蝋梅の 香り和菓子の 味がして 辻村 拓夫
蝋梅の 挟みの音に こぼれ落ち 岸 洋子
一昨日訪れた、長年の付き合いの友人宅から、咲き誇る蝋梅の枝をもらって来た。
気のいい奥さんが、「好きなだけ持って帰って」と、のこぎりと剪定ばさみを差し出してくれた。
確かに大きく枝葉を張って、それはそれは見事な枝ぶり。花の量も半端ではなく、その芳香は思いっきり鼻孔をくすぐる。
花ビラがまるで職人芸の蝋細工みたいな質感があり、形状が梅に似た花が咲くところから、蝋梅と名付けられているが、実は梅の一種ではないことを、この歳にして初めて心得た。
植物図鑑の話ではないのでどっちでもいいようなものだが、蝋梅はクスノキ科ロウバイ属の広葉の落葉低木の一種と分類されている。
お正月を目前にして寒さが募り、花の少ないこの季節に、寒空に向かって凛と咲き、放つ芳香はその存在感をアピールしている。そんな価値を秘めているのに、花は控えめでややうつむき加減に咲くところがまた良しとされているようである。
ちなみに花言葉は「慈愛」「優しい心」「先見」「先導」などというのだそうな。
玄関の一輪挿しに挿せば、それなりの存在感を示す。大きな枝を大きな花瓶に活ければ、それはまたそれなりの華やかさと、得も言えぬ香りが見る人を包み込む。
このように考えてみると、我が人生の師匠と言おうか、理想的な生き方にも似た花であり、花ことばである。
だんだん鈍りがちな感性は、時として飽きられて来ていることを知らないわけではない。
小学生の作文に毛が生えたような、独りよがりにならないよう気を付けたい。そして今さら無理かもしれないが、歓声を浴びるに値する感性を呼び戻し、ハイレベルな仲間の一人になってみたい。愚にもつかない蝋梅考である。