軍艦

2021-10-26 07:00:40 | 映画
「豚と軍艦」 1961年 日本


監督 今村昌平
出演 長門裕之 吉村実子 三島雅夫
   小沢昭一 丹波哲郎 山内明
   加藤武 殿山泰司 西村晃
   南田洋子 中原早苗

ストーリー
米海軍基地のある横須賀では、軍艦が入ると水兵相手のキャバレーが立ちならぶ町の中心地ドブ板通りは俄然活気を呈してくるのだが、そんな鼻息をよそに青息吐息の一群があった。
当局の取締りで根こそぎやられてしまったモグリ売春ハウスの連中、日森一家だ。
ゆきづまった日森一家は、豚肉の払底から大量の豚の飼育を考えついた。
ゆすり、たかり、押し売りからスト破りまでやってのけて金をつくり、彼らの“日米畜産協会”もメドがつき始めたところへ、流れやくざの春駒(加原武門)がタカリに来た。
応待に出た幹部格で胃病もちの鉄次(丹波哲郎)の目が光った。
たたき起されたチンピラの欣太(長門裕之)は春駒の死体を沖合まで捨てにいった。
彼は恋人の春子(吉村実子)と暮したい気持でいっぱいなのだ。
春子の家は、姉の弘美(中原早苗)のオンリー生活で左うちわだったが、彼女はこの町のみにくさを憎悪し、欣太には地道に生きようと言って喧嘩した。
ある日、鉄次が血を吐いて入院してしまったので日森一家の屋台骨はグラグラになった。
会計係の星野(大坂志郎)が有金をさらってドロンし、崎山(山内明)も残飯代を前金でしぼり取るとハワイに逃げてしまった。
欣太とはげしく口喧嘩をした春子は町にとび出し、酔った水兵になぶりものにされた。
日森一家は組長の日森(三島雅夫)と、軍治(小沢昭一)・大八(加藤武)とに分裂してしまった。
両者とも勝手に豚を売りとばそうと企み、軍治たちは夜にまぎれての運搬を欣太に命じた。
欣太は豚をつみこむ寸前に先まわりした日森らにつかまってしまった。
六分四分で手を打とうという日森だったが、欣太はもうだまされないと小型機関銃をぶっ放した。
ドブ板通りには何百頭という豚の大群があれ狂った。
誰もかも、豚の暴走にまきこまれ、踏みつぶされた・・・・。


寸評
戦後の闇市を思わせるような基地の街を舞台に最下層の人々が繰り広げる行動は喜劇である。
丹波哲郎が演じている人斬り鉄次と呼ばれている兄貴分は、胃を患っていて常に胃痛に悩まされている。
当人は胃癌ではないかと疑っていて、楽に死のうとするが死にきれないでいる。
電車に飛び込もうとするが恐怖で逃れてしまうし、それならと旧知の男に殺してくれと頼みに行くなど、とてもヤクザの幹部とは思えない姿を見せる。
ヤクザが豚肉が値が上がるからと養豚に精を出すのも可笑しい。
殺された春駒の処理に困って豚のエサにしてしまい、豚の丸焼きを食べている時に春駒の金歯が出てくる場面などはドタバタもいいところだ。

この町はアメリカに依存していて、女たちは米兵相手の売春行為で生きていて、ヤクザでさえも米軍に依存し、それを取り持ち利益を得ている者もいる。
ヤクザたちが扱う豚は米軍の排出する残飯で養われているのだ。
アメリカ異存は日本全体の縮図でもある。
金の為なら何でもやる彼らなのだが、仲間の中には金を持ち逃げする星野や、金を持ってハワイに逃げてしまう崎山のような男が出てくる。
二人は暴力団映画に出てくるように追われて命を狙われるようなことはない。
どんなことをしてでも先に金を得た者勝ちみたいだ。
1961年公開作品だから、経済復興を目指していた当時の風潮としてはこの様な気分が誰にでも少なからずあったのかもしれない。
欣太は最後に反乱を起こす。
やはり圧巻は欣太によって解き放たれた豚が大挙してヤクザ達に突進してくるシーンである。
「ブタ野郎」はダメ人間を卑下する時の呼称で、豚は下等な動物の象徴として扱われることが多い。
豚たちは、これまでの借りを返してやると言わんばかりに、ヤクザたちに襲い掛かり押しつぶしてしまう。
豚の攻撃は欣太と庶民の怒りの発散でもある。
胃癌と思い込んでもがき苦しんでいる鉄次は妻の勝代(南田洋子)に支えられて病院に連れ戻され、欣太は正当防衛の餌食となって息絶え、ヤクザたちは豚に押しつぶされる。
男たちは何とも惨めである。
それに反して、春子は男たちに蹂躙されながらも自分の足で歩んでいく。
米兵に強姦されたくらいで春子の意気は消沈しないし、かえって意気軒昂になって、ずぶとく生きてやろうという気持になっているのである。
いつの時代においても、最終的には女の方が生命力が強いのだと思う。

沖縄をはじめ米軍による日本の国土の一部占領という状況は今の日本に存在している。
軍事費を経済成長に回せたという事はあるとはいえ、いまだに戦勝国による国土の占領を許しているのは、どう考えても正常なこととは言えない。
その事に対する今村のブラックジョーク的な作品で、痛快ではないが愉快な作品だ。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
一番衰退しているのは (FUMIO SASHIDA)
2021-10-26 09:19:11
神奈川で一番衰退しているのは、横須賀です。米軍基地、関東自動車等がなくなり、経済的に一番衰退しているのが横須賀市です。
なにもしなかった小泉親子の責任です。

この映画の撮影は大変だったそうで、途中で予算がなくなり、丹波哲郎が保険会社から金を調達してきたので、途中で宣伝看板が見えます。

ラストの豚の暴走は大変で、豚は普通は走らないそうで、浦山桐郎らの助監督たちが縫いぐるみを被って中に入ったそうです。まあ傑作ですね。
返信する
気が付かなかった (館長)
2021-10-27 07:10:07
保険会社の宣伝看板には気が付きませんでした。
気が付いていたけれど記憶にないだけなのかもしれません。
再見の機会があれば注視します。
返信する

コメントを投稿