おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

キャロル

2022-06-05 07:07:44 | 映画
「キャロル」 2015年 ギリス / アメリカ / フランス


監督 トッド・ヘインズ
出演 ケイト・ブランシェット
   ルーニー・マーラ
   サラ・ポールソン
   ジェイク・レイシー
   カイル・チャンドラー
   ジョン・マガロ

ストーリー
1952年、クリスマス目前の活気あふれるニューヨーク。
フォトグラファーという夢を持ちマンハッタンに出て来たテレーズ(ルーニー・マーラ)は、高級百貨店のおもちゃ売り場でクリスマスシーズンの臨時アルバイトをしている。
そんなある日、テレーズの前に、娘へのクリスマスプレゼントに人形を探しているゴージャスな毛皮のコートを着た女性キャロル(ケイト・ブランシェット)が現れる。
エレガントで洗練された美しさを持ち、裕福そうなのにどこかミステリアスな雰囲気を醸す彼女に、テレーズはたちまち心を奪われる。
送り先伝票からキャロルの住所を知ったテレーズがダメ元でクリスマスカードを書くと、すぐにキャロルから連絡が届く。
二人は会うようになり、キャロルは離婚訴訟真っ最中の人妻で、娘の親権を巡って泥沼の争いをしていることを知る。
婚約者からの求婚のプレッシャーや、これからのキャリアに対する不安からストレスを感じているテレーズは、クリスマス休暇に別居中の夫ハージ(カイル・チャンドラー)に娘を取られて孤独なキャロルから車での小旅行に誘われる。
テレーズは生まれて初めて本物の恋をしていると実感し、キャロルとの愛の逃避行に出発するが、この旅がきっかけで二人の運命が思いがけない方向に向かうとは、まだどちらも気づいていなかった…。


寸評
アイゼンハワーの大統領就任とかが会話の中で出てくるのでその時代の話なのだと分かるのだが、クラシックでエレガントな衣装に始まり、きめ細やかな美術セットなどで時代色豊かな世界を醸し出していて、その映像は観客である僕を落ち着かせてくれた。
これは紛れもなく上質な恋愛映画である。
設定された年代では同性愛は病気とみなされていた背景が、今となってはその感情をより高貴なものと感じさせた。
キャロルには夫ハージとの間に出来た愛娘がいて溺愛している。
夫との仲は冷え切っているが、それはキャロルの同性愛嗜好によるものではなく夫の無理解から来ている。
キャロルは娘の名付け親でもあるアビーという女性とも親しくしているが、夫は彼女との仲も同性愛で結びついていると思っている。
かつてはそのような関係であったあったかもしれないが、アビーは今ではキャロルを理解してくれる唯一の人として存在している。
僕はこのアビーの存在が物語を深遠なものにしていたように思う。
これが中年の男と若い女性、あるいは中年女性と若い男性の不倫映画なら今までもよくあった話で珍しくもない。
しかしこれは女性が女性に恋する内容で、ともすると興味本位な作品に陥りそうなのだが、主演のケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの落ち着いた演技が高度な芸術映画に昇華させていた。
恋人との恋愛に違和感を感じ、自分の将来を模索する若い女性テレーズ。
お飾りの妻であることを強要する周囲に耐えられない人妻キャロル。
二人の境遇はまったく異なるが、あふれる思いは抑えられない。それが恋愛だ。
キャロルは娘のために自分を殺して夫を交えた家族との食事会に同席するが、その形式ばった雰囲気と自分に対する評価に耐えることが出来ない。
これだけ価値観の違う者同士が一緒にいられるわけがないことは、観客である我々には理解できるが夫側の当事者たちにはわからない。
その苦悩を理解してくれるのがアビーでありテレーズなのだ。
キャロルはテレーズを守ろうとするのと同様にアビーもキャロルを守ろうとする。
同性愛であり不倫でもある二人の恋愛に不快感を感じない。
それは二人の愛が利己的なものでなく、愛に誠実で、自分が大切にする人間関係を守り抜こうとしているからだ。
ワイドショーを賑わす色恋沙汰のゴシップを見飽きている僕には、とても新鮮で崇高な恋愛に思えた。
それが不倫という形の上にあったとしてもだ。
僕は心底同性愛を理解しているとは言い難いが、それでもこの作品を見ると男女間ではない中にも清い恋愛はあるものだと思わされる。
「心に従って生きなければ人生は無意味よ」というキャロルの言葉に励まされるし、これこそ映画だと思わせてくれる雰囲気のある作品だ。
ラストで冒頭のレストランシーンに移っていく手際の良さに感心し、余韻を沸き立たせたラストシーンにゾクリときた。
ルーニー・マーラのまなざしも良かったけれど、ケイト・ブランシェットは貫禄あるわあ~。
ラストの微笑に底知れぬ迫力を感じた。
恋愛映画の秀作である。


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