おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

溺れるナイフ

2022-04-16 09:22:38 | 映画
「溺れるナイフ」 2016年 日本


監督 山戸結希
出演 小松菜奈 菅田将暉 重岡大毅 上白石萌音
   志磨遼平 嶺豪一 伊藤歩夢 水澤紳吾
   堀内正美 ミッキー・カーチス

ストーリー
東京で人気のティーン雑誌「プラム」でモデルをしていた美少女・望月夏芽(小松菜奈)は、ある日突然父の故郷である浮雲町に引っ越すことになる。
東京から離れた田舎町には刺激がなく、自分が欲する「何か」から遠ざかってしまったと落ち込む夏芽だった.。
だが、その土地一帯を取り仕切る神主一族の末裔で跡取りである長谷川航一朗=コウ(菅田将暉)と出会い、強烈に惹かれてゆく。
意地悪で気まぐれでエキセントリックなコウに反発しつつも、彼の発光するような神々しさに心を奪われ、やがて夏芽はてコウを“わたしの神さん”だと思うようになる。
コウは先祖代々その土地を守る「月ノ明り神社」の神主長谷川家の跡取り息子。
「この町のモンは、全部俺の好きにしてええんじゃ」といい、勝手に授業を抜けたり、「神様がいる」立ち入り禁止の海に入ったりと、その行動は気まぐれで傍若無人。
人生に退屈していたが、田舎では類を見ない夏芽の美しさに自分と同種の力を感じ惹かれていく。
次第に気持ちを通わせていく夏芽とコウ。
「一緒にいれば無敵!」とさえ思っていた夏芽とコウだったが、火祭りの夜にある悲劇が起こり、二人の心は離れてしまう。
孤独な彼女を救ったのはムードメーカー的存在で、真面目で心優しい同級生の大友勝利(重岡大毅)だった。
心を閉ざした夏芽を心配してそっと寄り添ううちに、いつしか想いを寄せていく。
彼の優しさに癒されながらも、コウに急接近する幼馴染の松永カナ(上白石萌音)に心を乱され、夏芽は行き場を失ってゆく。
そんなある日、夏芽にモデル復帰のチャンスが訪れる……。


寸評
早い話が青春恋愛映画なのだが、俗に言う学園青春ものとはまったく次元が異なる作品である。
閉塞的な田舎町を舞台に、他人とは違う何かになろうともがきながら生きる夏芽とコウの恋愛ドラマがこの映画の大きな柱となっている。
それだけだとよくある青春ドラマと何ら変わらないのだが、舞台が世界遺産に登録されている和歌山の熊野とあっては、それだけで作品自体が独特の雰囲気を持ってくる。
熊野は神が宿る特別な場所だ。
その場所で夏芽とコウの恋は神話へと昇華していくような趣を醸し出す。

いわゆる青春ものとしての評価を試みるなら、リアルな恋愛映画として見ると物足りないが、ファンタジーとして見ると輝きが増している作品だ。
映像的にもそのような雰囲気を出すシーンをいくつも挿入している。
美しいまでの海の景色だったり、海中での二人をとらえたショットや、神秘の森の中などが神の存在を感じさせる。
二人が最初に出会った入江は神様が住むという立ち入り禁止の場所で、コウ自身もまるで神であるかのような発言をする。
コウは「海も、山も、こいつも全部俺の好きにしてええんじゃ」と叫ぶが、それは地域を支配する家の跡取りのドラ息子が発する傲慢な言葉と言うだけではなく、神の支配を意味していたと思う。
その意味ではコウは神の化身であり、火祭りは神がコウに降臨してきたような感じにも見える。

青春ドラマから浮いたような夏芽とコウの恋から、青春ドラマに引き戻しているのが大友勝利の存在で、演じた重岡大毅が以外なほど好演している。
秘かにコウを思っているらしいカナの上白石萌音もアクセントをもたらす存在だ。
大友が夏芽に寄せる思いはピュアである。
必死に夏芽を励ます姿がいじらしくて、これこそ青春ドラマだと思わせる。
真っ赤なツバキを吸う姿や、バッティングセンターで夏芽を励ます様子が微笑ましい。
ツバキの赤を足のマニュキュアで示し、夏芽の心の動きを表現するなどは映画的で好感が持てる。

再び描かれる火祭りの夜の衝撃的な出来事。
この話を大人の世界で描いていたら、土着の宗教性を帯びたどろどろとしたものになったのだろうが、最初の事件などは中学生だからやはり土着の宗教から発せられるドロドロしたものを描くには限界があったように思う。
反面、神話的な要素も取り込みながら、少女の恋愛と成長を描いたファンタジー作品として見た場合は結構まとまっていると思える作品だ。
不思議な感覚を持って終わりたいところだったが、ラストシーンはそれを壊していたと思う。
僕としては残念に感じた。


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