おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

海よりもまだ深く

2019-01-28 09:15:33 | 映画
「海よりもまだ深く」 2016年 日本


監督 是枝裕和
出演 阿部寛 真木よう子 小林聡美
   リリー・フランキー 池松壮亮
   吉澤太陽 中村ゆり 高橋和也
   小澤征悦 峯村リエ 松岡依都美
   古舘寛治 橋爪功  樹木希林

ストーリー
母・淑子(樹木希林)は苦労させられた夫を突然の病で亡くしてからは、団地で気楽な独り暮らしをしている。
15年前に文学賞を一度獲ったきりで売れない自称作家となっている長男の良多(阿部寛)は小説のリサーチと称して今は山辺(リリー・フランキー)の興信所に勤めて生計を立てている。
出版社からは漫画の原作をやらないかと勧められてはいたが、純文学作家のプライドから二の足を踏んでいたのだった。
そのくせギャンブルには目がなく、少し稼ぎがあればそこにつぎ込むばかりでいつも金欠状態であり、母親の淑子や姉の千奈津(小林聡美)に金をせびる毎日を送っていた。
当然のように妻の響子(真木よう子)には愛想を尽かされ、一人息子の真悟(吉澤太陽)を連れて家を出て行かれてしまった。
響子は離婚して久しく、月に一度、一人息子の真吾と会わせることと引き換えに養育費5万円を求めるほかは、一緒に食事することすら拒んでいた。
だがそんな良多にも父親としての意地があり、真吾に会う時、養育費は用意できなくても金を都合してプレゼントは用意していた。
良多は11歳の息子・真悟の養育費も満足に払えないくせに未練たらたらで、探偵の技術で同僚の健斗(池松壮亮)と響子を張り込みし、彼女に新しい恋人ができたことを知ってショックを受ける。
淑子の懐を当てにしているのは姉の千奈津も同様。
ある日、たまたま良多と響子と真悟が母・淑子の家に集まる。
やがて真悟を迎えに響子もやって来るが、折からの台風で3人とも足止めを食らう。
こうして図らずも一つ屋根の下で、一晩を過ごすハメになる“元家族”だったが…。

寸評
出来の悪い子ほどかわいいと聞くが、実際世間の親子を見ているとそれは誠だと思うことがよくある。
親にとっては可愛いとは心配と同義語で、行く末の定まらない子供のことは気がかりになってしまうものだと思う。
特にお腹を痛めた母親にとっては尚更で、子供に対する愛情は母親が圧倒していると思われる。
海よりも深いと称されるのが母の愛情で、ここでは三人の母親が登場する。
一人は貧しいながらも娘にバレエを習わせる良多の姉千奈津、一人は息子の真吾を抱える良多の元妻響子、そしてもう一人は良多の母淑子である。

良多は母親の懐を当てにしているが、姉の千奈津も娘の夢のために母親に泣きついている。
ちゃっかりと良多の先を越して金をせしめているのだが、母親の年金を当てにしてでも我が子に夢を託すのも親の性なのかもしれず、はたしてそれが愛情と言えるのかわからないが、母としての愛の表現の一つなのだろう。
響子は新しい恋人が出来て再婚を考えているようだが、気になるのは息子の真吾のことだ。
真吾は父親である良多が一番だし、祖母である淑子にもなついている。
通常だと離婚が成立すれば夫の実家になど寄り付かないものだと思うが、響子はやむを得ぬという態度をとりながらも淑子の団地に出入りしている。

良多はなけなしの金で精一杯のサービスを真吾に行うが、真吾は父親のそんな行為が嬉しい。
同僚の健斗が「父親からもらったものが捨てられない」と良多に語ることで、真吾の気持ちを代弁させている。
そんな真吾の気持ちを感じて、響子は自分の幸せ求める姿と子供を思う母の姿を見せて悩む。
比べれば父親は情けなくて、過去の栄光にすがっているだけだ。
大したことはないのだが、家族の前では自分はスゴイのだと粋がっている父親サラリーマンの姿がダブル。
呑んだくれではないが、一攫千金を夢見るギャンブル依存症ときてはどうしようもない。
それでも母親は、この子は才能が有ったのだ、やれば出来るのだとかばってしまう。
才能もたかだか知れたものである事、やらないことも分かっているのにである。

すっかりおばあちゃんとなってしまった淑子は、押し付けでない愛情を二人の子供に注ぐ。
淑子は人生は単純なのだと言いながら、非常に自然体で生きているように見える。
すっかり大人となった二人の子供と交わす会話が楽しい。
誰もが思い当たるふしがあるような、ごくごく普通の会話で往年の小津映画を思わせる。
台風は人生に吹き荒れる出来事の象徴だ。
子供には台風の日に滑り台の下で過ごした記憶は鮮明なものになるだろう。
そこに響子もやってきて家族の再生を感じさせるが、なかなかそうはならない。
あるのは宝くじの様なちょっとした夢である。
真吾は父親に買ってもらったスパイクが宝物で手放せない。
良多は亡き父の愛情を知って、高額の値が付いた硯を手放すことを諦める。

良多たち元家族は又の再会を約束するが、お互いに振り返ることはしない。
台風のせいで折れて壊れてしまった傘が3本見えて彼等の過去を象徴しながら、良多も響子も未来に向かって歩いていくようにも見えるラストシーンだが、3か月間滞った養育費の15万円を良多が持ってくるとは思えず、わずかな不安を残しながら家族を見守る是枝の視線は暖かかった。
近所のどこかの家庭の姿を切り取ったような平凡な世界を、上手い脚本で映画の世界に昇華させていた。



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