おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ふがいない僕は空を見た

2020-02-27 09:19:03 | 映画
「ふがいない僕は空を見た」 2012年 日本


監督 タナダユキ
出演 永山絢斗 田畑智子 窪田正孝
   小篠恵奈 田中美晴 三浦貴大
   梶原阿貴 吉田羊  藤原よしこ
   山中崇  銀粉蝶  原田美枝子

ストーリー
高校生の斉藤卓巳(永山絢斗)は、助産院を営む母子家庭のひとり息子。
卓巳はアニメのイベントで、あんずと名乗るアニメ好きの主婦・岡本里美(田畑智子)にナンパされる。
里美は卓巳を自宅に招き、大好きなアニメキャラクターのコスプレをさせて情事に至る。
だがある日、卓巳は同級生の松永七菜(田中美晴)に告白され、里美との関係を断つことを決心する……。
里美は、元いじめられっこ同士で結婚した夫・慶一郎(山中崇)と二人暮らし。
子作りを求める姑・マチコ(銀粉蝶)からは不妊治療や体外受精を強要され、マザコンの夫は頼りにならない。
里美は卓巳との関係を夫と姑に知られてしまい、土下座して離婚を懇願するが受け入れられず、代理母を捜すためにアメリカに行くことが決定する……。
卓巳の親友・福田良太(窪田正孝)は、団地での極貧の生活に耐えながらコンビニでバイト中。
店長の有坂(山本浩司)からは“団地の住民たち”と蔑まれ、共に暮らしている痴呆症の祖母は辺りを徘徊、新しい男と暮らしている母親には消費者金融の督促が後を絶たない。
だがバイト先の先輩で元予備校教師の田岡良文(三浦貴大)が「団地から脱する武器を準備しろ」と勉強を教えてくれるようになるが、彼もまた心の闇を抱えていた……。
福田と同じ団地に住むあくつ純子(小篠恵奈)は、アニメ好きの姉が見つけたという写真のプリントアウトを七菜に見せるが、それはコスプレして里美がセックスしている卓巳の写真だった。
学校でも瞬く間に写真が出回り、卓巳は家に引きこもってしまう。
卓巳の家庭訪問にきた担任の野村(藤原よしこ)を見て、卓巳の母・寿美子(原田美枝子)はお腹に子供がいることを見抜く。


寸評
登場人物すべてが欠陥だらけで、それぞれに問題を抱えてもがき苦しんでいる。
やっかいなものや、どうしようもないものを抱えた登場人物たちを、ふがいないと感じて憐れみの目で見ていたが、
やがて彼らや彼女たちを愛おしく感じるようになる。
誰だって迷ったり失敗しながら生きている、しかし生きていれば何とかなると思わされる。
それでも何んともならない事もあるのが世の中の実情だが、映画の世界では何とかなると思えないといけない。
最後に子供の誕生を描いて希望を感じさせるのは当然とはいえ良かったし、卓巳の最後の言葉もいいね。
そう、これは「性」から「生」へと繋がる、漢字があってはじめて説明がつく日本の映画だった。

冒頭で高校生の卓巳と主婦の里美とのコスプレ・セックスが描かれる。
この時点では、「なんじゃ、これは?」というもので、田畑智子の脱ぎっぷりに目が行っているだけ。
ところが田畑の主婦里美は不妊治療に苦しんでいて、孫欲しさ一辺倒の義母からプレッシャーをかけられているのだが、その義母を送っていく長回しによる道行のシーンがいい。
義母は友達の子供と孫の話を一歩的に話しているが、やがてその矛先が聡美に向かっていく展開が見事。
義母の家は資産家らしいが、その行動と言葉は全く身勝手なもので、不妊治療に苦しんでいる女性が見たら殴てやりたい気持ちになるのではないかと思う。
夫婦はお互いにイジメにあっていた経験が有り、ダンナからは「いじめられっ子のDNAをもつ子供なんて」と言われ、味気ない生活の不満は現実逃避として里美をコスプレの世界に逃げ込ませている。
高校生の卓巳を金で買うようなところもあるが、彼女のふと見せる憂いのある表情が心情を想像させ素晴らしい。
そのシーンの多さから、脱ぎっぷりに目がいってしまう田畑だが中々どうして、この作品を支える演技を見せた。

後半のメインになる卓巳の友人である福田も悲惨な状況で、複雑な心の内を見せつける。
彼の極貧生活をサポートするように卓巳の母親は弁当を差し入れするが、福田はそれを施しを受けていると感じて、口では「ありがとう」と言いながら、口もつけずに捨ててしまうその精神は相当屈折している。
屈折した精神のはけ口が、彼が同級生のバイト仲間の女性と取る行動に凝縮されている。
一方では卓巳をかばうような行動を取っているにも関わらずである。
一方では拒絶、一方では親友という二面性は異常とも思えるが、なぜかリアリティを感じた。
福田はひもじい思いに耐え切れず、ついには卓巳の母親の弁当にむしゃぶりついてしまう。
人間とは実に情けない生き物だと思うが、この福田のエピソードは切なかったなあ・・・。
卓巳の母は助産院を営んでいる産婆さんである。(かつてはどの村にもいたが、今ではとんと見かけなくなった)
自然分娩の施設だが、異常があれば病院を頼らねばならず、そのときは妊婦の夫から責められ、病院からも嫌味を言われてしまう。
彼女も問題を抱えているが、しかしこの母親は助産院という「生」に関わる仕事をやっていることもあり、その存在は希望そのものである。
福田を助けるバイトの先輩田岡が、自分でもわかっていながら、自分ではどうすることもできない闇を背負っていただけに、この母親の存在に救われる。
高校生とは思えない永山絢斗は気になったが、原田美枝子はここでもその存在感を見せていたのはサスガ。


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