読書感想234 アキレス将軍暗殺事件
著者 ボリス・アクーニン
生年 1956年
居住地 ロシアのモスクワ
邦訳出版年 2007年
邦訳出版社 (株)岩波書店
訳者 沼野恭子 毛利公美
☆感想☆☆☆
本書は3部構成になっている。第1部と第3部の主人公はファンドーリン。第2部の主人公は「白い目」をした殺し屋、アキマス。舞台は19世紀末のモスクワ。駐日ロシア大使館勤務から帰国したファンドーリンは日本人の元やくざのマサをお供に新しい勤務地のモスクワにやって来た。たまたま超一流の作家が宿泊するという触れ込みのジュッソー・ホテルに泊まることにしたが、そこで旧知のソーボレフ将軍が宿泊していることを知った。将軍が寝坊していて会うことができず、旧知の副官にも冷たくあしらわれた。そのまま新しい上司になるモスクワ総督のもとに赴くと、先ほどの副官が来てソーボレフ将軍の死を知らせた。死因は心臓麻痺と報告したが、ファンドーリンは納得せず捜査に乗り出すことになる。現場検証をおこなったファンドーリンの結論はホテルで亡くなったのではなく、別な場所で亡くなって明け方ホテルに運び込まれたというものだった。
ファンドーリンは貴族の家柄で26歳の美青年。パリのファッション雑誌から抜け出したようないで立ちで人目を惹く。ギムナジア(帝政中学校)を卒業後モスクワ警察に配属され、数々の難事件を解決して昇進し、勲章を授与されている。
マサは背の低いがっちりした体格で柔道がめっぽう強い。二人は日本語で話している。
グクマーソフ大尉はファンドーリンの捜査を妨害すべく、同僚とともにファンドーリンに決闘を申し込む。
マドモアゼル・ワンダはリガ出身のドイツ人の美人歌手。将軍が亡くなる前に夜を過ごした女性。
エカテリーナ・ゴロヴィナはミンスクの女子中学校の教師。将軍の愛人だったが、最近喧嘩別れした。将軍が財産を現金に換え100万ルーブルを鞄に詰めて持ち歩いていたという情報をファンドーリンにもたらす。
小柄なミーシャは金庫破りの名人。カバンを盗む。
ドルゴルーコイ・モスクワ総督、 フルティンスキー諜報部長、カラチェンツェフ警察本部長官、グルーシン元警部、キリル大公など一癖も二癖もある面々。
クナーベはドイツの諜報部員で、ワンダと関係を持っていたが謎の死を遂げる。
クロノフはドイツの商人で正体不明。
アキマス・ヴェルデは白い目をした殺し屋。父が「キリスト兄弟団」のメンバーで宗教上の理由でプロイセンからロシアに移り住んだドイツ人。母はチェチェン人。
解説によると、作者のアクーニンは日本語の悪人をもじってつけたペンネームだという。もともとは日本文学者で日本文学に造詣が深く、アクーニンの筆名で書いた小説がベストセラーになり、今では超人気作家だそうだ。特に「ファンドーリンの捜査ファイル」シリーズが一番人気だとか、本書はその第4作だそうだ。
いずれにしても第1部と第3部のユーモアあふれる筆致で描かれる登場人物には思わず笑ってしまうが、第2部のアキマスは悲劇的で悲しみが溢れている。笑って泣いてという構成になっていて、1冊で2冊分の読書をした気分になり、多様な民族的歴史的背景をもつロシアならではの物語だと思った。