おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

醜聞(スキャンダル)

2022-09-20 07:00:09 | 映画
「す」は2019/8/22からの「スウィングガールズ」「スケアクロウ」「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」「スタンド・バイ・ミー」「スティング」「ストリート・オブ・ファイヤー」「スピード」「スペース カウボーイ」「スラムドッグ$ミリオネア」「砂の女」 と
2021/4/14からの「スイミング・プール」「スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの復讐」「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」「スタア誕生」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「砂の器」「スポットライト 世紀のスクープ」「スラップ・ショット」「スワロウテイル」で紹介しています。 バックナンバーからご覧ください。

「醜聞(スキャンダル)」 1950年 日本


監督 黒澤明
出演 三船敏郎 山口淑子 桂木洋子 千石規子 小沢栄 志村喬
   日守新一 三井弘次 岡村文子 清水将夫 北林谷栄 高堂国典
   上田吉二郎 縣秀介 左卜全 殿山泰司

ストーリー
新進画家青江一郎(三船敏郎)は、ある日愛用のオートバイを飛ばして伊豆の山々を写生に出掛けた。
やがて派手な格好をした人気歌手西條美也子(山口淑子)が山を登って来た。
バスが故障で歩いて来たが宿屋までが大変だと嘆くので、オートバイの相乗りで二人は宿屋まで素ッ飛ばした。
風呂に入った美也子の部屋に青江が挨拶に来る。
二人は庭に面した手すりにもたれて話を始めた。
その時、カメラマンがこれを見つけて、パチリとシャッターを切って逃げてしまった。
現像を見た社長の堀(小沢栄太郎)は編集長に命じて、青江と美也子のラブロマンスをでっち上げさせた。
恋はオートバイに乗って!煽情的見出しでこの雑誌は飛ぶように売れた。
一万部刷り、堀は図に乗って大々的宣伝をやり出した。
青江一郎は仰天し、憤怒の形相物凄くアムール社に乗り込み、堀の顔に青江の拳固が一発飛んだ。
この事は雑誌の売れ行きを更に増した。
青江は遂に訴訟問題にしようと定め、ちょうど、ひどくはやらない弁護士蛭田乙吉(志村喬)がわざわざ一肌ぬいでやろうと現れたので、彼に弁護を頼んだ。
彼の一人娘の正子(桂木洋子)は胸を病んで長らく寝たままであった。
堀は蛭田に手を廻して自分の有利に裁判を導こうと札ビラを切って彼の丸め込みに成功した。
二回、三回と公判は進み青江の立場はいよいよ微妙な所に追い詰められていった。
そんな時、正子が遂に不帰の客となったのである。
最終の公判に臨む蛭田の面上には今迄とまるで違う気魄が感じられた。


寸評
今で言うところのパパラッチ裁判の顛末映画だが、あっけない結末で盛り上がりにはかける。
ユーモアを交えた作品のせいもあるが、東宝争議の真っ只中で黒澤が松竹で撮らざるを得なかったことで、どうも黒澤と松竹の歯車が合わなかったのではと思わせるような中身になっていて、僕はこの作品をあまり評価しない。
黒澤明と菊島隆三が脚本を書いているが、テーマや事件の背景が面白いのにどうも脚本が練れていない。
主役になるのは三船なのか、それとも志村なのかはっきりしない。
主役の三船を志村が食ってしまっているような印象なのだが、演技力によるものとかではなく、特に前半ではシリアスなテーマの中で軽妙な演技をする志村が目立ってしまっている。
終盤では法廷での弁護シーンがリアリティに欠けいて、法廷劇としての緊迫した雰囲気が全くと言っていいほど出ていない。
裁判所で西條美也子が発言する場面は一度もなかった。
蛭田弁護士の娘が青江の勝利を信じて死亡し、その姿に打たれた蛭田が改心するシーンは見せ場だと思うのだが、青江のアトリエに突然現れた蛭田が「正子は死にました」と一言発しただけでは物足りない。
青江は蛭田の娘正子を天使だと言っているのだが、画面から感じる正子の天使性も物足りなかったなあ。

スキャンダルになった二人はアーティストとアイドルによる恋愛沙汰として週刊誌ネタにされたわけだが、実のところ好き合っているような雰囲気だ。
特に西條美也子が母親と言い合うシーンでの彼女の表情からは青江に対する好意が見て取れる。
それだったら、そのまんま付き合っちゃえよと言いたくなる。
当時としては珍しかったであろうオートバイの疾走を度々写しているので、時代を先取りする形で自由に恋愛に突っ走ったらどうだとも思ってしまう。
しかしまあ、テーマは若いふたりの恋愛ではないのだから、それは出来ないよな。

ところで西條美也子をやった山口淑子だが、僕は彼女の映画を他に見た記憶がない。
しかし李香蘭という中国名も持っていた時期が有り、最後は参議院議員も努めた女性で、その数奇な人生に興味が沸いてしまう。
中国生まれの日本人で、完璧に中国語を話せたので最初は日本のプロパガンダ映画に出演していたとのこと。
中国人のふりして満州映画に出て、中国人のふりして日本映画に出て、中国人のふりして中国映画に出て、戦後は日本人として日本映画とアメリカ映画と香港映画に出たという。
日中戦争が起きると日本人からは敵国の中国人だと迫害され、戦争が終わると中国からは中国人のくせに敵国日本のプロパガンダ映画に出たと処刑されそうになった為、今度は日本人であることを証明しなければならなくなった悲劇の女性だ。
僕にとっては、そのような女優を垣間見ることが出来る貴重な作品ではある。

青江が「われわれは今日、星が誕生するのをはじめて見た」と言って、最終的には本来の職務に対して忠実になった弁護士を美化する内容で終えているが、志村喬にとっては「生きる」の予行演習になったかもしれない。
いつもはスレた役が多い千石規子だが、本作では青江を理解するモデルのいい役割をもらっていて光っていた。


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