「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

「バレンタインまでにすべき10の事 ~吉祥寺ラバーズ~」(2)

2013年02月05日 | アホな自分
1月上旬の土曜日の午後11時半頃、嶋田マミ(26)は、会社の同僚で、仲のいい友人の多岐川ミサト(26)と、水島ミウ(26)と、

社員寮として借り上げられている自分たちのマンションの近所の神社に来ていた。

吉祥寺は井の頭公園の近くにある清徳神社だった。

「でもさ、1月7日に初詣って、成立するのかしら?」

と、活発なスポーツウーマンでもあるミサトが話す。

「そうね。まあ、まだ、松の内だから、許されるんじゃないかしら・・・」

と、やわらかなお姉さまタイプのミウが言う。

「なんとなく、今年も誰も誘えなくて・・・今日になっちゃったのよね・・・」

と、マミは、自信なさそうに、そんな風に話す。

「いいじゃない、私達二人がついているんだから・・・何事も3人でやってきたじゃない・・・」

と、ミサトは、スポーツウーマンらしく、さばさば話している。

「いつもごめんね・・・なんとなく、二人におんぶに抱っこだし・・・」

と、マミは自信なげに話す。

「いいの・・・マミは、そういう妹キャラなところが、私達を癒してくれるんだから・・・」

と、やさしいお姉さんキャラのミウが話している。


3人はそんなことを話しながら、清徳神社の境内に向かっていた、


と、本堂の方から急いで走ってきた、ひとりの青年が、3人の前でバランスを崩して、思い切り転んでしまった。

3人は、驚きながらも、その青年を見る。

その青年は、3人の若い女性の前で転んだのが、めちゃくちゃ恥ずかしかったのか、すぐに態勢を立て直し、

恥ずかしさで真っ赤になりながら、一心不乱に走り去っていった。


と、そこに赤い財布が落ちていた。


いつもはのんびりしているマミなのに、この時だけは、すぐに駆け寄り、その財布の中身を調べた。

あの男性の情報を示すモノがないか見つけようとしたのだった。

だが、財布の中には、彼を特定出来るような情報は、何もなかった。


「マミ・・・さすが財布には目がないか」

と、ミサトが笑うが、

「違うわ・・・ミサト。マミは、あれよ」

と、ミウが指摘する。

マミは、その男性が駆け去った方を見ながら、わかりやすく、不安そうな笑顔になっていた。

「ああ・・・例の惚れっぽいマミちゃん発動ね」

と、ミサトが言うと、ミウと2人笑顔になっていた。


「でも・・・あれが誰か、わからない・・・」

と、マミがつぶやいている。

「わたし、彼、誰だか知っているわ」

と、ミウが笑顔でつぶやく。

「え?彼が誰だか知ってるの、ミウ」

と、ミサトが驚いたような表情で言う。

「あの彼・・・私の記憶が確かなら・・・音和町の角の花屋さんのはずよ」

と、物知りのミウが指摘する。

「すぐ行ってみよっか?」

と、マミは急ごうとするが・・・。

「待って、とりあえず、お参り済ましちゃいましょう。マミは彼とうまく行くことを、神様にお願いすれば?」

と、ミウがテキパキ感を感じさせながら、そんな風にアドバイス。

「そうね。それが合理的ね」

と、ミサト。

「うん、わかった」

と、笑顔になりながら、マミもそれに従った。


3人はお参りを済ませ、恋愛成就の御札まで買ったマミを先頭に、そこからそれほど遠くない音和町に向かった。


マミはドキドキしていた。

久しぶりに本物の恋の予感がしていた。

ただ、マミは恋が苦手だった。

これまでも、いろいろな恋をマミはしてきたが・・・うまくいかない方が多かった。

「わたし、恋愛苦手だからな・・・」

と、赤いメガネをずり上げながら、少し寸胴な身体をゆっくりふりながら、マミは歩いている。


「マミさー・・・どうする?その財布渡しながら、「好きです!」って告白しちゃったら」

と言うのは、恋愛攻撃力の高い、サバサバしているスポーツウーマン・ミサトだった。

「それは早計じゃない?やっぱり、様子見ないと・・・彼に恋人いるかもしれないし・・・」

と大人な意見を言うのは、ミウだった。

「うん・・・わたし、ミサトみたいに美人じゃないし・・・ミウみたいに大人じゃないから・・・少し様子見てみる・・・」

と、マミは、赤いメガネをずり上げながら、そう言った。

「そっか。それもそうね・・・いきなり突っ込んで行ったら、結果が、すぐわかっちゃうし・・・少し楽しむのも、恋よねー」

と、ミサトは笑顔で明るく言っている。

「そうそう。それが大人の手練手管にも、なるんだから・・・まずは、彼の左の薬指を確認しましょ。それが恋愛の最初の一歩」

と、ミウは大人な表情で大人な意見を言ってくれる。


その音和町の花屋が見えてくる。

店には、女性がひとり・・・エプロン姿で働いているのが見える。

例の男性は、いない・・・。


「どうする?財布をあの女性に渡しちゃったら、あの男性か、確認出来ないし」

と、ミサト。

「うん・・・少し様子を見ましょうよ。横にカフェがあるじゃない・・・あそこで、少し待ってみましょうよ。あの男性が帰るのを」

と、ミウ。

「う、うん。わかった」

と、言葉少なに、マミ。


カフェ「アルカンシェル」は、ちょっと小粋なカフェといった感じで、南仏ニースに実在するカフェがモデルになっていた。

「いらっしゃい」

と、細身で身長170センチくらいの小柄なマスターが、豊かな顎髭に柔和な笑顔で挨拶してくれる。

店には、ツール・ド・フランス関連の小物がいっぱい飾ってあった。

「ふーん、ツール・ド・フランス押しの店か・・・」

と、サイクリストでもあるミサトは、一発で店の本質を見抜いていた。

「へー、じゃあ、あのマスターも、ミサトと同じサイクリストってことかしら」

と、大人なミウはミサトに聞いている。

「ま、100%そうじゃない。体格も細身だし・・・クライマータイプね、彼・・・」

と、ミサトは同じ趣味の人間に、好意を抱いたようだ。

そんな会話を交わす二人をよそに、マミは、窓から外を見ていた。


マミの恋の相手はなかなか帰ってこなかった。


「ご注文は何に致しますか?美しいお嬢さん方」

と、マスターは笑顔で注文を取りに来てくれた。

「えーと、グレープフルーツ・ジュースを」

と、ミサト。

「わたし、ウィンナ・コーヒーで」

と、ミウ。

「えーと・・・バナナジュースを」

と、甘いもの好きなマミは言った。

「マスターは、サイクリストですよね?わたしも、サイクリストなんです!」

と、ミサトが質問すると、

「おー、君もサイクリストか・・・この店はサイクリスト御用達の店でね。走行会なんかもやってるから・・・もし、良かったら、一度参加してくれると、うれしいな」

と、満面の笑みで、マスターは答えてくれた。

「俺、飯島ジュウゴ(33)っていうんだ。よろしくね」

と、マスターは笑顔で、ミサトと握手した。

ミサトも、こういうシーンは慣れている。サイクリスト同士、普通のシーンだった。

ジュウゴは、笑顔で戻って行き・・・ミサトも笑顔だった。

「ミサトは、こういう時に度胸満点よね・・・」

と、ミウ。

「え?だって、サイクリスト同士・・・あれくらい普通よ」

と、ミサト。

「ミサトは・・・美人だから、モテるし・・・だから、度胸満点なのよ・・・」

と、マミが少し妬きながら、言葉にする。

「わたしなんか、その点・・・コンプレックスの固まりだわー」

と、少しうつむくマミ。

「そんなことないって・・・マミも魅力的じゃない・・・」

と、ミサト。

「そうよ・・・マミは十分魅力的なんだから・・・自分に自信を持ったら、いいの」

と、ミウも言ってくれる。

と、そこへ、

「帰ってきた!」

と、花屋の気配を気にしていたマミは、即座に立つ。

「よし・・・そうね。ここは、マミひとりで財布を渡して来る方が、得策じゃない?」

と、ミウが言う。

「ひとりで財布を渡しに行けば、それだけマミが印象づけられる・・・そういうこと?」

と、ミサトが確認している。

「そういうこと・・・だから、マミ、まず、自己紹介をしっかりして、相手の男性の左手の薬指を確認して・・・それから、あの女性との関係性も探るのよ。いいわね」

と、ミウがマミに言っている。

「うん、わかった・・・じゃあ、行ってくる」

と、マミは店を飛び出して行く。

「マスターまた戻ってきますから・・・バナナジュース、出しておいてください!」

と、マミはマスターに言い訳してから、店を出て行った。

「あ、はいよ・・・ふむ・・・」

と、マスターは、他の2人を確認してから、カウンターに戻っていく。


花屋「華可憐」に、マミが行くと、先ほどの男性がエプロンを付けて立ち働いていた。

身長は175センチくらいで、細身な身体で黒く精悍な感じで日焼けしていた。

笑顔のやさしい感じで、青いデニムがよく似合っていた。

「あのー」

マミは、その男性のやさしい笑顔に吸い込まれるように、言葉を出していた。

「いらっしゃい・・・何をご用意しましょうか」

と、精悍な笑顔のその男は、マミを客と勘違いしていた。

「あのー、わたし、さっき、あなたが神社の境内で転ぶのを見ていた者なんですけど・・・」

と、マミは必死で、自己紹介をしている。

「え?あの時にいた子・・・うわあ、恥ずかしいところを見られたなあ・・・」

と、頭を手で掻きながら、無邪気に笑う、その男性は、ほんとうに暖かい笑顔をマミに見せた。


その笑顔を見た瞬間、マミは、また、恋に落ちた。


「あ、あの・・・あの・・・」

と、マミは心臓がバクバクして、制御不能になりかけていた。

赤いメガネをずり上げながら、マミは必死で、言葉を出そうとする。

恋の炎が燃え上がり、マミはドキドキして、臨界に達しようとしていた。


「あ、財布・・・財布です。あなたの赤い財布を見つけて、それで・・・」


と、マミは、バックにいれていた赤い財布をその男に見せると・・・。


「あ、それ俺の・・・あ、確かに、ポッケにないや・・・俺、落としていたんだ・・・」


と、その男は自分のポッケを調べ、自分が財布を落としていた事実に気づく。


「いやあ、ありがとう・・・君が届けてくれなかったら・・・どこで落としたかも、わからなかったよー」


と、その男は満面の笑みになり、


「まあ、ちょっとそこに座って、コーヒーでもごちそうするから」


と、言うと、一緒に働いている女性に、そのことを手短に説明し、店を出て行った。


マミは女性に案内され、店の奥にある喫茶スペースに通された。

2つ程、木のテーブルがあり、軽い飲食が出来るようになっていた。


「わざわざ、弟の財布を届けてくれたんですって?・・・ほんとに、ありがとうございます」


と、その女性は言った。


「弟・・・そのー、シンイチは、何事もそそっかしくって・・・よーく失敗ばかりするんで・・・まあ、私も早く身を固めろなんて言うんですけどねー」


と、その女性は言った。


「あのー・・・そのシンイチさんは・・・独り身なんですか?」


と、マミは聞く。


「えー・・・独り身って言っても、一度結婚はしているんですよ。若い頃に・・・でも、それ私の実の妹だったんですけど、交通事故で亡くしまして。それで独りなんです」


と、その女性は言った。


「それ以来、彼女も作りたくないって・・・わたしとしては、早く結婚して欲しいんですけど、そこだけは、頑なで・・・」


と、その女性は言った。


「じゃあ、あなたは・・・」


とマミが言うと、


「シンイチの義理の姉、森田ユキ(31)です。死んだ妹の代わりに手伝っていて・・・シンイチが結婚したら、私も引退出来るんですけどね」


と、ユキは言った。

と、そこへ、道明寺シンイチ(33)が、隣のカフェで作ってもらった、コーヒー3つと、イチゴのショートケーキを3つ持ってくる。


「うわあ」


とイチゴのショートケーキが大好物なマミは感激して口に出してしまう。


「隣のカフェのショートケーキとコーヒーは絶品でね。こいつは、僕が都内で食べた中じゃあ、絶品中の絶品なんだ」


と、シンイチは、嬉しそうにしながら、マミとユキに奨めてから、自分もショートケーキを頬張る。嬉しそうな笑顔だ。


「ほんと、美味しいですー」


と感激したマミは、思わず口に出す。


「だろ?いやあ、隣のカフェが絶品なスィーツを提供してくれて、俺も満足しているんだけどねー」


と、やさしく笑うシンイチだった。


マキはその素直な笑顔のシンイチに、もう一度恋に落ちた。


つづく

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