
“真実を知りたい” 相次ぐ告発 身近な医療で何が? NHK 2025年4月24日 14時10分
「娘の遺骨はそのまま、ここにまだ一緒にいる。今はまだ受け入れられる状態にない」
去年1月、大学3年生だった娘の杏海(あみ)さんを突然失った両親のことばです。
今井杏海さんは当時、発熱や強い喉の痛みを訴え大学病院に入院していましたが、医療事故で命を落としました。
“娘の身にいったい何が起きたのか?”
病院からは「制度に基づき調査を進める」と説明を受けましたが、1年以上がたった今も、調査が始まったという連絡はないと言います。
取材を進めると医療事故を調査する制度の課題が見えてきました。
相次ぐ告発の裏で起きている見過ごせない実態に迫り、必要な対策を考えます。
(クローズアップ現代 取材班)
元気だった娘が突然…
当時大学3年生でサークルの友達と過ごすのが大好きだったという今井杏海(あみ)さん(20)。
2023年の年末から、発熱や喉の痛みなど風邪のような症状が続き、年明けにはクリニックをいくつも受診しましたが改善せず、大学病院を紹介されました。
▼2024年1月6日 日本大学医学部附属板橋病院に入院
診断名は『伝染性単核球症』(たんかくきゅうしょう)。
通常は2~3週間で自然に軽快する感染症とされていますが、ごくまれに深刻な合併症を引き起こすことがあります。
検査をしながら点滴治療などで経過を診ることになりました。
▼1月13日 退院日
入院から1週間がたった退院の日の朝。
熱が39度まで上昇したというメッセージが母親に届きました。
母親は退院の延長を希望しましたが「他に入院の必要な患者がいる」と説明され、かなわなかったといいます。
入院中の杏海さん 家族へのメッセージ
杏海さんの母 今井弘子さん
「本当に大丈夫なんですか?って(医師に)言ったんですよ。そしたら『はい』のひと言。絶対大丈夫なんですか?と言っても『はい』しか返事しなくて」
▼1月13日~16日 退院後 症状が悪化
自宅に戻ると杏海さんは、発熱に加え “これまで感じたことのない”激しい胃の痛み・おう吐などの症状に襲われ、大学病院にも連絡しましたがすぐには受け入れてもらえませんでした。
▼1月17日 再入院
退院から4日目を迎えた17日の午前3時半ごろ。
杏海さんが「苦しい、苦しい」と両親に訴えました。
全身の痛みから一人でトイレにも行けず、うずくまる状態だったといいます。
両親は大学病院に救急要請し、再入院することになりましたが、
すでに重篤な状態でした。
「娘さんは非常に危険な状態です」
ICUへ向かうとき母親が「頑張ってね」と声をかけると、
杏海さんは手を振ってくれました。
▼2024年1月30日
再入院から10日余り治療が続けられましたが病状は改善せず、
杏海さんは多臓器不全で亡くなりました。
両親にとって、全く想像もしていなかった最期でした。
母 弘子さん
「私の宝物が一瞬にして。本当にどうしてこんなことになったのか、どうしてどうしてって毎日毎日なぜなぜなぜって。こんな大好きで自分の命よりも大事な大好きな娘を失うことになるなんて」
杏海さん 成人式の時の写真
杏海さんが亡くなった原因について病院は【医療事故調査制度】に基づき、調査を進めると説明しました。
この制度では【予期せぬ死亡事例】が起きた場合、過失の有無にかかわらず医療機関が自ら原因を調査することが義務づけられています。
結果が出れば、遺族に説明し第三者機関に報告します。
しかし、病院から調査を始めたという連絡はないといいます。
両親は去年10月、進捗(しんちょく)状況を知らせてほしいと文書で求めましたがまだ回答はありません。
制度上、遺族に対して調査の進捗を伝える義務はなく病院の裁量に任せられています。
私たちの取材に対して
日本大学医学部附属板橋病院は
「遺族に対してできるだけ早期に説明することを目標に調査を進めている」と回答しました。
杏海さんの一周忌 父親の和也さん
父 和也さん
「これは救えなかったんだっていうことであれば、だんだん受け入れていくしかないかなっていうところもありますけど、今はまだ何も報告もないし受け入れられる状態にはない。娘の遺骨はそのまま。ここにまだ一緒にいる状態で。まだ本当に何も報告ができてないので。杏海も20歳という若さでまだ本当にこれからやりたいこといっぱいあったと思います。前を向ける日がなかなか難しいなと思っています」
「全く役に立たない」制度から10年 見えた課題
10年前に始まった【医療事故調査制度】。
患者を取り違えた手術や消毒液を誤って点滴するなどの深刻な医療事故が相次いだことがきっかけでした。
目的は責任の追及ではなく、原因を究明し再発防止につなげることでしたが今、制度の限界を指摘する声が上がっています。
医療事故を訴える患者や家族を支援する団体には、今回の今井さんのように調査の進捗状況の報告を求めても回答をもらえないケースだけではなく、予期しない状況で家族が亡くなったにもかかわらず病院に事故と認められず、調査制度の対象にならないという訴えが数多く寄せられています。
医療過誤 原告の会 宮脇正和会長
医療過誤 原告の会 宮脇正和会長
「(調査制度が)10年間運用されてきて遺族に失望が広がっている。『こんな制度全然役に立たない』という声も聞く。再発防止に生かされないまま泣き寝入りになっている。患者の声をちゃんと反映できるよう10 年を契機に改善する必要があるのではないか」
“闇に葬ってはならない”漫画での告発
去年クローズアップ現代で取り上げた1人の医師が医療事故を繰り返す“リピーター医師”の問題。
リピーター医師によって繰り返される医療事故 病院で何が起きていたのか?医療の安全について考える NHK WEB特集 医療・健康
医療事故について描いたWEB漫画[脳外科医 竹田くん]の1コマ
その実態をWEB漫画で告発をした作者が、今回私たちの取材に応じました。
作者は漫画で描かれている、手術中に誤って脊髄の神経を切られ後遺症に苦しむ女性の親族だといいます。
死亡事故ではないため【医療事故調査制度】の対象外となるなか、およそ3年にわたって病院内部の資料を集め関係者への聞き取りを行い、告発に至ったといいます。
脳外科医 竹田くんの作者
「医療事故って、患者が思っているものがすべて医療事故でもないですし、医療過誤でもないとは思いますけど。本当に客観的に見ても医療過誤と認められるような事案については、患者がその事実を知らされなかったり闇に葬られてしまったりするような、そういう悲惨なことはなくしたいと思って。漫画によって医療事故っていう問題が自分にも起こりうる身近なこととして捉えてもらって、より社会問題として認識してほしいと考えました」
病院は調査の結果、執刀した医師が8か月間で8件の医療事故に関わっていたと公表。
医師は去年12月、このうちの一件で業務上過失障害の罪で在宅起訴されました。
しかし事故が起きた当初、病院の対応は誠意のあるものと感じられなかったといいます。
脳外科医 竹田くんの作者
「医療事故調査委員会に準ずる検証会議を開いて、医療過誤の件数が1件と結論を得たと病院が説明していたんですが、その会には脳外科医は1人も参加してなかった。脳外科医がいないのに、一体誰に聞き取ってどんな情報をもとにそういう判断が下されたのかということに疑問を感じました。
医療安全の責任者の方と家族が面談したとき
『もう今から検証してもわからないじゃないの』 っていうふうな発言をしているんですね。
だから検証に関して、病院の考えはちょっと甘かったんじゃないかなと思います。ものすごく歯がゆかったですし
『脳外科学会にこういう医療事故が起こっていることをちゃんと報告した方がいいんじゃないですか』とか働きかけていたんですが。
結局、そういうこともなされないままズルズルと最終的に刑事事件にまで至っている」
病院内部で起こったトラブルや不祥事を、外部の一個人が扱うことはリスクが高いと考えた作者は、フィクションの漫画という形で告発せざるを得なかったといいます。
SNSなどで漫画の発信をはじめたのは2年前。
当初は、作者を批判するコメントであふれるのではないかと危惧していましたが、発信を続けていくなかで“医療制度や病院のあり方にも問題がある”という意見も見られるようになり、漫画を支持する反応が増えていったといいます。
脳外科医 竹田くんのイラストを描く作者
医療事故を隠すデメリットに気付いてほしい
作者がWEB漫画を通じて医療事故に向き合うなかで気付いたことがあるといいます。
それは長期間にわたって医療事故への対応をしなければならない当事者の医師や関係者の苦労です。
脳外科医 竹田くんの作者
「(調査を)真面目にやらない病院に対してペナルティもないので、真面目にやる病院がバカを見るみたいな、誠実に向き合うよりも隠す方が楽。
そういう状況があるんじゃないかとは感じます。
ただ、医療事故に関わる検証報告書の作成などを“隠す側”に回れば、何年間もずっとその問題にとらわれ続け苦しむこともありうる。
医療関係者の人達が漫画を読んで“自分は竹田くんにはならないようにしよう”という声もネットからは聞こえてきます。
“医療事故を隠すことはデメリットもある”という一つの例を示せたと思うので、漫画を通じて教訓をくみ取ってくれたらありがたいと思います」
医療事故から逃げず 丁寧に向き合う事が重要
(名古屋大学医学部附属病院における重大事故発生数)
医療ミスの現状を把握しながら、改善効果を明らかにしているデータがあります。
名古屋大学医学部附属病院で副院長を務め、長年、患者の安全確保に携わってきた長尾能雅さんによると、医療事故につながりかねない“ヒヤリハット”などの報告数が増加している一方で、医療ミスによる死亡の件数は減少に向かっているといいます。
名古屋大学医学部附属病院 長尾能雅 副病院長
「単純にヒヤリハットなどの報告が増えたから重大事故が減ったという訳ではありません。報告行動が活性化されることで、初めてミスによる重大な死亡が明らかになり、そこに対して外部の専門家を交えた調査を行い本格的な改善につなげるということを粘り強く続けてきた結果だと考えています。
大切なことは、こうした推移を視覚化しながら医療安全の取り組みに当たっていくことです。
実際に起きていることを把握できない、つまり不透明な状況だと取り組みの成果自体がよくわからないことになります。
このような積み重ねが結果的に患者の安全につながるとともに、
病院への信頼につながるという意識を浸透させていくことが重要だと考えています」
「娘の遺骨はそのまま、ここにまだ一緒にいる。今はまだ受け入れられる状態にない」
去年1月、大学3年生だった娘の杏海(あみ)さんを突然失った両親のことばです。
今井杏海さんは当時、発熱や強い喉の痛みを訴え大学病院に入院していましたが、医療事故で命を落としました。
“娘の身にいったい何が起きたのか?”
病院からは「制度に基づき調査を進める」と説明を受けましたが、1年以上がたった今も、調査が始まったという連絡はないと言います。
取材を進めると医療事故を調査する制度の課題が見えてきました。
相次ぐ告発の裏で起きている見過ごせない実態に迫り、必要な対策を考えます。
(クローズアップ現代 取材班)
元気だった娘が突然…
当時大学3年生でサークルの友達と過ごすのが大好きだったという今井杏海(あみ)さん(20)。
2023年の年末から、発熱や喉の痛みなど風邪のような症状が続き、年明けにはクリニックをいくつも受診しましたが改善せず、大学病院を紹介されました。
▼2024年1月6日 日本大学医学部附属板橋病院に入院
診断名は『伝染性単核球症』(たんかくきゅうしょう)。
通常は2~3週間で自然に軽快する感染症とされていますが、ごくまれに深刻な合併症を引き起こすことがあります。
検査をしながら点滴治療などで経過を診ることになりました。
▼1月13日 退院日
入院から1週間がたった退院の日の朝。
熱が39度まで上昇したというメッセージが母親に届きました。
母親は退院の延長を希望しましたが「他に入院の必要な患者がいる」と説明され、かなわなかったといいます。
入院中の杏海さん 家族へのメッセージ
杏海さんの母 今井弘子さん
「本当に大丈夫なんですか?って(医師に)言ったんですよ。そしたら『はい』のひと言。絶対大丈夫なんですか?と言っても『はい』しか返事しなくて」
▼1月13日~16日 退院後 症状が悪化
自宅に戻ると杏海さんは、発熱に加え “これまで感じたことのない”激しい胃の痛み・おう吐などの症状に襲われ、大学病院にも連絡しましたがすぐには受け入れてもらえませんでした。
▼1月17日 再入院
退院から4日目を迎えた17日の午前3時半ごろ。
杏海さんが「苦しい、苦しい」と両親に訴えました。
全身の痛みから一人でトイレにも行けず、うずくまる状態だったといいます。
両親は大学病院に救急要請し、再入院することになりましたが、
すでに重篤な状態でした。
「娘さんは非常に危険な状態です」
ICUへ向かうとき母親が「頑張ってね」と声をかけると、
杏海さんは手を振ってくれました。
▼2024年1月30日
再入院から10日余り治療が続けられましたが病状は改善せず、
杏海さんは多臓器不全で亡くなりました。
両親にとって、全く想像もしていなかった最期でした。
母 弘子さん
「私の宝物が一瞬にして。本当にどうしてこんなことになったのか、どうしてどうしてって毎日毎日なぜなぜなぜって。こんな大好きで自分の命よりも大事な大好きな娘を失うことになるなんて」
杏海さん 成人式の時の写真
杏海さんが亡くなった原因について病院は【医療事故調査制度】に基づき、調査を進めると説明しました。
この制度では【予期せぬ死亡事例】が起きた場合、過失の有無にかかわらず医療機関が自ら原因を調査することが義務づけられています。
結果が出れば、遺族に説明し第三者機関に報告します。
しかし、病院から調査を始めたという連絡はないといいます。
両親は去年10月、進捗(しんちょく)状況を知らせてほしいと文書で求めましたがまだ回答はありません。
制度上、遺族に対して調査の進捗を伝える義務はなく病院の裁量に任せられています。
私たちの取材に対して
日本大学医学部附属板橋病院は
「遺族に対してできるだけ早期に説明することを目標に調査を進めている」と回答しました。
杏海さんの一周忌 父親の和也さん
父 和也さん
「これは救えなかったんだっていうことであれば、だんだん受け入れていくしかないかなっていうところもありますけど、今はまだ何も報告もないし受け入れられる状態にはない。娘の遺骨はそのまま。ここにまだ一緒にいる状態で。まだ本当に何も報告ができてないので。杏海も20歳という若さでまだ本当にこれからやりたいこといっぱいあったと思います。前を向ける日がなかなか難しいなと思っています」
「全く役に立たない」制度から10年 見えた課題
10年前に始まった【医療事故調査制度】。
患者を取り違えた手術や消毒液を誤って点滴するなどの深刻な医療事故が相次いだことがきっかけでした。
目的は責任の追及ではなく、原因を究明し再発防止につなげることでしたが今、制度の限界を指摘する声が上がっています。
医療事故を訴える患者や家族を支援する団体には、今回の今井さんのように調査の進捗状況の報告を求めても回答をもらえないケースだけではなく、予期しない状況で家族が亡くなったにもかかわらず病院に事故と認められず、調査制度の対象にならないという訴えが数多く寄せられています。
医療過誤 原告の会 宮脇正和会長
医療過誤 原告の会 宮脇正和会長
「(調査制度が)10年間運用されてきて遺族に失望が広がっている。『こんな制度全然役に立たない』という声も聞く。再発防止に生かされないまま泣き寝入りになっている。患者の声をちゃんと反映できるよう10 年を契機に改善する必要があるのではないか」
“闇に葬ってはならない”漫画での告発
去年クローズアップ現代で取り上げた1人の医師が医療事故を繰り返す“リピーター医師”の問題。
リピーター医師によって繰り返される医療事故 病院で何が起きていたのか?医療の安全について考える NHK WEB特集 医療・健康
医療事故について描いたWEB漫画[脳外科医 竹田くん]の1コマ
その実態をWEB漫画で告発をした作者が、今回私たちの取材に応じました。
作者は漫画で描かれている、手術中に誤って脊髄の神経を切られ後遺症に苦しむ女性の親族だといいます。
死亡事故ではないため【医療事故調査制度】の対象外となるなか、およそ3年にわたって病院内部の資料を集め関係者への聞き取りを行い、告発に至ったといいます。
脳外科医 竹田くんの作者
「医療事故って、患者が思っているものがすべて医療事故でもないですし、医療過誤でもないとは思いますけど。本当に客観的に見ても医療過誤と認められるような事案については、患者がその事実を知らされなかったり闇に葬られてしまったりするような、そういう悲惨なことはなくしたいと思って。漫画によって医療事故っていう問題が自分にも起こりうる身近なこととして捉えてもらって、より社会問題として認識してほしいと考えました」
病院は調査の結果、執刀した医師が8か月間で8件の医療事故に関わっていたと公表。
医師は去年12月、このうちの一件で業務上過失障害の罪で在宅起訴されました。
しかし事故が起きた当初、病院の対応は誠意のあるものと感じられなかったといいます。
脳外科医 竹田くんの作者
「医療事故調査委員会に準ずる検証会議を開いて、医療過誤の件数が1件と結論を得たと病院が説明していたんですが、その会には脳外科医は1人も参加してなかった。脳外科医がいないのに、一体誰に聞き取ってどんな情報をもとにそういう判断が下されたのかということに疑問を感じました。
医療安全の責任者の方と家族が面談したとき
『もう今から検証してもわからないじゃないの』 っていうふうな発言をしているんですね。
だから検証に関して、病院の考えはちょっと甘かったんじゃないかなと思います。ものすごく歯がゆかったですし
『脳外科学会にこういう医療事故が起こっていることをちゃんと報告した方がいいんじゃないですか』とか働きかけていたんですが。
結局、そういうこともなされないままズルズルと最終的に刑事事件にまで至っている」
病院内部で起こったトラブルや不祥事を、外部の一個人が扱うことはリスクが高いと考えた作者は、フィクションの漫画という形で告発せざるを得なかったといいます。
SNSなどで漫画の発信をはじめたのは2年前。
当初は、作者を批判するコメントであふれるのではないかと危惧していましたが、発信を続けていくなかで“医療制度や病院のあり方にも問題がある”という意見も見られるようになり、漫画を支持する反応が増えていったといいます。
脳外科医 竹田くんのイラストを描く作者
医療事故を隠すデメリットに気付いてほしい
作者がWEB漫画を通じて医療事故に向き合うなかで気付いたことがあるといいます。
それは長期間にわたって医療事故への対応をしなければならない当事者の医師や関係者の苦労です。
脳外科医 竹田くんの作者
「(調査を)真面目にやらない病院に対してペナルティもないので、真面目にやる病院がバカを見るみたいな、誠実に向き合うよりも隠す方が楽。
そういう状況があるんじゃないかとは感じます。
ただ、医療事故に関わる検証報告書の作成などを“隠す側”に回れば、何年間もずっとその問題にとらわれ続け苦しむこともありうる。
医療関係者の人達が漫画を読んで“自分は竹田くんにはならないようにしよう”という声もネットからは聞こえてきます。
“医療事故を隠すことはデメリットもある”という一つの例を示せたと思うので、漫画を通じて教訓をくみ取ってくれたらありがたいと思います」
医療事故から逃げず 丁寧に向き合う事が重要
(名古屋大学医学部附属病院における重大事故発生数)
医療ミスの現状を把握しながら、改善効果を明らかにしているデータがあります。
名古屋大学医学部附属病院で副院長を務め、長年、患者の安全確保に携わってきた長尾能雅さんによると、医療事故につながりかねない“ヒヤリハット”などの報告数が増加している一方で、医療ミスによる死亡の件数は減少に向かっているといいます。
名古屋大学医学部附属病院 長尾能雅 副病院長
「単純にヒヤリハットなどの報告が増えたから重大事故が減ったという訳ではありません。報告行動が活性化されることで、初めてミスによる重大な死亡が明らかになり、そこに対して外部の専門家を交えた調査を行い本格的な改善につなげるということを粘り強く続けてきた結果だと考えています。
大切なことは、こうした推移を視覚化しながら医療安全の取り組みに当たっていくことです。
実際に起きていることを把握できない、つまり不透明な状況だと取り組みの成果自体がよくわからないことになります。
このような積み重ねが結果的に患者の安全につながるとともに、
病院への信頼につながるという意識を浸透させていくことが重要だと考えています」