「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

僕がサイクリストになった、いくつかの理由(19)

2012年08月31日 | アホな自分
僕は、鈴木タケル(26)・・・僕は八津菱電機華厳寮で、会社で同期の、田島ガオ(27)、沢村イズミ(23)と、同じ203号室で暮らしていた。

そんな、とある土曜日、僕は寮で朝を迎えていた。

「おはよう」

部屋を見回すとガオの姿はすでになく、横でイズミがなんとなくタバコを吸っていた。

「ああ、おはよう・・・ガオは?」

と、僕が聞くと、

「例のサーフィンだよ。今日もいい天気になりそうだからな・・・ウェットスーツを抱えてうれしそうに出ていったよ」

と、静かに言うイズミ。

「そうか・・・ガオもやると言ったらすぐにやる行動派だからな・・・」

と、僕は言う。

「パパは昨日、結構飲んでたな・・・何かあった?」

と、イズミは鋭く聞いてくる。

「うん・・・ああ、何かあったような、なかったような・・・」

と、僕は言う。

「ふーん・・・あ、俺、女出来たから」

と、しれっと言うイズミ・・・。

「え?もう、出来たの・・・相手は?」

と、僕が少し驚きながら聞くと、

「合コンやってさ。その相手・・・コンパニオンだってさ・・・自動車ショーとかも出ているらしい・・・」

と、タバコを吸いながらしれっと言うイズミ。

「イケメンはいいねえ・・・すぐに恋人が見つかって・・・で、美人なんだろ?」

と、僕が聞くと、

「当たり前さ・・・」

と、笑うイズミ・・・。

「彼女の身長は、168センチ・・・確かパパ、背の高いスラリとした女性が好きなんだよな?エイコさんもそうだったし・・・」

と、イズミは言う。

「その通り・・・俺のドストライク・ゾーンだ」

と、僕が言うと、

「そんな女だよ。今度の彼女は・・・」

と、しれっと言うイズミ。

「そういえば、ガオも気になる女がいるとか、いないとか、言ってなかったか、昨日・・・」

と、僕は言う。

「そうだね・・・パパもなにかあるらしいし・・・203号室も、また、ゴールデンルームに復帰か?」

と、イズミは笑う。

「腹へった・・・飯行くか?」

と、僕が言うと、イズミも立ち上がる。


土曜日の朝、のんびりとした空気が寮の食堂に漂っていた。

「お、パパ、イズミ、おはよう」

隣の204号室のりっちゃんが、ジャージ姿で入ってくる。

りっちゃんは、自分の分のプレートをとると、隣に座ってくる。

「イズミ、今日暇だったら、俺をアルファロメオに乗せてくれない?前に約束してたじゃん、いつか乗せてくれるって!」

と、りっちゃんはノリノリだ。

「あ、ごめん、俺、今日はおんなとデートだ」

と、けんもほろろなイズミ。

「え?イズミ、もう、おんな出来たの?」

と、驚く、りっちゃん。

「うん。合コンやって、それで」

と、イズミは無表情でパクパクとサラダを食べている。

「なんか、背が高い美人らしいぜ。相手は、コンパニオンガールだって」

と、僕がニヤニヤしながら言うと、

「えーーー、神様はイケメンだけにやさしいのか!・・・俺、週末暇なんだよなー」

と、嘆くりっちゃん・・・。

「あー、りっちゃん、悪いけど、俺も、今日は用事があるから・・・ガオは朝からサーフィンだし、暇つぶしなら、204号室のメンバーとやってね」

と、僕が言うと、

「パパもおんな絡みらしいよ」

と、横から、しれっと言うイズミ。

「え?パパもかよ・・・203って、皆、この間、女と別れたばっかりじゃなかったの?」

と、りっちゃんは軽く嘆く。

「そういえば、ガオも、おんながどうとか、言ってたなー」

と、僕が言うと、

「うっ・・・203は手強すぎる・・・」

と、卒倒しそうになるりっちゃん。

「時は待ってくれない・・・そういうこと」

と、しれっと言うイズミは、

「わりぃ、先行くわ・・・おんなとの約束の時間、けっこう早くてさ」

と、席を立つ。

「俺も、ちょっと用事・・・」

と、僕も席を立つ。

「え、あ、おお・・・皆、おんなが出来ると・・・いいなあ、俺も忙しくなってみたい」

と、ひとり取り残されて、りっちゃんは、そう、つぶやくだけだった。


僕は以前買ったMTBもどきの自転車で鎌倉の由比ヶ浜に来ていた。

途中で地図を買い込み、北鎌倉の駅前を通り、建長寺の坂を登り、鶴ヶ岡八幡宮の前を通り、そこから南に一直線、由比ヶ浜に出たのだった。

「ふう・・・まあ、40分余りで、ここまで来れるんだなあ。寮から」

と、僕は自転車で、この鎌倉という古い街を走ってみたかったのだ。


風が吹いている。気持ちのいい海風だ。


「しかし、この場所は、むちゃくちゃ気持ちがいいなあ・・・自転車で走るって、こんなに気持ちのいいものなのか・・・」

と、僕は新しい感覚に素直に喜んだ。

「由比ヶ浜まで40分・・・これは、いい気分転換になるぞ・・・車で走るより、何十倍も気持ちいいじゃないか!」

と、僕は新しいおもちゃを見つけた子供のように、はしゃいでいた。

「いや、はしゃいでばかりいても始まらない・・・僕は昨日のアイリさんの行動の理由を考えに来たんじゃないか・・・どうしてアイリさんは、あんな行動をとったのだ?」

と、僕は、女性心理に疎い僕は、一生懸命考えていた。

「彼女は、僕を弟と思って接してくれていたはずだ・・・それが何故・・・僕は唇にキスされた・・・」

そのキスシーンが頭の中をぐるぐる回る。

そして、その後に彼女が見せた、しみとおるような、うれしそうな笑顔・・・。

でも、彼女はダッシュして、その場から消えた・・・。


「すべてに意味があるはずだ・・・だが、俺にはそのメッセージを読み解く能力はない・・・」


僕は、初夏の太陽が降り注ぐ由比ヶ浜から海を見ながら、考えに考えた・・・長い時間・・・。

しかし、結論はただひとつだった。

「だめだ、俺にはわからん。今度、イズミと飲む時に読み解いてもらおう・・・」

「東京の姉としてのアイリさんなら、わかるが・・・昨日のアイリさんの行動は、まったく理解不能だ・・・」

僕は携帯電話を手渡されたニホンザルのように、混乱して頭を抱えた。

「いや、もういい・・・考えていては、頭がおかしくなる・・・走ろう、この湘南を!」

僕は倒してあった自転車に飛び乗ると、134号線を西に向かった。

「江ノ島まで、行って何か昼飯食べよう・・・いや、途中に旨そうな場所があるかもしれないし・・・よし、女性を連れてきた時の為に、店を探そう・・・」


僕の頭には、長身のアイリさんのスラリとした白いワンピース姿がちらついていた。


「彼女が、僕を好きだとしたら・・・俺がアイリさんを、自分の彼女に・・・??!」

その話を考えだすと僕はさらに混乱した。

「いや、その話は、イズミに・・・今は、アイリさんだったら、どんな店を喜ぶかを考えて・・・いや、それを考えると、俺、混乱しちゃうし・・・」

と、僕は自転車で134号線を走りながら、胸をドキドキさせていた。

「アイリさん・・・あなたのおかげで、僕の胸は・・・ドキドキなんですよー!」

僕は、そうつぶやきながら、初夏の湘南を駆け抜けていた。


つづく

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