女性管理職 なぜ増えない?どう増やす?【専門家Q&A】 NHK 2025年4月22日 14時34分
日本の企業では女性管理職の登用がなかなか進みません。国内の女性管理職の割合は、わずか12.7%。国際的にも低い水準です。
いったいなぜなのか?そして、どうすれば増やすことができるのでしょうか。女性の働き方の問題に詳しい専門家に聞きました。
(社会部記者 平井千裕)
Will Lab 小安美和 代表取締役
答えてくれたのは、女性の働き方の問題に詳しいWill Lab 小安美和 代表取締役です。小安さんは、人材サービス大手などに勤めたあと、自ら会社を立ち上げ、企業や地方自治体に女性の登用を進めるためのアドバイスを行っています。
Q.そもそも日本では女性管理職がなぜ増えないのでしょうか?
女性が管理職になるための環境整備がうまくできていない会社が多いように思います。日本ではまだ長時間労働を前提とした企業が多く、特に管理職となるとその傾向はさらに強まります。
さらに転勤など地域間の異動があったり、リモートワークが禁止されているなど働き方の柔軟性が少ない場合も、管理職になることを避ける要因になります。こうした企業では環境面で自然と女性に不利な待遇になっていると言わざるをえません。
Q.そうした企業が多い中でも、女性管理職を増やすために取り組んでいる企業もあるということですが、参考になる取り組みがあれば、教えてください。
あるスポーツクラブを運営する会社の事例です。この会社では、社内の実態調査を通じて、そもそも管理職の候補者として推薦される女性の割合が男性と比べて少ないという課題に気づいたといいます。
具体的には「管理職の昇格試験への推薦率」が、男性が51%だったのに対し、女性は16%と、大きな開きがありました。
背景には、女性自身からも「育児などのライフイベントとの両立が不安」とかいった声もあったほか、上司が過度に配慮して推薦しないケースもあったということです。
こうした状況を受けて、4月からは部門ごとに細分化して女性管理職の割合や人数について具体的な目標を設定することにしています。
この企業の担当者は「なりゆきに任せるままでは女性管理職は増えない」と強い危機感を持って取り組んでいました。
このほか、わたしが知っている事例では、勤務地を選択できる制度を管理職にも広げることを検討する動きや、不妊治療や卵子凍結などの費用の補助を会社として積極的に行い、管理職になる前の段階で女性が離職するのを防ごうという動きなどがあります。
Q.小安さんはこれまで地方自治体への支援も積極的に行われてきたということですが、こちらも参考になる取り組みがあれば、教えてください。
たとえば、女性の就業率が全国最下位という課題がある奈良県のケースです。
ポイントは「職場ごとの実態を把握して、実情にあわせて課題解決を行うこと」です。
県庁では、職員に対する2024年の意識調査で女性の3割ほどが「職場でのお茶出しや雑用は女性がするべきという風土がある」と答えるなど、性別による無意識の偏見があることが見えてきました。
これを踏まえて奈良県は2024年、新たに「ジェンダー平等推進プロジェクトチーム」を立ち上げ、市町村や企業、教育現場のそれぞれで同様の意識調査を行いました。
すると、性別や年代ごとに差がみられる項目もあることがわかったということでこれからそれぞれに応じた課題解決を検討するということです。
Q.どれだけ組織の制度を整えても女性自身が「わたしに管理職はできない」と思いこんでしまうケースも少なくありません。そうした人たちには、どのような働きかけをするとよいでしょうか?
これはいつもわたしが各地で積極的に話すことですが、まずは信頼できる仲間、そしてロールモデルを見つけることが大事です。
たとえば兵庫県豊岡市では、政治や経済などさまざまな分野で活躍する女性たちを招いて、交流を深めてもらう取り組みを2022年から行っています。
女性の中には「管理職として働くイメージができない」とか「育児などのライフイベントとの両立が不安」とか漠然とした不安を抱える人も少なくありません。
不安を解消するためにも、さまざまな状況で働く人との交流を通じて「どのような働き方であれば管理職として働けそうか」具体的なイメージを持つことが何よりも重要だと思います。
また、最近では、企業どうしが連携して、社外で活躍する人たちと出会う場を提供するケースも増えていると聞きます。
生き方も働き方も異なるさまざまなロールモデルと交流することで、自分のありたい姿を見つけ一歩を踏み出すヒントになるのでこうした取り組みも大切だと思います。
Q.実際に、部下の女性から管理職になりたくないと相談を受けた場合は、どのように接するとよいでしょうか?
まずは、一人ひとりの「ありたい姿」を丁寧に確認することが重要だと思います。
「女性だから、子育てしているから無理」などといって本人のキャリアを方向性を決めつけるのではなく、中長期的な視点でキャリアのイメージをすりあわせることが大切です。
面談の前にライフイベントなど上司に知っておいてほしいことを本人に記入してもらい、それをもとに話し合うとスムーズにやりとりできると思います。
また、企業の中には子育てなどで勤務に制約があるという理由だけで、昇進ができないケースもあると聞いています。
評価基準の不明瞭さは社員の不満につながるため、性別に関係なく、定めた目標の達成度をみて客観的に評価する仕組みを設けることが大切だと思います。
Q.女性管理職を増やすため、企業としてどんな姿勢で取り組んでほしいと思いますか?
女性の管理職登用を進めることは決して女性社員のためだけではありません。日本では能力はあるのに環境が原因で管理職に上がれない女性が多いため働く環境そのものを見直していく必要があると思います。
たとえば、長時間労働の解消や、勤務地の選択制、リモートワークの導入など育児のしやすい環境は結果として、男性にとっても働きやすい環境になるので今後も推進していく必要があります。
大きな病気にかかるなどして健康で働けない期間というのは誰の身にも起こりうることだという前提に立った上で、一人ひとりがよりよく働けるよう組織も個人もそれぞれ模索していくことが重要だと思います。
日本の企業では女性管理職の登用がなかなか進みません。国内の女性管理職の割合は、わずか12.7%。国際的にも低い水準です。
いったいなぜなのか?そして、どうすれば増やすことができるのでしょうか。女性の働き方の問題に詳しい専門家に聞きました。
(社会部記者 平井千裕)
Will Lab 小安美和 代表取締役
答えてくれたのは、女性の働き方の問題に詳しいWill Lab 小安美和 代表取締役です。小安さんは、人材サービス大手などに勤めたあと、自ら会社を立ち上げ、企業や地方自治体に女性の登用を進めるためのアドバイスを行っています。
Q.そもそも日本では女性管理職がなぜ増えないのでしょうか?
女性が管理職になるための環境整備がうまくできていない会社が多いように思います。日本ではまだ長時間労働を前提とした企業が多く、特に管理職となるとその傾向はさらに強まります。
さらに転勤など地域間の異動があったり、リモートワークが禁止されているなど働き方の柔軟性が少ない場合も、管理職になることを避ける要因になります。こうした企業では環境面で自然と女性に不利な待遇になっていると言わざるをえません。
Q.そうした企業が多い中でも、女性管理職を増やすために取り組んでいる企業もあるということですが、参考になる取り組みがあれば、教えてください。
あるスポーツクラブを運営する会社の事例です。この会社では、社内の実態調査を通じて、そもそも管理職の候補者として推薦される女性の割合が男性と比べて少ないという課題に気づいたといいます。
具体的には「管理職の昇格試験への推薦率」が、男性が51%だったのに対し、女性は16%と、大きな開きがありました。
背景には、女性自身からも「育児などのライフイベントとの両立が不安」とかいった声もあったほか、上司が過度に配慮して推薦しないケースもあったということです。
こうした状況を受けて、4月からは部門ごとに細分化して女性管理職の割合や人数について具体的な目標を設定することにしています。
この企業の担当者は「なりゆきに任せるままでは女性管理職は増えない」と強い危機感を持って取り組んでいました。
このほか、わたしが知っている事例では、勤務地を選択できる制度を管理職にも広げることを検討する動きや、不妊治療や卵子凍結などの費用の補助を会社として積極的に行い、管理職になる前の段階で女性が離職するのを防ごうという動きなどがあります。
Q.小安さんはこれまで地方自治体への支援も積極的に行われてきたということですが、こちらも参考になる取り組みがあれば、教えてください。
たとえば、女性の就業率が全国最下位という課題がある奈良県のケースです。
ポイントは「職場ごとの実態を把握して、実情にあわせて課題解決を行うこと」です。
県庁では、職員に対する2024年の意識調査で女性の3割ほどが「職場でのお茶出しや雑用は女性がするべきという風土がある」と答えるなど、性別による無意識の偏見があることが見えてきました。
これを踏まえて奈良県は2024年、新たに「ジェンダー平等推進プロジェクトチーム」を立ち上げ、市町村や企業、教育現場のそれぞれで同様の意識調査を行いました。
すると、性別や年代ごとに差がみられる項目もあることがわかったということでこれからそれぞれに応じた課題解決を検討するということです。
Q.どれだけ組織の制度を整えても女性自身が「わたしに管理職はできない」と思いこんでしまうケースも少なくありません。そうした人たちには、どのような働きかけをするとよいでしょうか?
これはいつもわたしが各地で積極的に話すことですが、まずは信頼できる仲間、そしてロールモデルを見つけることが大事です。
たとえば兵庫県豊岡市では、政治や経済などさまざまな分野で活躍する女性たちを招いて、交流を深めてもらう取り組みを2022年から行っています。
女性の中には「管理職として働くイメージができない」とか「育児などのライフイベントとの両立が不安」とか漠然とした不安を抱える人も少なくありません。
不安を解消するためにも、さまざまな状況で働く人との交流を通じて「どのような働き方であれば管理職として働けそうか」具体的なイメージを持つことが何よりも重要だと思います。
また、最近では、企業どうしが連携して、社外で活躍する人たちと出会う場を提供するケースも増えていると聞きます。
生き方も働き方も異なるさまざまなロールモデルと交流することで、自分のありたい姿を見つけ一歩を踏み出すヒントになるのでこうした取り組みも大切だと思います。
Q.実際に、部下の女性から管理職になりたくないと相談を受けた場合は、どのように接するとよいでしょうか?
まずは、一人ひとりの「ありたい姿」を丁寧に確認することが重要だと思います。
「女性だから、子育てしているから無理」などといって本人のキャリアを方向性を決めつけるのではなく、中長期的な視点でキャリアのイメージをすりあわせることが大切です。
面談の前にライフイベントなど上司に知っておいてほしいことを本人に記入してもらい、それをもとに話し合うとスムーズにやりとりできると思います。
また、企業の中には子育てなどで勤務に制約があるという理由だけで、昇進ができないケースもあると聞いています。
評価基準の不明瞭さは社員の不満につながるため、性別に関係なく、定めた目標の達成度をみて客観的に評価する仕組みを設けることが大切だと思います。
Q.女性管理職を増やすため、企業としてどんな姿勢で取り組んでほしいと思いますか?
女性の管理職登用を進めることは決して女性社員のためだけではありません。日本では能力はあるのに環境が原因で管理職に上がれない女性が多いため働く環境そのものを見直していく必要があると思います。
たとえば、長時間労働の解消や、勤務地の選択制、リモートワークの導入など育児のしやすい環境は結果として、男性にとっても働きやすい環境になるので今後も推進していく必要があります。
大きな病気にかかるなどして健康で働けない期間というのは誰の身にも起こりうることだという前提に立った上で、一人ひとりがよりよく働けるよう組織も個人もそれぞれ模索していくことが重要だと思います。