おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

さよならくちびる

2022-07-28 08:15:32 | 映画
「さよならくちびる」 2019年 日本


監督 塩田明彦
出演 小松菜奈 門脇麦 成田凌 篠山輝信
   松本まりか 新谷ゆづみ 日高麻鈴
   青柳尊哉 松浦祐也 篠原ゆき子

ストーリー
2018年7月14日。ツアー車の助手席に座ったハル(門脇麦)は、先に後部座席にいたレオ(小松菜奈)が食事をしているのを見て、ローディー兼マネージャーのシマ(成田凌)に、「バカ女に車内は食事禁止だと言え」と言う。
「バカで何が悪い」が口癖のレオも、車内禁煙のはずなのにタバコを吸い始めたハルをとがめる。
デュオ〈ハルレオ〉の全国7都市を回るツアーの出発の朝は荒れ気味に始まった。
レオはガソリンスタンドでトイレに入ったついでに、見ず知らずの男の自動車に乗り込んでしまった。
浜松のライブハウスにレオがやっと到着するが、男と喧嘩して目にあざをつけていた。
しばらくして、何ごともなかったかのようにハルレオはステージに上がり、アコースティックギターを弾きながら歌い、シマもステージ上で二人をサポートする。
四日市へ向けて出発した車の中、ライブ前にレオから押しつけられた封筒をハルは開けると、ビーズを糸で結んだブレスレットが入っていた。
7月14日はハルが初めてレオに声をかけた日だった。
それからハルはレオにギターの弾き方を教え、二人は食事や寝起きを共にするようになった。
ある日、なぜ私に声をかけたのと尋ねるレオに、ハルは、歌いたそうな目をしていたからと答え、〈ハルレオ〉は路上で歌い始める。
人気が出始め、ライブツアーに出ることにしたハルレオは、ローディーを探す。
ハルは元ホストというふれこみのシマを面接し採用した。
ただしユニット内の恋愛は厳禁とハルは言い渡す。
レオは「目指せ武道館」と、ハルは「いつまでもハルレオが続くように」とそれぞれの夢を叫んだ。
だが、今やハルとレオは口もきかない関係になっていた。
四日市でのライブの後シマは彼がかつてバンドに所属していたことを初めて明かす。
シマはライブハウスのトイレで男たちに、殴るけるの暴力を受けたが、襲った男は、かつてシマがいたバンドのライバルで、彼の彼女とシマが寝てしまったことが原因だった。
森の中でシマはレオに、ハルの父親の法事に付き合わされた時の話をする。
ハルの母親からNASAで研究しているハルの幼馴染の女性から届いたハガキを見せられた。
その幼馴染がハルの初恋の相手だった。
レオはシマに「ハルレオが解散したらハルと活動するのか」と聞く。
レオは自分の居場所がないように感じていた。
そしてシマがハルを好きなのをレオは知っていた。
解散は公表していなかったが、ハルレオ解散必至という情報が、どこかのライブハウスから流されたのに違いない。
ライブはいっそう盛り上がり、自主製作のCDもどんどん売れていった。
解散後の計画を話す三人だが、食事の最中にシマに昔の音楽仲間が死んだという知らせが届いた。
シマが葬儀に出るために、ハルが函館までツアー車を運転することになる。
7月24日。函館のライブ会場。ハルが最後のライブだからと言うので、レオは外でファンたちにサインをする。
ハルの腕には浜松でレオが贈った腕輪がはめられていた。
開演時間頃にシマがやっと到着する。
死んだ親友は子供に「音楽はするな」と言っていたが、シマは自分は音楽をして後悔をしたことはないと言いきる。
ライブが始まり、最後の曲の前にハルは、自分たちはこの曲を手放すと言って、ハルレオの解散を明らかにする。
ハルレオと共に、自分たちの曲は消えるのか、それとも新しい生を得るのか。


寸評
音楽映画と言えば、グループの結成や成長などが描かれることが多いのだが、この作品はグループの解散を控えた時間にスポットを当てている珍しい映画である。
ハルレオはギターデュオでハル役を門脇麦、レオ役を小松菜奈が演じている。
二人は数ヶ月にわたり基礎からギターを学び、歌もギターも吹き替えなしなのだが、なんのなんの二人がライブハウスで行う演奏も唄う歌声もたまらなくいい。
そこいらの歌い手が足元にも及ばないようなデュエットを聞かせてくれる。
解散ツアーという設定で、初めから二人の険悪なムードで映画が始まるのだが、ステージに立つとそれまでの険悪ムードが何だったのかと思われるくらい見事なハーモニーを披露するハルとレオなのである。
激しい演出やはっきりと自分の気持ちを伝えるセリフは少なく、ストーリーはシマを交えて淡々と進んでいく。
カリスマ性のある歌で周囲を惹き付けるレオだが、ハルの才能の前では自分の居場所がないと感じていて、そのはけ口を見ず知らずの男に求めてしまう。
相手は暴力をふるうような男ばかりで、顔にアザを作ることも度々である。
お互いを非難し合うが激しいものではない。
しかし、その静けさこそが二人の人間関係を如実に表している。
ツアーの移動中はシマを通してでしか話そうとしないのに、ステージで歌い出せば息がぴったりと合う二人の関係がミュージシャンを感じさせる。
現実に音楽的な対立からメンバーが抜けたり、あるいは解散するグループがあるから、二人が見せる姿はそうなんだろうなと思わせる。
想いが伝わらないもどかしさやすれ違いに悩むのは青春時代にはあることだ。
打ち込んできたもの、務めてきたものが終わりを迎えるとしても、それまで得た楽しさや充実感や絆がすべて失われるわけではない。
一緒にやってきた仲間だが、もうこの唇からこの歌を発することはないだろうと「さよならくちびる」を解散ソングとして唄うが、予想した通り最後に三人は今を後悔しないぞという決意と、青春はまだまだ続くぞという姿を見せる。
シマの嬉しそうな姿を見ると応援したくなるラストシーンであった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿