おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

山の郵便配達

2020-05-30 11:05:15 | 映画
「山の郵便配達」 1999年 中国


監督 フォ・ジェンチイ
出演 トン・ルージュン
   リィウ・イェ
   リィウ・イエ
   ジャオ・シイウリ
   ゴォン・イエハン
   チェン・ハオ

ストーリー
1980年代初期の、湖南省西部の山岳地域。
長年、責任と誇りを胸に郵便配達をしてきた男にも引退の時が近づいていた。
ある日、男はその仕事を息子に引き継がせるため、息子とともに自らの最後の仕事へと出発する。
それは一度の配達に2泊3日を要する過酷な道のり。
父にとっては最後の、息子にとっては最初の郵便配達だ。
重い郵便袋を背に、愛犬を連れ、険しい山道を辿り、いくつもの村を訪ねる。
父は多くを語らず、黙々と仕事をこなす中で、道筋や集配の手順、そしてこの仕事の責任の重さと誇りを息子に伝えていく。
息子は父と村民たちの深い交流を目の当たりにし、トン族の結婚式の祝宴にも加わる。
息子はお母さんがいつも故郷を恋しがっていたから山の娘とは結婚しないという。
お母さんは山の娘でケガをしたのをお父さんが助けて結ばれたのだという。
父に対して少なからずわだかまりを抱えていた息子も、人々の信頼を集める父の姿に接し、徐々に尊敬の念と仕事への責任感を深めていく。


寸評
郵便配達の仕事をしている父親が、一人っ子政策の為なのか一人息子と、次男坊と名付けた犬と共に山道を歩いて郵便配達を行う物語で、息子にとっては父の仕事を引き継いだ初仕事である。
山道を分け入って山村を目指すある種のロードムービーだが、目に飛び込んでくる自然の景色が美しい。
山々や田んぼの緑に心も洗われるが、登場してくる人々の表情や流れるメロディは一服の清涼剤である。
大きな水車、谷あいに飛んでいく紙飛行機など枚挙にいとまがないほどで、うっとりとしてしまうシーンに出会うことができる静かな映画だ。
両親の出会いと結婚、父が仕事の為に家に居なかった頃のことが、回想するように会話のない映像として挿入され、それが息子が父を理解していくこととシンクロしていく。
息子は父親を「父さん」と呼んだことがなかったが、この旅を通じて初めて「父さん」と呼ぶようになる。
この旅に同行しているのが次男坊と名付けられたシェパードで、この犬がまたいい役目を請け負っている。
この犬を主人公にしてもいいぐらいな存在で、なかなか仕込まれた演技を行っていて微笑ましい。

中国政府による道徳教育をされている印象もあるが、事件らしい事件も起こらない中で美しい山娘との出会いが詩情豊かに描かれて感動的だ。
祭りで踊る若い二人の姿が目に焼き付く。
二人に恋が芽生えるのかと思わせておきながら、山娘は山が一番よく似合うと結ばれぬ恋を暗示している。
この娘が行うラジオにお椀をかぶせてステレオ効果を出すシーンに感心した。
そう言えば日本でも白黒テレビしかなかった時代に、フィルターのついたパネルをテレビ画面の前に取り付けるとカラー画面らしきものになり納得していたことがあった。

息子はバス道があるからバスを使えばいいと言うし、ヘリがあっても山道を歩いて郵便配達をするのかと疑問を呈するが、父親は昔気質の性格のためか自分の足だけを信じている。
郵便局長も母親もこの仕事が過酷な仕事であることを分かっている。
しかし誰かがやらねばならない仕事として、父親は信頼できる息子に引継ぎを決意している。
息子は父親と村人たちの交流を見ながら、父親の仕事を引き継ぐことを決意する。
この映画は山の郵便配達を詩情豊かに描いた作品であるが、同時に父と息子による親子回復の物語でもある。
息子は父親を川で背負い、郵便配達の袋よりも軽いことを実感する。
息子はかつては父親に肩車をしてもらっていたことを回想する。
いつかはやって来る世代交代だが、息子にとっても父親にとっても淋しいことだ。
父親は現役を引退する淋しさも抱えている。
行く先々で息子を紹介し、次からは息子がやって来ることを伝える。
村の少年が次に来た時にはインタビューするからと言っても、自分はもう次は来ないとつぶやく。
父親のような仕事人間だった者にとって、現役を退くことは辛いことなんだろうな。
一人で仕事に向かう息子を見送る父親の姿は胸に迫るものがある。
何かしら懐かしいもの感じる作品で、中国映画にはこのような良心的な作品をよく見かける。
しかし、そのどれもが非常に寂れた田舎を舞台としているのは国情によるものか?



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