マクドナルドの二の舞か? なぜだ! ユニクロが突然、売れなくなった 「飽きた」「高くなった」「もう欲しい物がない」… 赤かぶ
2015年07月27日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
——何の前触れもなく、客にソッポを向かれる恐怖
世界各地に次々と店を出し、右肩上がりに伸びてゆくジャパンブランドの筆頭格。しかし足元の日本では、異変が起きていた。訳知り顔の人々は「大したことじゃない」と言う。本当にそうだろうか。
■中国人には売れるけど
ユニクロの歴史は、成長の歴史に他ならない。
柳井正社長が、前身の衣料品店「小郡商事」の社名を「ファーストリテイリング」に変えた'91年、ユニクロの店舗数は30足らず、売り上げも約70億円だった。それが今や、全世界で3000店を営み、1兆6500億円を売り上げる。25年で200倍以上、まさにジャパニーズ・ドリームそのものである。
しかし、毎年のように2桁成長を続けてきたこの「奇跡の企業」が、突如として壁にぶち当たった。6月の国内売り上げ高が、前年比マイナス11・7%……。常に「絶好調」という枕詞付きだったここ数年、目にしたことのない落ち込み方だ。
7月9日に発表された昨年9月~今年5月期の国内売り上げ高は、前年同期比12・1%増と、確かに好調だった。多くの経済記者やアパレル関係者も、6月の売り上げが急減した理由について、
「6月は気温が上がらず、夏物が売れていない」
「とはいえ、ユニクロは今、創業以来の好調に沸いている。単月の売り上げが減ったというだけで、ただちに致命的な影響が出るとは思えない」
などと口を揃える。しかし、こんな声もある。
「私はユニクロの経営そのものが節目を迎えていると思います。彼らがこれまで築いてきたビジネスモデルに、限界が訪れたのではないでしょうか」(早稲田大学大学院商学研究科・長沢伸也教授)
人は想定外の状況を目の当たりにしたとき、「大したことじゃない」と自分に言い聞かせ、取り返しがつかないと分かってようやく、ことの重大さを悟る。今、ユニクロがおかれた状況、そして日本の消費者の心理はそんな「ターニングポイント」にさしかかっている。
東京の一等地、銀座6丁目にそびえるガラス張りのショーウインドウ。国内最大規模の旗艦店・ユニクロ銀座店は、梅雨空をものともしない外国人観光客で賑わっていた。免税カウンターに、中国人客が長い列を作る。
「中国人にとって、ユニクロは『日本へ旅行すると必ず行きたい店』という地位を確立しています。中国の店で売っている服よりだんぜん品質がいいけれど、欧米の高級ブランド服ほど高くない。中国のホワイトカラー層の給与水準から言うと、ユニクロの商品は安いわけではありませんが、背伸びしてでも買う価値があるのです」(中国出身の全国紙経済部記者)
「爆買い」で日本中を賑わせた中国の人々の間では、ユニクロのブランド力は強力だ。中国本土でもこの1年だけでおよそ100店舗を新たに出店。内陸の田舎町でさえ、今やユニクロの名を知らない人はいない。
■日本人のホンネは……
だが、日本の消費者は全く違う。誤解を恐れずに言うと、多くの日本人にとってユニクロは、お世辞にも「背伸びして買う服」ではない。
確かに、生地も縫製もしっかりしていて長持ちする。ヘンな柄やイラストのついたものが少なく、シンプルだから誰にでも似合う。何より、いつ店に行っても安かった。
しかし今、こうしたユニクロの美点が「強み」ではなく「弱み」に変わろうとしている。円安や材料費上昇などの要因で、値上げを余儀なくされているのが、最大の理由だ。マーケティングが専門の、慶應大学商学部教授の白井美由里氏が指摘する。
「誰もがユニクロには『高品質で低価格』というイメージを抱いています。しかし、数年かけてアンケート調査を行ったところ、実は『品質がいいのに安い』のではなく『安いわりに品質が良い』と評価されていることが分かりました」
また、消費者がユニクロ製品の何を重視して購入しているかを調べてみると、「品質の良さよりも安さのほうをより重視している」との結果が出たという。つまり、
「ユニクロの商品の主な『売り』は安さであり、ゆえに値上げが難しいということです。マーケティング戦略の一般論として、高級ブランドのほうが価格の自由度が高い。高いものは安くできますが、もともと安いと思われているものを値上げするのは困難なのです」(前出・白井氏)
ほんの2年前までユニクロは、ジーンズ1本を1990円、2990円、3990円の3プライスで売っていた。だが昨年、柳井社長は創業以来初めての一斉値上げに踏み切った。現在、ジーンズの主要ラインナップには4990円の値札もつく。さらに今年の秋冬商品では、一部で大幅な値上げを予定しているとも発表した。値上げ幅を全商品で均すと、およそ1割に達するという。
「値上げの影響はない」
柳井社長は、今年4月の中間決算発表会でそう断言した。実際に、昨年の値上げでは、売り上げは落ちなかった。円安が進み、日本がデフレから脱しつつあるなら、それに合わせて価格を調整するのは当然だ——デフレ経済の申し子である柳井社長は、掘り崩してきた価格の「底」を自ら引き上げることを決めた。
ここで、先の白井氏の指摘を思い出してほしい。安い商品を値上げするのは難しい。脳裏を過るのは、あのマクドナルドがはまったワナだ。
■ワクワク感がなくなった
日本マクドナルドは藤田田初代社長時代末期の'02年、ハンバーガーを1個59円にまで値下げし、さらに原田泳幸前社長時代には「100円マック」を打ち出した。こうした徹底的なデフレ戦略が、「マクドナルドは安くて当然」という意識を日本人に植え付けてしまった。
「昨年末の異物混入事件以来、マクドナルドの業績は坂を転げ落ちるように悪化し、今や毎月のように前年同月比で2割以上も売り上げを減らしています。しかし、凋落の真の原因は異物混入ではない。自社のブランドイメージを食い潰し、少しでも値上げすると売れなくなる状況を自ら生んでしまったことなのです」(全国紙経済部デスク)
少なくともユニクロの商品は「安かろう、悪かろう」ではない。だが、あくまでもユニクロは「安物の中では質がいい」だけにすぎないというのが、消費者の率直な感想だ。これから「ユニクロなのに高い」商品が増えたとき、日本人はそれを許すのか。神戸大学経済経営研究所リサーチフェローの長田貴仁氏も言う。
「ユニクロと同じ価格帯には、世界中のファストファッションブランドがひしめいています。その中で1社だけ値上げが続けば、『この金額を払うなら、別にユニクロじゃなくていいや』と離れる消費者が増えるでしょう」
現に店頭では、「ユニクロ、なんか高くなったね」という客の声がすでに聞こえ始めている。
直近の柳井社長の言動を見るに、「モノがよければ、多少値上げしても客はついてきてくれる」と考えている節がある。しかし、この正論さえ常に正しいわけではないのが、商売の難しいところだ。
人は何かを買う時、無意識のうちに「内的参照価格」、つまり「このくらいまでなら出せる」という金額にモノの値段を照らし合わせるという。エルメスで服やカバンを買うときは「20万円出しても仕方ない」となる。だが、良くも悪くも「普通の服」ばかりというイメージが染みついたユニクロでは、1万円払うのも高いと感じる。どうしようもない現実だ。
「ブランドの内的参照価格が低いのに、商品の値段だけが吊り上がっていくと、客は強烈に『損をしている』と感じます。この内的参照価格はブランドイメージと直結していますが、ユニクロの場合は当然、あまり高くありません」(前出・白井氏)
ユニクロのくせに5000円もするジーンズは買いたくない—値段が許容できる水準を超えた瞬間、客はソッポを向き、何も言わず、何も買わずに店を出てゆく。
柳井社長は、かつてこう語っていた。
「ファッションブランドはありもしないライフスタイル、いわば虚像を売っているようなもの」
「(既存のアパレル産業は)まず能書きとか自分たちに都合のいい情報をつくってお客を誘導するような商売でしょ」
細かい経営方針はコロコロ変える柳井社長にあって、この「ファッション」や「高級ブランド」といったものへの対抗心、批判精神は一貫している。
だからこそユニクロはこれまでずっと、ひたすら流行り廃りのないワイシャツやジーンズ、下着などを洗練させ、大きな値上げをしなかった。その一方で、ヒートテックやエアリズム、ウルトラライトダウンといった驚くべき高機能素材を次々に投入し、消費者を楽しませることも忘れなかった。それが、庶民から富裕層まで幅広い支持を集めることにつながった。
「既得権益をぶち壊す」という時代の空気にピタリと重なっていた、柳井氏の哲学。しかし——。
「消費者は常に、ユニクロに対して『次は何をやるんだろう?』という期待感を持っています。それなのに、今のユニクロには変化が乏しいのです。
日本の消費者は、すでにユニクロの服そのものにはあまり魅力を感じていない。それよりも、ヒートテックのような『他では買えない高機能製品』を待ち望んでいる。そういう商品を次々に出さない限り、今までのような成長は難しくなってくるでしょう」(前出・長田氏)
■客は黙って去ってゆく
客というものは実に身勝手だ。どんな優れた商品にも、いつか必ず飽きる。そして「さよなら」と伝えてくれるわけでもなく、ある日突然、潮が引くように去ってゆく。
おそらく柳井氏は、こうした消費者の心の変化を誰よりも敏感に感じ取っているはずだ。しかし、画期的な商品は連発しようとしてできるものでもない。それに、ユニクロはあまりに大きくなった。攻めたくとも守らざるを得ない局面は増えている。
打開する術はあるのだろうか。前出の長沢教授は、こんな提案を寄せた。
「ユニクロの本質的な弱点は、服と言うより『モノ』を売っているにすぎないことです。せっかく世界最高峰の素材と技術を持っているのだから、今後はファッション性を取り入れるべきだと思います。新しくブランドを立ち上げ、今とは逆に、高価格でデザイン性の高い日本製の服も展開する。ユニクロブランドだけでは、海外展開を進めてもいずれ頭打ちになるのは明らかですから」
一線のモノ作り企業が高級路線を立ち上げる。確かにひとつの策だが、トヨタが北米で展開する高級車ブランド「レクサス」の苦労を見るに、その道のりも決して平坦ではないだろう。
ユニクロは今、これまでのやり方が全く通用しなくなるかもしれない、分かれ道に立っている。もう一度、柳井社長が日本人を虜にする日は来るのだろうか。
「週刊現代」2015年7月25日・8月1日合併号より
要は、スーパーの衣料品(部門)から客を奪った形となったユニクロだけど、それ以上の代物ではない、ということかな。
しまむら あたりにも同じことがいえそう。
そういえば、ユニクロでは結構買ったけど、ダメになった商品はほとんどなく、今でも大半は使ってる。この辺は、スーパーにおける、「本当の意味での安物買いの何とか」とは違う。
よって、それについてはユニクロの品質は大したものだと評価したいが、ということは、ある程度、一つの期間にまとめ買いしてしまうと、その後、ユニクロで買いたい商品は「なくなる」ということだ。
ここが難しいところだね。
思うに、ユニクロではまだまだ「売っていない商品」が結構ある。
パジャマなどがそうだし、インナー関連も不十分に映る。よって、こうした商品は、一通り売っているスーパーやしまむら などで買うしかない。
要は、高齢者層にはまだまだユニクロは浸透してないんじゃないか。
青年向けだけで通すには、多分もう限界があるように思う。