世界遺産の登録目指す「彦根城」ユネスコ諮問機関 課題も指摘 NHK 2024年10月9日 18時00分
江戸時代の統治の仕組みを象徴する存在だとして世界文化遺産の登録を目指す滋賀県にある「彦根城」についてユネスコの諮問機関が事前評価を行い、文化庁に通知しました。世界遺産の評価基準を満たす可能性はあることを示唆する一方、大名による統治の仕組みを十分に表現できるのかなど課題も指摘されました。
事前評価 “世界遺産の評価基準を満たす可能性はある”
「彦根城」は、大名の御殿など政治の拠点施設としての建物が数多く残されるとともに城郭が長く維持され、江戸時代の統治の仕組みを象徴する存在だとして、滋賀県と彦根市が世界文化遺産の登録を目指しています。
政府は、日本からの推薦を決める前にユネスコの諮問機関が助言する「事前評価」に申請していて、9日、文化庁に通知された評価結果が公表されました。
それによりますと、構成要素は明確で、豊富な歴史資料に基づいてよく説明されているとして、世界遺産の評価基準を満たす可能性はあることを示唆すると評価されました。
課題も指摘 “「シリアル推薦」検討すべき”
一方で、「彦根城」単独の城郭で大名による統治の仕組みを十分に表現できるのかなど課題を挙げ、登録を目指す場合、重要性をより示す必要があると指摘されました。
そのうえで、地理的に離れた複数の関連物件をひとまとめにして推薦する「シリアル推薦」の可能性も検討すべきだとしています。
国内での「シリアル推薦」としては、2021年に世界文化遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」などがあります。
今後、評価結果を受けた滋賀県や彦根市の対応を踏まえ、文化庁の審議会が世界文化遺産に推薦するかどうか判断することになります。
文化庁は「地元自治体と相談しながら指摘部分について対応を検討していきたい」としています。
今後の手続きは? Q&Aで詳しく解説
事前評価が公表された彦根城。
世界文化遺産登録に向けて今後、どのような手順を踏んでいくのでしょうか。
文化庁の担当記者が解説します。
(社会部・齋藤怜)
Q.そもそも世界文化遺産にはどのように登録されるの?
A. まず、ユネスコに推薦されるための国内の候補に選ばれる必要があります。
各国が推薦できる候補は毎年一つと定められていて、政府が提出した推薦書をもとに、まず、ユネスコの諮問機関であるイコモスが世界文化遺産への登録がふさわしいかを評価します。
そして、このイコモスの評価などを踏まえて、最終的にユネスコの世界遺産委員会で登録の可否が決定されます。
Q.今回の「事前評価」ってなに?
A.去年から導入された新しい制度です。
実は近年、世界遺産の登録をめぐってイコモスとユネスコの世界遺産委員会の評価が異なるケースが相次ぎ、問題視されていました。
イコモスの勧告は最も高い評価の「記載」、「情報照会」、「記載延期」、「不記載」の4段階で出されます。
世界遺産への登録がふさわしいことを勧告する「記載」以外の3つについては、本来は、判断の先送りや世界遺産への登録がふさわしくないことを意味する勧告ですが、最近は、こうした勧告が出された候補でもその年の世界遺産委員会で登録が決まるケースが相次ぎ、イコモスによる学術的な審査に基づいた勧告が覆される事態が起きているのです。
こうしたことから、各国が国内候補として推薦書を出す前にイコモスとやりとりを重ねて、世界遺産としての普遍的価値を十分にしようとするねらいで「事前評価」制度が導入されました。
この制度を活用するとイコモスと事前に意見交換できるほか、専門家から助言などを受けられるメリットがあります。
Q.今回の事前評価で提案された「シリアル推薦」ってなに?
A.地理的に離れている複数の関連物件をひとまとめにして推薦する方法です。
滋賀県や彦根市は「彦根城」単独での登録を目指しています。
一方で、イコモスは、「彦根城」について評価しつつも、「彦根城」単独で大名による統治システムを完全に表現できているかという課題も指摘しています。
そこで、単独での推薦に加えて、この「シリアル推薦」も考えるべきだと提案しているのです。
「シリアル推薦」で登録された国内の世界文化遺産としては、2021年の北海道と青森県、岩手県、それに秋田県に点在する「北海道・北東北の縄文遺跡群」があります。
また、2019年に登録された大阪府にある「百舌鳥・古市古墳群」、
2015年に登録された福岡県や長崎県など8つの県の資産で構成される「明治日本の産業革命遺産」なども「シリアル推薦」の例に挙げられます。
Q.彦根城の登録に向けての今後の流れは?
A.今回の結果をもとに、地元の滋賀県や彦根市はイコモスから指摘された部分についてどう対応していくか検討し、文化庁の審議会、世界文化遺産部会に報告します。
そして、世界文化遺産部会でさらなる検討が行われたうえで、来年9月末までに国内の推薦候補とするかどうか決定し、決まった場合は暫定の推薦書をユネスコに提出します。
提出された推薦書をもとにイコモスが審査を行い、3年後の2027年の夏ごろに評価結果を勧告します。
最終的にそのおよそ1か月後にユネスコの世界遺産委員会が開催され、イコモスの勧告内容も踏まえて世界遺産の登録の可否が決まることになります。
Q.このほかに日本から目指している世界文化遺産の登録は?
A.日本からユネスコに推薦書が出されているのは、奈良県明日香村などの飛鳥時代の遺跡「飛鳥・藤原の宮都」です。
「飛鳥・藤原の宮都」は、今後、イコモスによる審査を経て、早ければ2年後、2026年の世界遺産委員会で世界文化遺産として登録されるかどうかが決まります。
江戸時代の統治の仕組みを象徴する存在だとして世界文化遺産の登録を目指す滋賀県にある「彦根城」についてユネスコの諮問機関が事前評価を行い、文化庁に通知しました。世界遺産の評価基準を満たす可能性はあることを示唆する一方、大名による統治の仕組みを十分に表現できるのかなど課題も指摘されました。
事前評価 “世界遺産の評価基準を満たす可能性はある”
「彦根城」は、大名の御殿など政治の拠点施設としての建物が数多く残されるとともに城郭が長く維持され、江戸時代の統治の仕組みを象徴する存在だとして、滋賀県と彦根市が世界文化遺産の登録を目指しています。
政府は、日本からの推薦を決める前にユネスコの諮問機関が助言する「事前評価」に申請していて、9日、文化庁に通知された評価結果が公表されました。
それによりますと、構成要素は明確で、豊富な歴史資料に基づいてよく説明されているとして、世界遺産の評価基準を満たす可能性はあることを示唆すると評価されました。
課題も指摘 “「シリアル推薦」検討すべき”
一方で、「彦根城」単独の城郭で大名による統治の仕組みを十分に表現できるのかなど課題を挙げ、登録を目指す場合、重要性をより示す必要があると指摘されました。
そのうえで、地理的に離れた複数の関連物件をひとまとめにして推薦する「シリアル推薦」の可能性も検討すべきだとしています。
国内での「シリアル推薦」としては、2021年に世界文化遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」などがあります。
今後、評価結果を受けた滋賀県や彦根市の対応を踏まえ、文化庁の審議会が世界文化遺産に推薦するかどうか判断することになります。
文化庁は「地元自治体と相談しながら指摘部分について対応を検討していきたい」としています。
今後の手続きは? Q&Aで詳しく解説
事前評価が公表された彦根城。
世界文化遺産登録に向けて今後、どのような手順を踏んでいくのでしょうか。
文化庁の担当記者が解説します。
(社会部・齋藤怜)
Q.そもそも世界文化遺産にはどのように登録されるの?
A. まず、ユネスコに推薦されるための国内の候補に選ばれる必要があります。
各国が推薦できる候補は毎年一つと定められていて、政府が提出した推薦書をもとに、まず、ユネスコの諮問機関であるイコモスが世界文化遺産への登録がふさわしいかを評価します。
そして、このイコモスの評価などを踏まえて、最終的にユネスコの世界遺産委員会で登録の可否が決定されます。
Q.今回の「事前評価」ってなに?
A.去年から導入された新しい制度です。
実は近年、世界遺産の登録をめぐってイコモスとユネスコの世界遺産委員会の評価が異なるケースが相次ぎ、問題視されていました。
イコモスの勧告は最も高い評価の「記載」、「情報照会」、「記載延期」、「不記載」の4段階で出されます。
世界遺産への登録がふさわしいことを勧告する「記載」以外の3つについては、本来は、判断の先送りや世界遺産への登録がふさわしくないことを意味する勧告ですが、最近は、こうした勧告が出された候補でもその年の世界遺産委員会で登録が決まるケースが相次ぎ、イコモスによる学術的な審査に基づいた勧告が覆される事態が起きているのです。
こうしたことから、各国が国内候補として推薦書を出す前にイコモスとやりとりを重ねて、世界遺産としての普遍的価値を十分にしようとするねらいで「事前評価」制度が導入されました。
この制度を活用するとイコモスと事前に意見交換できるほか、専門家から助言などを受けられるメリットがあります。
Q.今回の事前評価で提案された「シリアル推薦」ってなに?
A.地理的に離れている複数の関連物件をひとまとめにして推薦する方法です。
滋賀県や彦根市は「彦根城」単独での登録を目指しています。
一方で、イコモスは、「彦根城」について評価しつつも、「彦根城」単独で大名による統治システムを完全に表現できているかという課題も指摘しています。
そこで、単独での推薦に加えて、この「シリアル推薦」も考えるべきだと提案しているのです。
「シリアル推薦」で登録された国内の世界文化遺産としては、2021年の北海道と青森県、岩手県、それに秋田県に点在する「北海道・北東北の縄文遺跡群」があります。
また、2019年に登録された大阪府にある「百舌鳥・古市古墳群」、
2015年に登録された福岡県や長崎県など8つの県の資産で構成される「明治日本の産業革命遺産」なども「シリアル推薦」の例に挙げられます。
Q.彦根城の登録に向けての今後の流れは?
A.今回の結果をもとに、地元の滋賀県や彦根市はイコモスから指摘された部分についてどう対応していくか検討し、文化庁の審議会、世界文化遺産部会に報告します。
そして、世界文化遺産部会でさらなる検討が行われたうえで、来年9月末までに国内の推薦候補とするかどうか決定し、決まった場合は暫定の推薦書をユネスコに提出します。
提出された推薦書をもとにイコモスが審査を行い、3年後の2027年の夏ごろに評価結果を勧告します。
最終的にそのおよそ1か月後にユネスコの世界遺産委員会が開催され、イコモスの勧告内容も踏まえて世界遺産の登録の可否が決まることになります。
Q.このほかに日本から目指している世界文化遺産の登録は?
A.日本からユネスコに推薦書が出されているのは、奈良県明日香村などの飛鳥時代の遺跡「飛鳥・藤原の宮都」です。
「飛鳥・藤原の宮都」は、今後、イコモスによる審査を経て、早ければ2年後、2026年の世界遺産委員会で世界文化遺産として登録されるかどうかが決まります。