公営競技はどこへ行く

元気溢れる公営競技にしていきたい、その一心で思ったことを書き綴っていきます。

村上義弘連載(日刊スポーツ2018年12月30日付)

2018-12-31 15:22:07 | 競輪
松本整さんが生き方教えてくれた/村上義弘連載1

[2018年12月30日8時35分]

平成最後の「KEIRINグランプリ」が30日、静岡競輪場で行われる。今回で歴代2位となる11回目の出場を果たす村上義弘(44=京都)が、2回の優勝を含めたこれまでのGPの思い出、そして競輪の未来を熱く語った。3回連載で送る。(聞き手・栗田文人)

GPは中野浩一さんが勝った第1回から見ている。時代はまだ昭和で、自分は11歳の小学5年生。競輪ファンだった父に連れられて子供のころから向日町やびわこなどの競輪場に行っていたので、競輪は身近な存在だった。特に高松宮記念杯(当時は高松宮杯)は毎年びわこに見に行っていたし、その他のG1(当時は特別競輪)も決勝はテレビで見ていた。当時から競輪選手はあこがれで、GPはその年に活躍したベストナインによる夢のレースだと思っていた。

自分は94年(平6)に競輪選手になったが、出世は遅かった。まだGPなど出場できないころ、1人の選手として見ていて一番印象に残っているレースは、99年立川の太田真一の優勝だ。神山(雄一郎)さん、吉岡(稔真)さん、小橋(正義)さんといった歴史に残るビッグネームを相手に、自分より年下で後からデビューした選手が、自分がこれから極めていきたいと思っている戦法である「先行、逃げ切り」で勝ったことに衝撃を受けた。あのレースはすごかった。

ただ、不思議と焦りは感じなかった。その翌年の00年に自分もふるさとダービー豊橋で初めてG2を勝ち、最後までGP出場を狙える位置にいながら、結局、出場権は得られなかった。それでも、悔しいというよりは「まだその時期ではない。まだまだ積み上げる時だ」と思っていた。

02年、デビュー9年目にして初めてGPの出場権を得た。この年は、3月立川の日本選手権で初めてG1の決勝に乗った思い出深い年でもある。どんな世界でも、日本選手権というのは一番大きい大会。選手として挑み続ける大会だと思っていた…、いや、今でも思っている。だからこそ、この決勝進出はうれしかった。この年、親とさえ思っている同郷の先輩の松本整さんが自分の先行に乗って7月前橋の寛仁親王牌を勝った。このことで「この後、自分が頑張れば一緒にGPで走れる」と気合が入り、強い目標になったことをよく覚えている。

松本さんは高校3年のときに出会って以来、本当にかわいがってもらった。当時は、選手になってしまえば、後は練習もそこそこにマージャン、ゴルフ、酒、タバコ…という選手が多かった。そんな周りの雰囲気の中、松本さんは「競輪のために無駄なことは、できる限り省く」という生き方を教えてくれた。あそこまで競輪に向き合った人はいない。

自分は逃げて3着、松本さんは競られて9着と、思い描いたような結果は出なかった。ただ、一緒にGPに乗れて本当に良かった。レース直後に松本さんに「来年また一緒に走らせてください」と言ったことも忘れられない思い出だ(これは夢に終わったが)。いい「親孝行」になったと思っている。



「頭より体が反応した」歓喜の瞬間/村上義弘連載2

[2018年12月30日8時37分]

平成最後の「KEIRINグランプリ」が30日、静岡競輪場で行われる。今回で歴代2位となる11回目の出場を果たす村上義弘(44=京都)が、2回の優勝を含めたこれまでのGPの思い出、そして競輪の未来を熱く語った。3回連載で送る。(聞き手・栗田文人)

忘れもしない、04年11月大垣の全日本選抜優秀戦での落車で、脳内出血や左股関節の腱(けん)が切れるなどの大けがを負った。この影響で、今でも右足に比べると、左足の方はうまく上がらない。それでも、GPが約1カ月後に迫っていたことで無理をしてすぐに練習を再開したのだが、今から考えれば、後々に大きく響いた。

自分でも驚くぐらい、日に日に体が動かなくなり、すべてが悪い方に悪い方にと流れる。この年のGPは4着に終わり、その後、体力の衰えや戦法の迷いなどもあって、翌年から5年間もGPに出られなくなった。特に悔しかったのが05年当時で、この年のGPはテレビで見たくなくて、レースが行われている時間帯に京都・亀山の山の中に入って、暗くなるまで練習していたことを思い出す。

苦しい時を経て6年ぶりに出場した10年。初めて弟博幸と乗り、しかも弟が自分の番手を回って勝つという出来すぎた物語のようなことが起きた。この時はたまたま母も見に来ていたこともあって、自分が優勝できなかったことなどはすっかり忘れて「こんなことが本当にあっていいのか?」と不思議で仕方なかった。そして翌々年の12年、ようやく自分にも歓喜の瞬間が訪れる。

今でもすぐに思い出せる。この年の12月16日の練習中にバイク誘導をしていて落車し、右の肋骨(ろっこつ)を3、4本骨折した。落車直後に頭に浮かんだのは「GPまでちょうど2週間か…」。当然、痛みはあったが、すぐに気持ちは切り替わった。30日のレース当日は「自分の力を出し切るだけ。位置を取り、体が反応する瞬間に行くだけだ。頭よりも体が一番自分のことを知っている」と迷いはなかった。

結果的に深谷知広-浅井康太の3番手からまくって勝ったのだが、当時の深谷はずばぬけていて、今でも「なぜまくれたのか」と思う。勝ったことはもちろんうれしかったが、仮に勝てなかったとしても、頭より先に体が反応したことがうれしかった。GPという舞台で納得のいくレースがしたかっただけ。その気持ちが優勝につながったのかな、と思う。ステータスうんぬんではなく、GPは日本選手権とはまた別物の頂点を決めるレース。若いころから「日本一になりたい」と思ってやってきて、その目標が達成された瞬間だった。喜びはかけがえのないものだ。

そして16年。同郷の後輩の稲垣裕之に乗って2勝目を挙げることができた。あの年は3月名古屋の日本選手権を勝ってGP出場権は得られたが、10月の寛仁親王牌まではGPは単騎で戦うつもりだった。それが、親王牌を稲垣が勝ったことで、番手を回ることに。自分の体も仕上がっていたし、メンバーを見渡すと、タテのレースになることが濃厚。そんな読みも当たって勝つことができた。あの時はいろいろなことがうまくかみ合った印象だ。



「脇本クラス以上の選手」に期待/村上義弘連載3

[2018年12月30日8時39分]

平成最後の「KEIRINグランプリ」が30日、静岡競輪場で行われる。今回で歴代2位となる11回目の出場を果たす村上義弘(44=京都)が、2回の優勝を含めたこれまでのGPの思い出、そして競輪の未来を熱く語った。3回連載で送る。(聞き手・栗田文人)

今年で自身11回目のGPを迎える。昨年は落車が続いて体中で30カ所近く骨折。日本選手権やオールスターにも出場できず、GP出場権を逃した。その結果を受けて、昨年暮れにこう思った。「来年(18年)は1つ下がって再チャレンジする年にする。自分はチャレンジする権利を得たのだ」。この気持ちで戦ってきた結果、今年はG1優勝こそできなかったが、GP出走権を得ることができた。「チャレンジ成功」といっていいだろう。

今年は脇本雄太-三谷竜生の後ろを回る。脇本に限らず今回のGPメンバーでいえば新田祐大、その他でも渡辺一成、深谷知広らナショナルチームの選手は常に爆発の予感が漂う。彼らは速く、そして激変している。速く走るトレーニングや自転車のセッティングなどが数値化され、確立されている。そして、それを選手が具現化できている。かつてF1先行と呼ばれ、当時4000人以上いた選手の中で一番強かった吉岡稔真さんのタイムは、今や、ほとんどの選手が出せるようになっている。

そもそも、競輪と競技を別物と考えるのはナンセンスだ。競輪のトップが世界でももっと活躍するようになってほしい。SSイレブンも当時のやり方は間違っていたかもしれないが、目指すところはそこだった。実際、今、その流れになってきている。これからはさらに、脇本クラス以上の選手が競輪界から出てくることを期待したい。

競輪を根底からゴロッと変える必要はないが、いつまでも特殊なジャンルに収まっていてはほしくはない。伝統文化は守るだけでは駄目。その時代、その時代で、枠から1歩踏み出すことが大切だ。だから、エボリューションなど、新しい形態、スポーツとして認められるようなレースが増えることはいいと思う。


競輪がもっとスポーツ選手として認知され、格好いいと思ってもらえるような仕事にしていきたい。それが、若い選手、これから選手になろうとしている人に我々が残してあげられることだろう。競輪は子供のころに抱いていた夢を実現させてくれた、自分がここまで生きてきた証し。自分と同じように、競輪に人生を救われる若い人をもっと増やしたい。

レースに臨むにあたり「これだけやれば、このぐらいのレベル、このぐらいの仕上がりになる」という答えは分かってはいても、さまざまなことへの試行錯誤もしなくてはならない。そもそも練習というのはいくつになってもしんどいものだ。

ただ、ここまで多くの人に支えられてきた。今、力だけで勝負できる自分ではないが、それでも村上義弘を応援してくれるファンがいる限り、それに応えるため最大限の努力をしている。1日1日、1戦1戦しっかりと。言うまでもなく、今日のKEIRINグランプリ18も全力で戦う。(おわり)


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