ベトナムにもあった丁半バクチ。
在留ベトナム人の増加に伴い、各地で高額な賭け金が行き交うベトナム式賭博の立件が相次いでいる。ときには数百万円もの金がやり取りされることもあり、ギャンブルに端を発した暴行トラブルや窃盗事件も起きている。事情に詳しい識者は、新型コロナウイルス禍の影響を指摘する。彼らのコミュニティーで今、何が起きているのか。
賭博の名は「ソックディア」
「いくら賭ける?」
「500万出せよ!」
受け皿の上に、ふたをするように伏せられた茶碗(ちゃわん)。それを挟んで両サイドの男たちから景気のいいベトナム語が飛び交う。一万円札の束が無造作に賭場にほうり投げられ、ベット(賭け)は終了。全員の視線が一点に注がれる。そして「親」が茶碗を開けた瞬間、勝者と敗者が決し、負け側の札束が次々と回収されていった。
これは日本国内で撮影されたベトナム式賭博「ソックディア」の一場面。ベトナム語で「皿を振る」。丁半ばくちの一種だ。
日本の丁半ばくちではサイコロを使うが、ソックディアではその代わりに、トランプのマークの切り抜きなどを用いる。
ルールはいたって単純。親は皿の上にトランプのマークが書かれた紙片を4枚置き、その上から茶碗やコップをかぶせて上下に振る。参加者は表を向いた紙片が奇数枚か偶数枚かを予想して金を賭けるのだ。
勝てば賭け金と同額を得ることができ、負ければ没収される。奇数か偶数かだけでなく、その枚数まで当てると、5~10倍で払い戻しされる「高額配当表」が用いられる場合もあるという。
相次ぐ賭けのトラブル
兵庫県姫路市では2月、経営する飲食店内で、ベトナム人客にソックディアをさせて手数料を受け取っていたとして、兵庫県警が賭博開帳図利の疑いで、ベトナム国籍の女を逮捕。女の夫や長男も幇助(ほうじょ)罪で逮捕され、店の客だった30~50代の男女12人が単純賭博容疑で書類送検された。
賭博そのものの摘発はもちろん、これを発端とした事件やトラブルも後を絶たない。
同県警がドラッグストアを狙った大量万引事件で摘発した元技能実習生のベトナム人の男は、逮捕後の調べに「賭博で大負けした」「賭博する金が欲しかった」などと供述。捜査関係者によれば、共犯のもう一人の元実習生のベトナム人男も、これまで東京、福岡、群馬、愛知など複数の場所で開かれていた賭場に出入りしていたと明かしたという。
また昨年12月には、滋賀県長浜市でベトナム人男性に暴行を加えたうえ千葉県内まで車で連れ去り監禁したなどとして、20~27歳のベトナム人の男7人が、同県警に監禁などの疑いで逮捕された。のちに賭博の清算金取り立てが目的であったことが明らかになった。
真っ先に解雇 コロナ禍で行き場失い
神戸市内で実習生らを支援するベトナム人女性(55)によれば、賭博はもちろんベトナムでもご法度。「お金を賭けていなくてもソックディアをやっていると警察に厳しく取り締まられる」と話す。ただ本国でも、若者がひそかに金を賭け、ソックディアをやっているという話はあるようだ。
在留ベトナム人コミュニティーでは、口コミなどで賭場の情報が広がっているという。違法なソックディア賭博が、これほど横行する背景には何があるのか。
そもそもは、在留ベトナム人自体が近年、大幅に増加していることが挙げられる。
出入国在留管理庁の調査によると、平成22年時点の在留ベトナム人の数は約4万人だったが、10年後の令和2年には約45万人と10倍以上に増加した。在留資格別でみると、技能実習生が20万人を超えて最多。留学生6万人余りがこれに続く。数が増えたことで、それまで目立たなかった違法賭博が表面化するようになった。
捜査関係者は「立件できていないものの、賭博に関する情報提供は複数寄せられている。不定期で場所を変えたりするため実態の解明は一筋縄ではいかない」と明かす。
新型コロナの感染拡大も理由の一つに挙げられている。在留ベトナム人の労働実態に詳しい神戸大大学院国際協力研究科の斉藤善久准教授(労働法)は、コロナによって受け入れ先から支援を得られなくなった実習生らが日本で行き場を失い、「『手ぶらでは本国に帰れない』との思いから、賭博に手を出してしまう」と話す。
留学生も週にできるアルバイト(資格外活動)に時間制限があるため、生活苦から賭博に手を出してしまう人がいるという。賭けの客の中には、1千万円単位の借金を抱え、本国の実家を売却して送金してもらうケースもあったようだ。
斉藤氏は「実習生は労働者ではないが、実際には雇用のバッファーとして使われている現状があり、最初にクビを切られる。もっと国が前面に出て、実習先を確保するなどサポートが必要だ」とし、構造的な問題の改善を訴えた。
大金動く在留ベトナム人の丁半博打「ソックディア」の災厄 2021/04/25 13:08 https://t.co/CaOkYHFwKB
— 佐野 直哉 (@pxbrqnaZJT1917W) April 25, 2021
在留ベトナム人の増加に伴い、各地で高額な賭け金が行き交うベトナム式賭博の立件が相次いでいる。ときには数百万円もの金がやり取りされることもあり、ギャンブルに端を発した暴行トラブルや窃盗事件も起きている。事情に詳しい識者は、新型コロナウイルス禍の影響を指摘する。彼らのコミュニティーで今、何が起きているのか。
賭博の名は「ソックディア」
「いくら賭ける?」
「500万出せよ!」
受け皿の上に、ふたをするように伏せられた茶碗(ちゃわん)。それを挟んで両サイドの男たちから景気のいいベトナム語が飛び交う。一万円札の束が無造作に賭場にほうり投げられ、ベット(賭け)は終了。全員の視線が一点に注がれる。そして「親」が茶碗を開けた瞬間、勝者と敗者が決し、負け側の札束が次々と回収されていった。
これは日本国内で撮影されたベトナム式賭博「ソックディア」の一場面。ベトナム語で「皿を振る」。丁半ばくちの一種だ。
日本の丁半ばくちではサイコロを使うが、ソックディアではその代わりに、トランプのマークの切り抜きなどを用いる。
ルールはいたって単純。親は皿の上にトランプのマークが書かれた紙片を4枚置き、その上から茶碗やコップをかぶせて上下に振る。参加者は表を向いた紙片が奇数枚か偶数枚かを予想して金を賭けるのだ。
勝てば賭け金と同額を得ることができ、負ければ没収される。奇数か偶数かだけでなく、その枚数まで当てると、5~10倍で払い戻しされる「高額配当表」が用いられる場合もあるという。
相次ぐ賭けのトラブル
兵庫県姫路市では2月、経営する飲食店内で、ベトナム人客にソックディアをさせて手数料を受け取っていたとして、兵庫県警が賭博開帳図利の疑いで、ベトナム国籍の女を逮捕。女の夫や長男も幇助(ほうじょ)罪で逮捕され、店の客だった30~50代の男女12人が単純賭博容疑で書類送検された。
賭博そのものの摘発はもちろん、これを発端とした事件やトラブルも後を絶たない。
同県警がドラッグストアを狙った大量万引事件で摘発した元技能実習生のベトナム人の男は、逮捕後の調べに「賭博で大負けした」「賭博する金が欲しかった」などと供述。捜査関係者によれば、共犯のもう一人の元実習生のベトナム人男も、これまで東京、福岡、群馬、愛知など複数の場所で開かれていた賭場に出入りしていたと明かしたという。
また昨年12月には、滋賀県長浜市でベトナム人男性に暴行を加えたうえ千葉県内まで車で連れ去り監禁したなどとして、20~27歳のベトナム人の男7人が、同県警に監禁などの疑いで逮捕された。のちに賭博の清算金取り立てが目的であったことが明らかになった。
真っ先に解雇 コロナ禍で行き場失い
神戸市内で実習生らを支援するベトナム人女性(55)によれば、賭博はもちろんベトナムでもご法度。「お金を賭けていなくてもソックディアをやっていると警察に厳しく取り締まられる」と話す。ただ本国でも、若者がひそかに金を賭け、ソックディアをやっているという話はあるようだ。
在留ベトナム人コミュニティーでは、口コミなどで賭場の情報が広がっているという。違法なソックディア賭博が、これほど横行する背景には何があるのか。
そもそもは、在留ベトナム人自体が近年、大幅に増加していることが挙げられる。
出入国在留管理庁の調査によると、平成22年時点の在留ベトナム人の数は約4万人だったが、10年後の令和2年には約45万人と10倍以上に増加した。在留資格別でみると、技能実習生が20万人を超えて最多。留学生6万人余りがこれに続く。数が増えたことで、それまで目立たなかった違法賭博が表面化するようになった。
捜査関係者は「立件できていないものの、賭博に関する情報提供は複数寄せられている。不定期で場所を変えたりするため実態の解明は一筋縄ではいかない」と明かす。
新型コロナの感染拡大も理由の一つに挙げられている。在留ベトナム人の労働実態に詳しい神戸大大学院国際協力研究科の斉藤善久准教授(労働法)は、コロナによって受け入れ先から支援を得られなくなった実習生らが日本で行き場を失い、「『手ぶらでは本国に帰れない』との思いから、賭博に手を出してしまう」と話す。
留学生も週にできるアルバイト(資格外活動)に時間制限があるため、生活苦から賭博に手を出してしまう人がいるという。賭けの客の中には、1千万円単位の借金を抱え、本国の実家を売却して送金してもらうケースもあったようだ。
斉藤氏は「実習生は労働者ではないが、実際には雇用のバッファーとして使われている現状があり、最初にクビを切られる。もっと国が前面に出て、実習先を確保するなどサポートが必要だ」とし、構造的な問題の改善を訴えた。